​​2004年に描き下ろし単行本『凹村戦争』でデビューしたマンガ家の西島大介さん。文化庁メディア芸術祭では、『凹村戦争』、『すべてがちょっとずつ優しい世界』『ディエンビエンフー TRUE END』 がマンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれています。本企画『「世界の終わりの魔法使い」新三部作』は、独立したマンガ制作環境と電子書籍によるセルフ・パブリッシングの可能性を探る試みです。​​

​​アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)/磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

昨今の出版事情と、電子出版の可能性と

西島大介(以下、西島):近ごろの出版状況と電子書籍の広がりを踏まえて描き下ろしの新作を電子書籍でセルフ・パブリッシングするという挑戦をしたいと思っています。
今回制作するマンガは『世界の終わりの魔法使い』というシリーズの新作『5』で、1作目は2005年に刊行されています。別の作品に取り組んでいた時期もあったので、シリーズの前作『4』から数えてもかなりの間が空きました。僕の頭の中ではずっと続いている作品なのですが、出版社としては何年も空くと、続編を出すのが難しくなります。出版社で企画が通らなかったことが今回の支援に応募のきっかけになりました。
また、僕はこれまでいろんな出版社から刊行してきたので、作品の権利もばらばらになっています。紙の本で「全集」を出すことはとても困難だと思いますが、電子書籍なら可能かなと思いました。
出版や書店が縮小する中で、ビジネス的判断から埋もれていく才能はたくさんあると思います。僕も危機感はあります。そうした作品の受け皿としても、電子出版に大きな可能性があると思います。特に、決して売れ筋ではないけれどクリエイティブな作家が生き残る術があるかどうか。その実験として、出版社を経由せずに自分自身が版元となって作品を世に出せるか試してみたいです。
先行して11月半ばに西島個人(発行所は「島島」名義)で『ディエンビエンフー 完全版』12冊を電子書籍としてリリースする予定です。そこでのリアクションや、売り上げの規模などのデータを取りたいと思っています。

また、今回制作する『世界の終わりの魔法使い5』の進捗としては、実は出版社への企画立案時に既にネームは完成していて、第1話のペン入れに取り掛かっているところです。個人で電子出版するにあたり、特にプロモーション面が弱いと思うのでアドバイスをいただきたいです。

─ネームを見ながら面談が進みました。

しりあがり寿(以下、しりあがり):作品制作については特に言うことはないですね。ただ、先ほどおっしゃった出版の問題は、今のマンガ家の皆が抱えているものだと思います。僕も本はあまり売れず、ほかの仕事もしています。「出版社がなくなったときマンガ家にできること」のモデルロールとなり得るか。今回は期間が半年なので多くのことをできるわけではありませんが、何か目標を絞って、将来に役立つ知見が見つけられたらいいですね。

磯部洋子(以下、磯部):今回の取り組みが、ほかのマンガ家にとっての指標となればいいですね。

西島:実は、ほかの作家さんにも経験を共有できるように、pixivFANBOXで制作手記をまとめながら進めています。電子書籍の作り方の、ドキュメンタリーです。でも、僕の考えとしては、極論かもしれませんが、出版は孤独なものであっていいと思っています。今乱立する電子書籍の代行会社や、出版エージェントの多くは、広くマンガ家に呼びかけてコミュニティを広げようとしていますが、それには疑問があります。それは本を読む体験は、とても個人的なものだからです。

「世界観ブック」をつくる

しりあがり:先ほど「プロモーション面のアドバイスを」とおっしゃっていましたが、プロモーションについて考えるのはこの段階ではまだ早いかもしれません。また、プロモーションのやり方はケースバイケースである上、時代によっても変わります。そのノウハウを西島さんが身につけるよりも、個人がマーケットをどう確保するかというところを、もう少し原点に戻って試験的にやっていくといいかもしれません。
マンガを描くだけではなく、例えば西島さんの作品の世界観を浸透させる「世界観ブック」みたいなものを別途つくってみてはいかがでしょうか。あとは海外に目を向けてみてもいいかもしれません。海外ではビジュアルに個性があるマンガの方が受け入れられやすいので、西島さんの作品は海外向きのような気がしますが。

