音響を中心に、テクノロジーとデザインの技術を取り入れながら新たなコミュニケーションの体験を模索し、生み出している滝戸ドリタさん。今回採択された『「shuttlecock Dialogue」と「人工筋肉学校」』(仮)は、ふたつの企画です。ひとつは、自身が発する声に反応する装置から、その言葉の存在や影響に気づく「瞬間」をつくり出そうとする試みです。同時にロボット工学に縁のないアーティストが作品にロボティクスを取り入れるきっかけになるような「人工筋肉学校(企画時と変更して「生命と機械の学校」として実施)」を開催します。​​
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アドバイザー: 久保田晃弘(アーティスト/多摩美術大学教授)/磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

テクノロジーが作品の限界にならないように

滝戸ドリタ(以下、ドリタ):最初に、つくってきたものについてお話しします。

─資料を見せながら説明しました。

ドリタ:作品につけたマイクに向かって喋ると、音によって羽が動き、自分の声が戻ってくる仕組みになっています。今後は、この動きに「生物とのコミュニケーション」を取り入れていきたいです。声や動作によって反応が変わることを目標にしています。また、感情を表す動きも取り入れようと思っています。例えば「愛情」だと鳥の求愛ダンスのように、ふたりで呼応するような動きを検討しています。
もうひとつはアニメーションの手法をお手本にしたいと考えています。アニメでは、言語を介さずとも動きで感情を表現する手法が使われているからです。たとえば『となりのトトロ』で、トトロがビクっとする動きは、気持ち悪さや恐怖が伝わってくる。。こうしたさまざまな手法を参考に、作品の表現を考えていきたいです。
今回「人工筋肉学校」にも協力いただく東京大学でロボティクスを専門分野に研究をされているの新山龍馬さんに相談したところ、人工筋肉はプロトタイプでお見せしたような早い動作には向かないそうで、ほかの方法も検討しています。使用を予定している人工筋肉は「SMA」という形状記憶合金で、音も出ないので良いのではないかと。こちらも先ほどの動画にあったようなブルブルする動きは難しいので、別の技術や方法で振動を取り入れた方がよいかもしれません。

久保田晃弘(以下、久保田):技術的な戦略としては、人工筋肉ひとつにこだわってつくっていくよりも、さまざまな素材を適材適所で使うことで、多様な動きを表現できると良いでしょう。「人工筋肉学校」のなかで、そうした技術の組み合わせについても検討できると思います。技術的にできることが作品の限界にならないようにしたいですね。

ドリタ:はい、技術があるから作品をつくるというようなことにはならないようにしたいと思います。
人工筋肉「SMA」を展示で使うとすると、伸びきってしまうこともあってメンテナンスも大変そうです。新山さんとも相談して、検討していきたいと思います。

言葉を発しづらい現代社会に対して

久保田:そもそも「コミュニケーション」や「感情」とは何でしょうか。人間の感情は、愛や恐怖のようなクラスターに分けられるかもしれませんが、ほかの生物がそのように分類できるかどうかはわかりません。人間のメタファーで動物を理解していいとは思えません。

ドリタ:その点も興味があり、獣医学部にリサーチに行くなどを予定しています。

磯部洋子(以下、磯部):『バウリンガル』(犬の声を人間の言葉に翻訳する商品)のようなデバイスもありますが、あくまで人間側の解釈で感情を理解するものです。動物だけでなく、同じ人間でも国や立場などの違いから、感情表現や意思疎通は違うこともありますよね。

久保田:自分が経験していないことをいかにして想像するかは、いまは社会の大きなテーマですよね。ドリタさんの作品が面白いと思うのは、エモーショナルやコミュニケーションの話と、人工筋肉やセンサーといったテクノロジーや技術を繋げようとしているからです。今までに見たことのないようなつながり方をすると面白いですね。あらゆるものには、その外見からはわからない「こころ」と呼ばれる内部状態がある。こうしたことを射程にいれて、「見える」「伝わる」ことに、一体どういう意味があるのかを、さまざまな技術を使用して見せてもらいたいです。

