今回採択された『Lasermice bicolor + conference』(仮)は、菅野創さんによる群ロボットインスタレーション作品『Lasermice』のアップデート版の制作・発表と同時に、編集者でキュレーターの塚田有那さんとともにカンファレンス、ワークショップ、ライブイベントの開催を目指しています。新作のリサーチ対象である「社会の二極化と分断」「生命の友愛的アルゴリズム」などをテーマに多角的なプログラムを発信することで、アート作品における社会発信の可能性を広く探る試みです。​​

​​アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)/戸村朝子(ソニー株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門 テクノロジーアライアンス部 コンテンツ開発課 統括課長)

『Lasermice』のアップデート

—菅野さんはベルリンからビデオチャットを用いての参加となりました。

菅野創(以下、菅野) :作品については、ロボットが発するレーザーを2色にして、色で2チームに分けます。さらに音の要素についても、『Lasermice』ですでに使っていた打撃音に加え、タンバリンの鈴の音を加えようと考えています。具体的には、タンバリンのパーツを分解し、バイブレーターにつなげてロボットの尻尾に装着しています。ロボットが鈴の音を奏でている様子と、ふたつの音色でロボットの動きをシミュレートするシミュレーターのテスト動画があるのでお見せします。

—テスト動画を視聴します。

塚田有那(以下、塚田):尻尾を振って鈴を鳴らす様子が可愛いですよね。次がシミュレーターです。2種類の音色に高低差があるので、混ざるとアンサンブルな音楽に聞こえる気がしています。

展示ではなくライブで、楽器として見せる

戸村朝子(以下、戸村):アルゴリズムが演奏する、大きい楽器のようですね。

菅野:まさしくそうです。『Lasermice』のインスタレーション展示を何度か行う中で、さらっと見てすぐ去ってしまう鑑賞者が多いことに気づきました。インスタレーションという形式にこだわらず、ライブをやるという形式にすれば、20〜30分というフレームでの体験もしっくりくるだろうし、インスタレーションではアンプ・スピーカーによる音の増幅はやらないことにしていましたが、それもライブならありかなと思いました。インスタレーション、カンファレンス、ワークショップ、ライブイベント、という今回の企画の流れの中で、最後のライブに比重を置いていきたいと考えています。

塚田:初めて『Lasermice』を鑑賞したとき、マウス(ロボット)の目線になって15分ぐらい見続けてみたんです。すると、60台ものマウスが奏でる光と音が呼び水となって、一種のトランス状態に入るような感覚がありました。このおもしろさは体感して初めて伝わってくるものであり、トランス感を引き起こす大きな要因はこの「音」にあると感じたんですね。観客が静的に眺めるだけのインスタレーション展示よりも、ロボットと人が一緒に踊るようなダンスフロアをつくりたい、というのがふたりで話した結論でした。緑と赤、振動音と鈴の音の対立関係の中に人間も混ざっていき、その音に身体を預けるような体験が最もおもしろいし、『Lasermice』の新たな可能性を引き出せるのではないかと思っています。
ロボットが今後ますます生活に浸透していく中で、人々はどのように共生できるのか、その問いに対して、人間中心で理性的に理解する考え方だけではなく、一緒に踊って身体感覚を共有してみることで感じられるものがあるかもしれない。またそれをライブという場に展開することで、作品のテーマとしても、興味深い投げかけができるのではないかと思っています。

戸村:おっしゃるように、インスタレーションだと、鑑賞者と関係を持ちにくいというか、同期しにくいですよね。今回のキーワードは「同期」なのかもしれません。これまでの『Lasermice』に、同期性と身体性という観点が入って、新たな次元にステップアップするようなイメージを持ちました。

菅野:パーカッショニストなど、アンプラグドな(電気を使わない)楽器の奏者との共演も検討中です。マウス同士が光でコミュニケーションをとっているので、共演する際にはパーカッショニストの動きでも光を操作し、相互作用をつくれたらと思っています。

