TVアニメーションや広告アニメーションを手がけているディレクター/キャラクターデザイナー/グラフィックデザイナーの藤田純平さん。第9回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門奨励賞『SEASONS』、第13回アニメーション部門審査委員会推薦作品『忘却星の公式』をはじめ、多数の受賞歴があります。今回採択された『BIBLIOMANIA』は、本をモチーフにしたVRアニメーションです。ヘッドマウントディスプレイを装着して鑑賞する本作は「空間をめくっていく」VRならではの体験設計を目指します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家)/森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)

CGビジュアルを見ながら進捗を確認

―最終面談には、テクニカルディレクターの森本慧さんも参加しました。

藤田純平(以下、藤田):最終面談ではVR環境で体験していただく予定でしたが、プログラムのエラーが出てしまったため、現状のビジュアルを静止画で確認していただければと思います。以前お見せしたキービジュアルの方向性でCG制作を進めています。主人公アリスの腕は、発光したり、ダメージを受けて液体が垂れたり煙が出たりするのですが、光や煙のエフェクトをかけるとデータが重くなってしまうので、どうやったらCGが固まらずに動かせるか検証をしているところです。

―そのほか、作品のモチーフとなる本の外観や登場人物である王様のビジュアルなどを確認しました。

藤田:中間面談では、今回の作品のジャンルを定義する言葉が「VRアニメーション」で本当にいいのかという話があったので、それについても検討しました。新しいアニメーション表現を聞き慣れない言葉で言うとさらに伝わりづらくなると思うので、「VRアニメーション」以外なら「VR映画」などはどうだろうかと考えました。しかし、「映画」という言葉を使うと、受け手が「気軽に体験してみよう」と思うハードルが高くなる気がします。現段階では「VRアニメーション」のままが良いのではないかと思っています。

タナカカツキ(以下、タナカ):このプロジェクトの要は、VRによって人を楽しませる仕掛けと演出をつくることでした。先ほど見せてもらったのはビジュアルの素材ですが、鑑賞者に最後まで見てもらうには、受け手が新しいと感じる演出が大事だと思います。そうした演出の新しさを伝えられるような言葉を出せるとよいのではないでしょうか。

森まさあき(以下、森):ディテールに関しては応募時のコンセプトデザインが素晴らしかったので心配していませんが、私も演出面が気になっています。

藤田:今回の面談でインタラクティブシーンなどの進捗をお見せして意見をいただきたかったのですが、その段階に至れませんでした。インタラクティブシーンをつくるための準備で精一杯となり、実制作に進めていないのが現状です。今年の春頃までに完成させたかったのですが、このペースだと難しそうです。

タナカ:どういったことが原因でつまずいていますか。

藤田:予算的にCG制作を専門のプロダクションに依頼するのが難しい状況なので個人のCGデザイナーさんの空いた時間で制作いただいています。なので、一つのモデルを仕上げるのにどうしても時間がかかっています。プログラムについても、森本さんが試行錯誤しながらシステムを一からつくるなかで、既存のノウハウなどが使えない場面もあり時間がかかっています。

タナカ:時間があれば解決できそうでしょうか。

森本慧(以下、森本):時間と予算の両方が足りない状況ですが、予算の不足分は時間をかけることで補えると思います。

森:新しいことをやろうとしているので、容易に進められないことは理解できます。予算に関しては限りあるなかでやっていく必要がありますね。

タナカ:CGの素材をつくるためにお金や時間がかかっていることは分かりました。お金のかからないアイデア面の課題などはないでしょうか?

藤田:アイデアに関しては中間面談で相談できたので、それを受けて具体的に作品に落とし込んだものを最終面談でお見せできれば良かったのですが。ほかの助成金にも応募しているので、それによって予算が増えれば進めやすくなるかもしれません。

タナカ:VRの仕掛け演出なども、「いける」とご本人がおっしゃっているし、あとは時間だけというのであれば、そのまま進めていただければと思います。

成果発表で伝えたいこと

藤田:2月の成果発表では、予告編を展示したり来場者にVRを体験してもらったりしたいと思っていましたが、制作の進み具合からすると、静止画のパネル展示が中心となり、映像はメイキングになると思います。

タナカ:メイキングが面白ければ本編も見たいと思わせられるはずなので、その方向性で良いと思います。VRアニメーションのメイキングは見たことがない人が多いと思うので、興味深いものになるのではないでしょうか。

森本:ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)では、見ている画面を録画することができるので、インタラクションシーンに挑戦しているところの映像などVRならではのものが見せられると思います。

森:中間面談で体験したようなラフレンダリングの状態でいいので、VRの醍醐味ともいえる空間認知について成果発表で伝えられるといいと思います。

藤田:HMDで録画した映像を展示しながら、魅力的に見せたいと思います。

時間が限られるなかでどう制作していくか

森:学生を指導していた経験からいうと、CGアニメーションは途中段階のチェックが難しいです。学生の卒業制作などは、急に完成形に近いところまで仕上がってしまうこともあります。途中段階でラフレンダリングに対する粗さの指摘は無意味であり、全体の流れや演出の面でしかアドバイスしかできません。今回のプロジェクトでいえば、走っている感じをどう見せるか、鑑賞者を脅かすシーンはどのように恐怖心を煽るのかなど、ポイントになるシーンだけでも見ることができると有意義な助言につながると思います。走っているときの疾走感などを、粗くてもいいので途中経過で見たかったところです。

藤田:プログラミングにここまで時間がかかるのは正直、想定外ではありました。今後は専門的なプロダクションと一緒に制作するなど、つくり方を変えないといけないと思っています。つくりたいものを実現するためにどうすればいいのかをこのタイミングであらためて認識できたので、仕切り直しも検討しながら進めていきたいと思います。

森:挫折しているわけではなく、藤田さん自身に先が見えている状態なら大丈夫だと思うので応援しています。成果発表は静止画がメインとなったとしても、藤田さんの絵の力が発揮されてクオリティの高いものを提示できるのではと思います。

―今後は、本制作を進めながら成果発表に向けて準備していきます。