2004年に描き下ろし単行本『凹村戦争』でデビューしたマンガ家の西島大介さん。文化庁メディア芸術祭では、『凹村戦争』、『すべてがちょっとずつ優しい世界』『ディエンビエンフー TRUE END』 がマンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれています。本企画『「世界の終わりの魔法使い」新三部作』は、独立したマンガ制作環境と電子書籍によるセルフ・パブリッシングの可能性を探る試みです。

アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)/
磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

個人出版ならではのライセンスを電子書籍に実装

─西島大介さんはビデオチャットで参加しました。

西島大介(以下、西島):今回のプロジェクトはもともと『世界の終わりの魔法使い5』の制作と電子書籍のセルフ・パブリッシングが最終目標でしたが、面談を重ねるなかで、同時に「公共化」について強く考えるようになりました。個人出版レーベル「島島」からは、『ディエンビエンフー 完全版』12巻に続いて、新刊『アオザイ通信完全版』3巻をリリース済み。3月には『世界の終わりの魔法使い 完全版』として新たに3冊をリリース予定です。『ディエンビエンフー 完全版』には実験としてクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(作品制作者が著作権についての条件を意思表示するツール)を実装しました。この試みに対する反応は好意的だったので、それを発展させて、今回のプロジェクトの出口として、個人電子出版レーベルの立場で「公共化」を最大限に発揮するデジタル上の許可証を『世界の終わりの魔法使い』電子版に実装します。物語や設定、キャラクターや図像を公共化する作者発信のライセンスで、名前は『影の魔法のライセンス』と言います。
『世界の終わりの魔法使い』自体が「影」というコピー、複製を肯定する物語であり、また、僕自身がこれまでさまざまな芸術家や表現者の影響を少なからず受けてきたことへの問いから生まれた物語でもあります。そこで、強く「複製を促す」ライセンスがいいのではないかと考えました。ユーザー目線でどうしたら楽しんでもらえるかを考えて、複製の数によって3段階の「魔法レベル」を設定しました。草稿はこんな感じです。

・Copy-1(魔法レベル1)
複製数1〜10は「アート」と考える。『世界の終わりの魔法使い』の物語や図像を活用して作品の制作と販売ができる。売買が成立した場合にのみ、売り上げから30%を支払う。

・Copy-10(魔法レベル10)
複製数11〜100は「グッズ」と考える。『世界の終わりの魔法使い』の物語や図像を活用して作品の制作と販売ができる。島島にサンプル1点を提供する必要がある。

・Copy-100(魔法レベル100)
複製数101〜1000は「広告」と考える。『世界の終わりの魔法使い』の物語や図像を活用して作品の制作と販売ができる。何の制限もなく、報告の義務もない。複製数をカウントできないネット上の作品発表や販売もこれに含まれる。

初回面談で、しりあがり寿さんから「『ひとりマーベル』っていいんじゃないか」という話がありました。ひとつの作品をさまざまなメディアに展開するときに、契約書をその都度交わし、大手出版社のように集権的に権利を管理するのではなく、僕の作品の権利を自由に使ってもらって、皆で「マーベル化」していくのがいいのではと考えました。

しりあがり寿(以下、しりあがり):いろいろ考えられていて、興味深い内容ですね。気になるのは、ライセンスの対象は何なのかというところです。キャラクターなのか設定なのか? そのあたりはどう考えますか。

西島:ほかの事例もリサーチしてみたのですが、僕の場合は絵だけではなく物語の設定もライセンスに含めたいと考えています。図像の引用元は電子書籍のみに限り、物語の設定もそれに準じるかたちをとります。できるだけユーザーに便利屋のように設定していて、僕としてはグッズをビジネスにするのではなく、最低限「島島」の電子書籍にたどり着いてくれればOK。ライセンスが個人の創作意欲の応援につながればいいなと思います。僕のマンガって二次創作が少ないんですよね。ライセンスというと硬めな印象ですけど、「作ってもいいよ」という合図になればいいなと。

磯部洋子(以下、磯部):お金を介さないところが今の時代に合っていますね。また、クリエイションを促す仕組みになっているところがいいと思いました。真似から始めることで、後進のクリエイターも最初の一歩を踏み出しやすいと思います。無形遺産として、一体どこまでが権利として認められるのかは、多くの人が興味のある部分だと思います。成果発表では、今回得られた「学び」も可視化できるといいのではないでしょうか。

西島:そうですね。ライセンスはやや難解なので、伝えることは必要だとは思います。また、「影の魔法のライセンス」が実装された電子書籍『世界の終わりの魔法使い 完全版』1-3巻は、成果展スタートの日にリリースすべく制作中です。成果展が始まると同時に、電子書籍が配信されライセンスが公布されたことになるはず。間に合うと思います。

皆が使いやすい仕組みをつくる

しりあがり:僕がこうしたプロジェクトに参加する動機があるとしたら、「普通なら保護されているものが自由に使える」「それを使うとすごくおもしろいものがつくれそう」などでしょうか。日本はそもそも二次創作の自由度が高いので、前者はいまいちはっきりしないかもしれません。後者のようなご褒美があると、乗りやすい気がします。中間面談で見せていただいたボードゲームなどは、とても興味を引かれました。今回のプロジェクトは、広げる仕組みの提案と、広げたときのおもしろさを表現することの、双方が並行してあるのかなと思います。

