音響を中心に、テクノロジーとデザインの技術を取り入れながら新たなコミュニケーションの体験を模索し、生み出している滝戸ドリタさん。今回採択された『「shuttlecock Dialogue」と「人工筋肉学校」』(仮)は、ふたつの企画です。ひとつは、自身が発する声に反応する装置から、その言葉の存在や影響に気づく「瞬間」をつくり出そうとする試みです。同時にロボット工学に縁のないアーティストが作品にロボティクスを取り入れるきっかけになるような「人工筋肉学校(企画時と変更して「生命と機械の学校」として実施)」を開催します。

アドバイザー: 久保田晃弘(アーティスト/多摩美術大学教授)/
磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

「実」のロボットと「心」のロボットを考える

滝戸ドリタ(以下、ドリタ):「生命と機械の学校」の校章を、グラフィックデザイナーの畑ユリエさんにつくってもらいました。海外の大学校章を参考にしました。磯部さんにも来ていただいた「SOFT ROBOTICS Collective 生命と機械の学校 vol.2」はおかげさまで盛況で、参加者が40名ほど来てくれました。

―「生命と機械の学校 vol.2」の映像見ながら説明します。猫が好きすぎてネコとヒトにまつわる研究者になった服部 円(はっとり・まどか)さん、『Qoobo』開発者の鷺坂隆志(さぎさか・たかし)さん、『Arche』開発者の鍋島純一(なべしま・じゅんいち)さん、『aibo』のプロジェクトに関わるソニー株式会社の長江美佳(ながえ・みか)さんらが登壇したイベントの様子が流れています。

ドリタ:それぞれの視点から「人とロボットがどのように生活するか」という話を聞くことができました。例えば、鍋島さんは別の視点からお話されていて人間の機能を拡張するために、生物模倣を研究しながらいままでにない機能を実現しようとしています。イベントの最終には生き物らしさに止まらず、ロボットの死やロボットにおける内臓の意味とは? という話まで出てきて、多様な視点が生まれたイベントになりました。
私からお題として提案させてもらったのは「実のロボットと心のロボット」についてです。「実」というのは産業ロボットなど何かを実利に役にたつロボットで、「心」は『aibo』のように心に作用したり、助けたりするロボットです。後者はこれからますます必要になるのではないか、という話から始めました。テクノロジーの進歩のなかで、生物学の研究は動物の心の環境という謎を解きはじめているようです。「コルチゾール」というストレスホルモンや、「オキシトシン」という幸せホルモンの数値を測ることで、動物がどのように感情を動かしているかを測ろうとしているということ。そういった研究を活かして人とロボティクスの関係やロボティクスで何ができるのか、人間とロボットの生きる場所をいかにつくるかという試みがこれから増えていくのではないか、と思いました。今回みなさんの話をきき、こうしたことをテーマにしたロボットの開発も確実に増えていくと思いました。

一方向にならない学びの設計を

ドリタ:「生命と機械の学校 vol.3」は、例えば30年後や100年後など、未来を妄想することから、想像力を広げられる場所にしたいと考えています。小説家やアニメーション作家なども交えていきたいと思っていましたが、とても悩んでいます。今未来を語って、その未来に本当に自分が納得できるのかな、と。

久保田:その悩みはとても大切な視点です。遠い未来を考えるのは逃避であり、むしろ楽なことです。大抵は男性たちの極論合戦になってしまい、議論が一気につまらなくなってしまいます。

磯部洋子(以下、磯部):vol.3に受講生として参加される方は、初回と同じ方々を想定していますか。

ドリタ:初回から連続で参加される人は半分くらいで、半分は新しい参加者ですので、同じような割合を想定しています。

久保田:学校は続けることに意義があるので、なるべくリピーターを大切にして、深く長く続けていくのが大事だと思います。継続して参加してくれたことで、少しでも「人間や動物の見方が変わりました」という意見が出てくるといいですね。初参加の人とリピーターがお互いに議論を始めるのが理想だと思います。そうした場や関係のつくり方を、vo.3でチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

磯部:できればワークショップも、グループで取り組む形にしてはどうでしょうか。初参加の人とリピーターを同じテーブルにして、最後に成果を発表しあう。そうすれば自然な学び合いが生まれやすくなると思います。

久保田:そのときに、ドリタさん自身が、つくりたいと思っている作品について話してみる。つまり、なぜドリタさんがこうした活動をしているのかを伝えていくことが重要だと思います。

ドリタ:生徒同士の会話が生まれるなど、「教える」という一方通行の関係性は終わりにしていきたいと考えています。

磯部:学びの設計は、一方向になるのはよくないと言われています。ドリタさん自身も参加者であるというフラットな関係性になるといいですね。登壇されるゲストも同じテーブルに入っていくとか。受講生のみなさんがすでにコンテンツを持っているので、すべてのコンテンツを用意する必要はないと思います。また、ソフトロボティクスによる表現の裾野を広げるのも学校の目的ですよね。そうしたアートとして表現していきたい受講生はいますか。