しりあがり寿(以下、しりあがり):人が合わせるだけではなく、人もロボットに影響を与えるということですね。

菅野:そうですね。そして僕はコントロールから完全に離れたいと思っています。完全なシステムをつくって、そこで動いているのはロボットとパーカッショニストだけにしたい。

しりあがり:見ている人が関わるかどうか、が重要ですね。観客がマウスを踏んでしまわないかも不安になりました(笑)。そして、音楽とマウスの動きが関連しているのかどうか。

塚田:踊れる「場」の設計がポイントですよね。イメージしているのは、マウスたちにはお立ち台のような高い台を設け、人は下の階層でマウスを観ながら踊るというものです。混ざり合う没入感を感じさせながらも、階層やエリアを分けるなどして、安心して踊れるステージ設計をする必要があります。

戸村:企画全体として、たとえば建付けを変化させて、メインを音楽パフォーマンスとして考えてみるというのもありです。このクリエイター育成支援事業では、みなさんがこれまで行ってきたことをなぞる必要はありません。途中で失敗してもいいですし、安全圏に留まることなく、積極的にはみ出していってほしいと思っています。今回の企画が、作品制作に留まらないイベントというかたちでの採択になっているのも、新たな展開への期待があってのことですし、おふたりが組むことで、よりチャレンジングな方向に行ってほしいと思っています。ゆくゆくは「sonar(ソナー)」(バルセロナの電子音楽を中心としたフェスティバル)などのイベントに呼ばれるようなものになるといいですね。

菅野:そうですね。これまで展覧会には呼ばれても、作品でライブを盛り上げてほしいといった依頼はなかったので、いっそ自分でやろうと思ったというところもあります。わかりやすい実績があれば話も来やすいのではと思っています。

会場探しも「展示」ではなく「ライブ」という視点で

塚田:今一番の懸案事項が、会場です。会場によってできることが変わってくるので、早く決めたいとは思っているのですが。

戸村:芝浦にある、アマナが運営するスペース「PORT」は結構使いやすいかもしれません。2層になっていて、1階ががらんどうで倉庫のようなスペース、2階はカンファレンスなどが開催できそうなつくりになっています。各所でイベントを同時進行しても気にならない程度の余裕があります。エリア的に、音も出せそうです。

しりあがり:会場も、クラブハウスやライブ会場など、そちらに寄せてみてはどうですか。

塚田:それもいいですね。様々な会場に対応できるマウスのお立ち台セットをつくって、そのセットを持ち込んでパフォーマンスする、そんなパッケージをつくるのもありだと思います。最近、「東京都ナイトエコノミー観光施策」のように、クラブシーンとアートやまちづくりをどう繋げるかといった施策に行政なども取り組み始めています。ただ、そこでは誰がプレイヤーとなるのか、その中身の話までまだ聞こえてこない印象があります。そうした観点でも、今回の企画はメディアアートとクラブシーンの新たな融合点を見出すという意味で、おもしろい展開例を示すことができるといいなと思っています。

戸村:この事業で立ち上がった作品やフォーマットは、その後にも繋がるみなさんの引き出しになってほしいと思いますし、継続可能なフォーマットづくりを意識しながらプランニングするのも、一つの手だと思います。

塚田:加えて、多様なインプットを与えてくれそうな方々へのアプローチも進めています。たとえば生物学者の方にもヒアリングを行い、バイオロジーの視点からこの『Lasermice』を読み解いてもらうのも面白いなと。
ワークショップについても、東京大学の池上高志さんのALIFE(人工生命)の研究チームが、ぜひ一緒にやりたいと言ってくれています。一般参加を募るのではなく、もう少しコアな人たちを対象にした開発ワークショップになりそうです。
次回の面談までには会場を決めたいと思っています。成果発表の日とライブの日を合わせられる可能性もあるので、こちらの会場探しと同時進行で、成果発表の会場や日程の情報もいただければ嬉しいです。

戸村:今回、「インスタレーションではなくライブで」ということを最初に言ってくださったことで、プロジェクトの全貌が見えてきました。そこはぜひ貫いて、実現に向けて頑張ってください。

─次回の中間面談までに、ライブの会場や日程の検討を行い、その結果が報告される予定です。