磯部:「学校」といった機能性があることをするときに、ビジョンや社会的な意義が言えると、より共感性が高まると思います。アーティストがテクノロジーをどのように使うのかを見せられれば、これから私たちがどのようにテクノロジーと生きていくのかを考えることにもつながります。

ドリタ:もともとこの作品をつくろうと思ったきっかけは、今の世の中は言葉を発しづらいと思ったことです。共感できないこと、自分のわからないことを叩く風潮があるので、黙ってしまう人が多いのです。そのなかで、もう一度自分の声の力を信じることや、自分以外のあらゆる動植物の感情を考えるきっかけにもなったらいいなと思っています。さまざまな考えの人がいるなかで、全く知らない人や世代や立場を超えて話せるツールになれたら。そうしたきっかけを少しでもつくれるようにしたいです。

学校で伝えたいことを設定する

ドリタ:次に学校についてですが、まず新山さんのワークショップを実施することになりました。最初に1時間、人工筋肉の歴史を話し、現在の人工筋肉の使われ方を解説してもらいます。残りの1時間で、人工筋肉を実際に動かすワークショップをします。イベントの場所は渋谷のFabCafe Tokyoに相談していて、全面的なバックアップをもらえそうです。
新山さんのワークショップでは、(ビニール袋などを熱で封をするときに使う)シーラーでパウチ加工をする過程を見せて、人工筋肉が縮む仕組みを理解してもらう予定です。ただ、人工筋肉の技術の使い方を教えるだけの内容になってしまいそうなことが検討事項です。

久保田:技術を別の視点からみることが重要で、ドリタさんには、ぜひ技術の意味を解体してもらいたいです。それは具体的には、コミュニケーションという他者の視点からの解体になると思います。ゴムのフニャッとした動きが感情に見えた時に、一体何が起こっているのかを考える、だとか。

磯部:どちらかといえば、人工筋肉の動きを実際に見せて「あなたはこの動きをどのように感じましたか?」と聞いてみる方が、コミュニケーションの幅を広げる目的に合っていると思います。

久保田:学校であるとすれば、入試/カリキュラム/シラバス/教科書/卒業要件をつくってみるのはどうでしょうか。シラバスやカリキュラムは、たとえ学校がなくなったとしても残ります。バウハウスのカリキュラムの課題内容はいまでも残っている。同様に、ドリタさんの授業でどんな課題が出て、学生が何をつくったのかを残していくことが大事です。

ドリタ:カリキュラムと課題は、私がここで何を育みたいのかを考えるうえで必要ですね。

久保田:入試は学校と学生の最初の共通言語です。理系の学科であれば数学、美大であればデッサンが入学時の共通言語になります。それに対して、卒業要件はゴールの設定です。卒論を書いてほしいのか、作品制作をしてほしいのか、それとも他の何かなのか。入口から出口への道のりをハッキリさせるという意味でも、入試と卒業要件を明確にすることが重要です。

ドリタ:生物的なものをつくることについて、自分の考えを出せる場になれば良いと思います。

磯部:カリキュラムについては、何を汲み取ってもらうか、どんな力をつけてもらうかを定義した方がいいですね。それが定まると、学校での生活やドリタさんが何を教えたいかも定まることにつながる。自ら学ぶ力や、自ら知って表現する力が生まれてくるでしょう。

ドリタ:学校の1回目のワークショップは新山さんによる技術の話なので、2回目、3回目のワークショップでは技術とどう向き合っているのか、どのように感じて制作をしているのかを伝えていきたいと思っています。講師の方は現在検討中です。次回の面談までには、プロトタイプをお見せできるようにしたいと思います。そこでアドバイスをいただいて、最終までに量産していくスケジュールにしたいです。学校の方は、授業をしてもらう人を決定し、授業の内容、カリキュラム、入試について検討していきたいと思います。

─次回の中間面談では更新したプロトタイプと「生命と機械の学校」の内容が提示される予定です。