西島:実は今、『ディエンビエンフー』に関して海外の出版社と直接契約を結んでいます。それが電子書籍化を考える大きなきっかけにもなっています。今まで海外版は出版社の海外ライツ事業部に一任していたのですが、『ディエンビエンフー』は雑誌休刊があり、打ち切りで移籍をしているので権利が散らばっています。出版社の海外ライツからは辿れず、直接僕のところへイタリアの出版社からコンタクトがありました。英語でやり取りを経て個人で直接の契約を結ぶことができて、細かい要望も通ったので、これは資産運用かもしれないぞと。その経験を経て、今回の電子書籍のセルフ・パブリッシングという発想があります。

磯部:電子出版のサービスは数多くあり、それぞれリーチする対象が異なると思います。西島さんの作品は、どれくらいの年齢層の方に受け入れられそうですか。

西島:年齢層のデータはないのですが、届いてほしい層は、「絵は知っているけど、買うまでには至っていない」という方たちです。配信することで様々な人の目に触れ、手に取ってもらう機会が増えたら嬉しいです。

作品の権利をシェアすることの可能性

磯部:今、各分野でどんどん「個人」に権限が移っていて、様々なことをマルチにできる人が、新しい価値を生んでいる時代だと思います。マンガ家さんの中にもご自身がSNSなどで発信する人もいますね。今回の企画は、マンガを書いて電子出版し、プロモーションするまでがひとつの現実的なゴールだと思いますが、もう一歩、違った取り組みができないでしょうか。

西島:そうですね、今はまだ何も思いつかないのですが、何かしら公共的なものにしていきたいという気持ちはあります。でもどうすればいいか…?

しりあがり:ところで僕は昔から、「ひとりマーベル」という状態に興味がありまして。アメコミ出版社、マーベル・コミックでは多くのマンガをアニメや実写映画にして成功を収めていますが、日本ではひとつの作品がさまざまなメディアに展開されるとき、誰がどうコントロールしていくのかがはっきりしていないんですよね。そこをしっかりと表現するものをつくってみてはいかがでしょうか。
例えば今回、半年かけて、「ひとりマーベル帝国の見取り図」みたいな、「絵のプレゼンテーション資料」をつくってみるのはどうでしょうか。嘘でもいいので、あとはお金があれば実行できそうなものを描いてみては。それに共感した人を取り込めるようなかたちのものができるとよさそうです。

西島:ひとりマーベル!? 個人発信でそれができたら面白そうですね。

磯部:登場人物の設定を変更する権利、髪型を変えられる権利など、いろいろな権利も考えられると思います。いろいろな人が作品を変えていけるような設定ができれば、取り組みとして新しいですね。

西島:何らかのライセンスを使って、外伝を勝手につくってもいいという状況にできると、斬新だと思います。二次創作の合法化にもつながるかもしれません。僕の作品は同人誌にもなりにくいから、二次創作とうまくつながることができれば、新たなビジネスも生まれる気がします。

しりあがり:ヒットさせることを第一目標にしていないような作品で、さらに作家独自で行うところがユニークだと思います。その分野で西島さんが活躍することができそうな気がしてきました。次回以降の面談では、外部アドバイザーとして電子出版やマンガの配信に詳しいゲストを呼ぶのもいいと思います。

西島:そういう広がりをそれを僕くらいの規模の作品でやろうというのは今まで思いつきませんでした。企画書では起業も見据えてと書きましたけど、展開によっては必ずしも起業しなくても良さそうですね。誰かに任せることも広がりを生みそうだと思います。

磯部:「起業家」ではなく、「設定制作家」「世界観創作家」みたいな職業に変えることもできますね。

西島:はい。そうした考えの方が、広がりがありますし成長できる気がします。マンガ自体の制作もこのままペースを崩さず進めていく予定なので、仕上がる段階でまたご意見をいただけたらと思います。

─中間面談までに、企画のアイデアを出しつつ、予算の使い方も含めて検討していく予定です。