西島:制作中のボードゲームは、「このライセンスを活用して作られた」という見え方にしようと思っています。個数的には「魔法レベル10」か「100」ですね。実際に遊べるゲーム、作品ではあるけど、「こんなふうにライセンスを使ってね」という作例でもあります。。ライセンスは押し付けだと機能しないし、まだ草稿段階なので、これをどうやってわかりやすくユーザーに伝え楽しんでもらえたらいいかか……。個人電子出版を始める際に、出版社との契約を見直しているので、『世界の終わりの魔法使い』シリーズに関しては権利を持つのは現状「島島」だけです。多くの作品を管理する出版社にはできないことを、個人出版の立場でとことんまで実行できるのはとても楽しいです。ダメなこと、ビジネス的にアウトな事をやってみてもいいのかもしれません。

磯部:確かに、通常だったら絶対あり得ないことを探す行為だともいえます。私なんかはマンガを描けないので、商品開発時にパッケージや販促物などに使えたらいいなと思います。何千部も刷るような新商品のパンフレットにコピー&ペーストして、吹き出しの中だけ書き換えることも、今回のライセンスなら可能になってきますよね。

しりあがり:僕はね、海苔をつくりますよ(笑)。キャラクターの影の形で焼き海苔!

西島:海苔!?

磯部:いいですね! 海苔メーカーがパッケージに使ったりして。それを手にとった人が電子書籍を買うかもしれませんね。

西島:個人・法人を問わない方がおもしろいでしょうか。大企業と組もうという規模ではないので、対象は「個人」として実は企業や団体は外して考えていました。入れたほうがいいのかな? リリースに向けて、もう一段階検討を重ねたいと思います。

磯部:西島さんの普段の創作活動から考えると、今回、職能としても全く異なることにチャレンジされているので苦心するのも当然だと思います。私はどちらかというと仕事柄、機能的な部分の問題解決をすることが多いので、その目線からの質問ですが、「Copy-1」「Copy-10」「Copy-100」という数字や仕組みに、どれだけ合理性があるのでしょうか。作品の規模感やファン層から、このくらいの数が取り組みやすそう、とのことなのかもしれませんが、例えばこのライセンスをほかの作品に転用したときに合理性がなくなってしまう可能性もあります。そうしたことも踏まえて考え抜かないといけないと思います。ただ、掘り始めるとそれだけで大変になってしまうので、もし可能であればで結構ですが。

西島:そうですね、ほかの作品に転用した場合の合理性はないかもしれません。大きな作品に適応させると、出版社は損ばかりしそうです。でも僕くらいの規模には向いています。不慣れなことなので、ライセンスの設計は大変だなと感じました。最初は「1000」のところを「無限」にすることも考えたのですが、結局はきりのよさでまとめました。昨年、紙でつくった『世界の終わりの魔法使い5 私家版』の部数とそのはけ具合や、最近はグッズ制作のサービスが細分化して小ロットでも可能なことから、これくらいの数が妥当かなと考えました。また、複製数が増えれば増えるほどライセンス利用がお得になる仕組みも、創作意欲を促すきっかけになるかなと思いました。

「広げる仕組み」も作品の一部と捉えたら

しりあがり:ビジネスを一旦脇に置いておいて、もしこのプロジェクト自体も作品の一部と捉えたら、それこそ、影をこの現実世界に広げる手段ともいえます。さっきお話を聞きながら思い付いたんですが、影の世界の権利を片っ端からとっていくとおもしろいかな、なんて。つまり、有名なキャラクターなどの「シルエットの権利」だけをとっていくのはどうでしょう。どうやったらできるのか分からないので、半ば冗談ですが(笑)。例えばそういう振る舞いが、西島さんの世界を理解させるきっかけになる気がします。「この世界を影だらけにしてやるんだ、そのためにはこういうプロジェクトをやるんだ」と。いわば「悪巧み」のひとつだと思えば、もうちょっとまた違うあり方が見えてきます。

磯部:「悪巧み」、いいですね! クスッと笑えて。

西島:おもしろそうですね。作品の中にも「世界を壊す」という破壊的な的なスピリットがあるので、そういう方向性もありだなと考えています。なので、ライセンスの条文は実は詳細ではなく、解釈のゆとりをもたせてあります。ざっくりしています。出版社のようにガチガチに防衛するのではなく、個人出版の気楽さで、もしトラブルが起きたらそのリスクは僕が負って対話すればいいかなと。ユーザーの使いやすさ重視です。。いま、『ディエンビエンフー』を海外で出版する計画もあるので、国内だけでなく国際的なライセンスのあり方も検討したいです。

磯部:今年度の「海外クリエイター招へいプログラム」で、英国のタラ・マキネニーさんが日本の二次創作文化を研究しています。英国では二次創作に対する制限がとても厳しいようです。もし彼女との交流の機会があれば、刺激のあるものになりそうです。仕組みそのものの合理性を高めていくよりは、著者発信ならではの「愛される動機」と、創作活動がひとりで完結するマンガ家だからこそできるライセンスの提案という視点でお話しされれば、興味を覚える外国人の方々も多いのではないでしょうか。

しりあがり:革新的な魅力が伝わると、人々がつくり始めてくれるのだと思います。いずれにしろ、やっていることが相当おもしろいので、たとえきれいにまとまらなかったとしても軌跡を見せていただけたら、いろいろな人にとって刺激的な展示になると思います。

西島:二次創作を促すライセンスなので、重なる部分は多そうですね。また、成果展では実際にボードゲームで遊んでもらうことができないので、成果展と同時期にワタリウム美術館の書店オンサンデーズで「試遊カフェ」を開催する予定です(試遊カフェの記事はこちら)。自主企画「無理ない範囲の勉強会」も4回までの開催が決まっています。足並み揃ってきましたが、電子出版業務に追われ『世界の終わりの魔法使い5』のペン入れだけ、今月遅れがちです。

─今後は、成果発表に向けて、ライセンス設計の最終調整を行う予定です。