サウンドと人間の関係、音楽がいかに私たちに影響を与えるかを問うサウンド・アーティスト、エレクトロニック・ミュージシャン集団を率いるスズキユウリさん。難読症の人でも視覚からダイレクトに音楽を生み出すことができる方法として、共感覚を用いて色や形を音楽に変換する『Colour Chaser』を2008年に発表しました。今回採択されたプロジェクトでは、その量産に挑戦します。

アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/山本加奈(編集/ライター/プロデューサー)

製品としての安全性

山本加奈(以下、山本):今回のプロジェクトの目的は、量産のためのノウハウを培うこととその実現に向けた支援をすることです。このような実務的なプロセスに関して、知りたいアーティストも多いと思います。
 
スズキユウリ(以下、スズキ):今回とくに未知数なのが、メカニカルな部分の安全性ですね。例えば、鋭利な部分が子供には危ないなど、さまざまなケースを踏まえてインターフェイスやコンテント(内部構造)のデザインを考えなければいけない。
 
磯部洋子(以下、磯部):私は長くプロダクトの商品企画に携わっていました。スズキさんも経験は積んでいると思うのですが、ものづくりの予算やコストに関して経験がある方、肌感のある方が周囲にいらっしゃるのでしょうか。
 
スズキ:現在、別件のプロダクトでセーフティテストについてやりとりを行っているので、その辺りのノウハウは増えつつある状況です。安全性については、工場と連携をとって進めていかなくてはと考えています。
 
磯部:そうしたことをコンサルティングしている会社もあるのですが、費用が高額になってしまう。この辺りが、今回のサポートプログラムで賄われていくのだろうと思います。
製品安全に関する規定は各国で違いがあります。環境適応性のある素材の使用が求められるのかということや、パッケージに必要な記載事項などは、工場にヒアリングできていますか。
 
スズキ:今回は実店舗ではなくクラウドファンディングのウェブサイト「Kickstarter」経由で販売します。Kickstarterはエリアによってレギュレーションを変えることができるので、販売エリアは相談しながら考えていきたいです。現在おおよその見積もりが出ていますが、最低でも3,000個オーダーしないと生産ができない。その額を埋めるためにはヨーロッパはマーケットが小さいので、アメリカまで販売エリアに入れないと難しいと思います。それと日本も販売エリアに含んでいます。
 
磯部:レギュレーションは日々アップデートされるので、マーケットを考えると、まずはヨーロッパやアメリカに焦点を定めた方がいいのではないでしょうか。

マスプロダクトの生産体制

山本:磯部さんが実際にマスプロダクトを展開していくときに、最低限必要なチーム体制とはどのようにお考えでしょうか。
 
磯部:どの工場に発注するかに依存します。いわゆる金型屋さんのような部品を生産する工場、部品を集めてパッケージングし最終製品に近い段階までつくり込んでくれる工場、製品安全の認証取得などをケアしてくれる大きい会社などさまざまです。
『Colour Chaser』のようなプロダクトの場合は、クラウドファンディングの採算で500〜1,000個といった少数ロットになると思いますが、その場合は、そこで販売することを条件にサポートしてくれる小口のクライアントがついているケースもあります。DtoC(製造者が直接消費者と取引を行うビジネス)で販売する場合にも、小口事案を受けてくれるコンサルティング会社もありますね。
通常はメカニカルを担当する人、全体のプロデュースをする人、デザインをする人、マーケティングで販売面や広報面をケアしてコミュニケーションをつくっていく人が必要ですね。
 
スズキ:私達は、技術的なディレクターと統括ディレクター、コミュニケーションの3つの役でプロジェクトを進めていこうと考えています。チームメンバーにファイナンシャルマネジメントができる人物も在籍しています。
 
磯部:ハードウェアをつくるとき、製造物の金額に関しては、通常は30%以下の原価、モノによっては25〜10%ほどの原価で生産して、マーケティングや運送の費用が積み上がっていきます。製品をつくる段階で予算を6〜7割使ってしまうと、絶対に予算を超えてしまいます。
 
スズキ:今回計上した予算はあくまで製品を生産するまでの費用に充て、販売費用はクラウドファンディングで賄おうと考えています。今回のプロジェクトで製品を用意するまで準備ができていて、あとは販売するだけの段階まで持っていきたいです。
 
磯部:クラウドファンディングでの資金集めは今までご経験があるのでしょうか。
 
スズキ: 2011年に『OTOTO』という別のプロダクトでクラウドファンディングを行いました。そのときは準備不足だったこともあり、すごく大変でした。今回のプロジェクトでは、宣伝費や実費、開発費も含めると、合計でおそらく3,000万を超えてしまう。クラウドファンディングで賄えるのは、最大でも1,000万が限界ではないでしょうか。

メディア戦略とコミュニティづくり

山本:プラットフォームはKickstarterに一括集中するイメージでしょうか。
 
スズキ:資金収集はKickstarterが中心ですが、コミュニケーションはInstagramやFacebook、Twitterで発信していきます。新聞のカルチャー欄に掲載も検討しています。
 
磯部:ニュースバリューがあるタイミングでないと、メディアは無料で取り上げてくれません。最初に出荷するタイミングや情報解禁時に集中してメディア戦略を打たないと難しいですね。出荷の段階に集中して広報するといいと思います。
 
山本:今回のプロジェクトでは、コミュニティをつくっていくマーケティングも有効ではないでしょうか。DiscordやSlack、Podcastを使ってスタートアップを行い、ファンを増やしていく。そこからビジネスに結びつけていくのも無理のない手法だと思います。
 
スズキ:はい。クリエイティブな部分とビジネス戦略のバランスが重要なプロジェクトだと考えています。このプロダクトをアート作品としてどこまで高められるか、アートのマスプロダクションという試みです。
コミュニケーションに関しても、「こういうプロダクトを売ります」ではなく、ストーリーを重視して売り込むのが適切だと思います。プロジェクトがスタートしたきっかけは、僕自身が難読症で楽譜が読めないために、音楽家の夢を諦めた経験です。そこから難読症の人の音楽、シナスタジア(共感覚)を使ってどのように音楽をつくれるか、という方向に話をもっていきたいです。
 
山本:企画書に書かれている、展示予定として入っているパナソニックセンター東京とは、どのようなコラボレーションを行う予定ですか。
 
スズキ:パナソニックセンター東京の新たな教育施設「AkeruE」で展示予定です。世界最大規模の家具見本市であるミラノサローネにも展示予定ですが、次回については開催は未定です。ロンドンでも展示機会を探しています。それから、『Colour Chaser』がコレクションに入っているニューヨーク近代美術館(MoMA)にも、教育リソースとして寄付したいです。最初に日本で発表するバッジが200個程度ですので、それを各所に送ってプロモーションできればと考えています。
また、今回はマスプロダクションの強みとして、プロトタイプを各所に送ってフィードバックをもらうことで、製品を育てられる。そこに魅力を感じています。既存のプロトタイプを土台として、そこから1年かけてつくり上げていくプロジェクトです。何をもって成果物と言えるのか難しいのですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

—次回の面談に向けて、プロトタイプの製作、プロダクトの安全性などの検証が行われます。