コマ撮りによる短編アニメーションや写真などを用いたインスタレーションを発表している副島しのぶさんは、神を殺し、埋めると食物が収穫されるようになるという「ハイヌヴェレ型神話」を題材にした作品『彼女の話をしよう』(仮)を構想中です。文化人類学的なリサーチの側面と、物語的な表現の間でどうバランスを取るべきなのか。副島さんの悩みは、エスニシティへの関心を自身の作品としていかに昇華するのかという点において、表現にまつわる根本的な問題を含んだものと言えるでしょう。それに対するアドバイザーの回答はどのようなものだったのでしょうか。

アドバイザー:戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

初回面談:2023年9月25日(月)

神話を題材に

副島しのぶさんはアニメーションや写真によって表現される「生命が宿る過程」をテーマに制作を行っています。現在取り組んでいる『彼女の話をしよう』(仮)は、神の死骸を大地に埋めると作物が実るというハイヌヴェレ型神話の伝承から、豊穣のために捧げられた少女や女性を描く作品です。アニメーションとしてだけではなく、インスタレーションとしても同作は構想されており、これは副島さんが題材のフィクションではない部分を表現したいという作家の意向が反映されています。

アニメーションに登場する人形たち

リサーチと創作の距離感

プロジェクトの概要についての説明を受け、アドバイザーの戸村朝子さんは、古事記をあげながら神話特有の普遍性について触れつつ「本事業を通じて、アドバイザーの伴走を活用しながら模索できる機会でもあり、ご自身の次へのブレイクスルーの機会にしてほしい」と期待を語ります。同じくアドバイザーの原久子さんは、ハイヌヴェレ型神話のある代表的な国がインドネシアであることを踏まえながら「作品に深みを与えるために、そういった具体的な土着性を出していくのはどうか」と問いかけます。それに対し副島さんは「アジア的な雰囲気はありつつも、具体的に地域や民族が特定できないようにしたい。神話をモチーフにしつつも、身近に感じてもらえるような作品を目指しています」と答えます。しかしその一方で、物語的であったり、良くも悪くもほぼ作家一人で完結してしまう短編アニメーションに起こりがちな予定調和ではなく、リサーチを通じて作品を完成させたいという目標もあり、どう描けば良いのかまだ迷っていることも明かします。

戸村さん

そのような悩みに関連し、文字資料からのリサーチではなく、専門家への聞き取りを検討したいと副島さんは相談します。それに対し、文化人類学者や神職者といった候補がいるのではないかと両アドバイザー。副島さんは「一つの答えが出なくても、対話をインスタレーションに組み込むなどして、作品を開かれたものにしたい」と応じました。また、リサーチをアウトソーシングするのはどうかという提案も戸村さんからされました。研究者やキュレーター、またその志望者といった、文脈への理解がある人材の手を借りることは、制作のスピードアップにつながります。あるいは、今回のように制作費の支援が伴う場合は、すでに実績のある研究者にも頼みやすいのではないかと戸村さんは付け加えました。

音響へのアプローチ

「特定の音楽をモチーフにするとどこかの民族を連想させてしまう可能性があるため、音楽はメレディス・モンク(*1)のように人間の声だけでつくり、村人の気配や口頭伝承を彷彿させたい」と副島さんは構想を語ります。それに対して原さんは、「そのような形の音楽なら、展示の際は会場で実際に音楽を担当した人たちにライブパフォーマンスの機会をつくってはどうか」とアイデアを述べました。

原さん

インスタレーションの場合は、音にも今回こだわってはどうかと提案がありました。音楽家、サウンドアーティストのevalaによる『音響回廊オデッセイ(Acoustic Vessel “Odyssey”)』(2018)のプロデュースを通じて空間音響作品に携わった経験もある戸村さんは「モニターの左右だけに頼らず、立体的にスピーカーを設置するだけでも、かなり違う体験を生み出すことができる」と技術的なアドバイスを送ります。副島さんはそのような挑戦について「音を工夫することで、アニメーションというフラットな世界から抜け出せるかもしれない」と述べ、見えない奥行きを表現したいという目標を音によって表現する可能性について、前向きに検討する姿勢を示しました。

面談の様子

→NEXT STEP
アニメーションの制作を進めつつも、インスタレーションの見せ方を検討。作品が自己完結的にならないようなリサーチを行う

*1 メレディス・モンクは米国出身の作曲家であり、ボーカリスト。声を変幻自在に用いた楽曲が特徴。パフォーマーや演出家、映像作家、振付家としても活動する。