ドリタ:すでに参加者の中にも数名います。その方たちが続けて参加してくれています。

磯部:ソフトロボティクスを使った作品が世に増えるような成果が出せると、この学校の目的が明確になると思います。アーティストだけではなく、実装者や研究者、子供たちなどさまざまな参加者たちとフラットな車座スタイルで考えていく。そこでの知見の可視化が次につながると思います。アンケートなどのフィードバックや生まれたものが可視化できると次につながりやすい社会実装になるのかなと。例えば、「植物の筋肉とは?」という問いを投げたらこんな回答が集まった、というような知見だと思います。

ドリタ:学校に参加するバリューが伝わりやすくなるといいですよね。Facebookのページも立ち上げました。

磯部:ひとりだと大変なので、運営を支えるメンバーと一緒にできるといいと思います。

久保田:例えばステッカーをつくるのはどうですか。それを貼ることで当事者意識が芽生えてくるかもしれません(笑)

もしも植物が筋肉を持っていたら

―次に、ドリタさん自身の作品の進捗について報告しました。

ドリタ:リサーチのなかで感じたことは、生物を模倣したロボットは、人間にはない機能を追加しているということでした。自分にないものを獲得する、失ったものを取り戻す。「その方向性は本当に正しいのか」と考えたときに、もともと筋肉を持っていない植物に筋肉を持たせたら何が起こるかを考えると、ロボティクスが向かうべき未来が少し見えてくるのではないかと思いました。「人間が他の生き物の機能を持っていたら」という想像よりも、「筋肉がない植物が筋肉を持ったら」という想像のほうが植物が相手なので、そのロボティクスや機能が本当に必要かどうかまで考えられます。

久保田:その発想は非常におもしろいですね。動物は形を変えないから動いて生き延びる。植物は動かないから形を変える。その違いを逆から見てみた感じです。植物を植物のままロボットにするのは難しそうなので。
専門的な技術がともなう作品をつくるとき、最初の段階でリサーチやフィールドワークを、ワークショップという場で行うのはいいと思います。そこで得た知見は参加したみんなのものなので、すべてを共有することが必要不可欠です。

磯部:たしかにコレクティブの共有知として作品を考えるのもいいですね。植物の筋肉というテーマはとてもアーティスティックな発想です。ロボットを実装しているエンジニアや量産品をつくっている人にとっては、興味があったとしても探求できないこと。問いとしても非常に魅力的です。アーティストならではの問いが設定されているので、アウトプットも実装者やエンジニアと一緒につくるのもいいと思います。

久保田:植物が知性を持っているとしたら、植物型AIの可能性もありますよね。

ドリタ:「生命と機械の学校 vol.02」に聞く側で参加してくれた東大の植物形態学研究者切江志龍さんに、「筋肉をもった植物は、どうすると思いますか」と聞いてみたら「たぶん動かないと思います」と言っていました。「筋肉を持ったとしても今の生活を選ぶと思うので、動物のように動く必要はないのでは」と話をしていました。私の問いが無駄になりそうな回答で、すごくおもしろいなと思いました。

久保田:「植物を動かしたい」というのは、植物の動物化ですよね。そうではなく植物を植物のままロボットにするには、という視点で考えたほうがいいと思います。例えば太陽を向くように動く植物にとって、その動きは動物の筋肉によるものとは違うものでしょう。「ロボット=動物」という固定概念があるなかで、あえて植物を持ってくることに意味があると思います。

ドリタ:その固定概念を取り払うトリガーになるような作品をつくれたらいいなと考えています。実用性があって役に立つものがロボットと思われがちで、その部分が大きくなっていくよりも、一見すると役に立たないロボットも同時に必要なものだと思っています。

久保田:ドリタさんの問いに対して、山下正男さんの『思想としての動物と植物』という本は参考になるかもしれません。

―作品のプロトタイプを動かしながら説明します。

ドリタ:これは葉脈のドライフラワーをシリコンにつけて、バイオメタルの人工筋肉で動かしています。

磯部:これはワークショップでもつくることができるのですか? とてもきれいですしおもしろいので、ワークショップでつくることができるといいですね。

ドリタ:動きとしては「ウミユリ」という悪夢をみているような植物があり、それくらい動かせたらいいとは思いますが理想です。成果発表では、デモ版や習作のようになるかもしれないですが、何点か出せるようにします。

—「生命と機械の学校 vol.3」の開催準備を進めながら、成果発表に向けて作品のデモ版を制作する予定です。