メディアアート領域で活躍し、映像とその外側にある装置や空間を横断的に体験するアニメーション作品を制作する重田佑介さんと、デジタル表現の中にアナログ絵画が持つ身体性や偶発性を取り込み、ピクセルアートの新たな可能性を模索するZennyanさん。今回採択された『劇場屋台』(仮)は、アニメーションの世界と現実の風景を重ねながら、ひとつの物語的世界が結実する屋外型劇場空間をつくる試みです。

アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大教授)/和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

ループして重なり合う映像世界

重田佑介(以下、重田):屋台のデザインや世界観もほぼ決まり、テストのアニメーションをつくっています。屋台の正面には「どうぞこちらの白い本を手にとって夜の世界をお歩きください」といったようなシンプルな文章で体験方法が書いてあり、その脇には、てるてる坊主が吊られています。棚には本が置いてあり、プロジェクターから投影される映像の一部が鏡に反射して本の上に落ちます。映像の冒頭は、白い背景に、いろいろなモチーフの影が落ちてきて、水のなかに入るシーンです。本をずらすと、徐々に映像に色がついていきます。水中から宇宙へと世界がつながっていくような内容です。屋台に吊るされたてるてる坊主は映像の予兆でもあり、映像のなかではてるてる坊主が水先案内人のように、その世界で泳いだり歩いたりとさまよいます。これまでは灯りや星をモチーフにしていたので、それを踏襲しながら空間的な映像をつくっていきたいと思っています。黒い屋台とてるてる坊主のモチーフは少し怖い印象を与えますが、映像のなかではかわいらしく、体験することで屋台自体の雰囲気や見え方が変わっていくと思います。

和田敏克(以下、和田):投影する映像はリピートで動くのですか? 本を手に取った人がひと通り体験するためにちょうどいい時間は何分くらいと考えているのでしょうか。

重田:映像それぞれループしますが、長さは様々です。一番短くて数秒、長くても30秒くらいです。全体としてはさまざまな映像が重なっている状態なので、総尺はかなり長いです。鑑賞する人によりますが、1時間ぐらいの人もいれば、さっと見て帰る人もいます。

和田:音はどうするのでしたっけ。重田:音楽が一番関わっているところは冒頭で、音は何かしら入れたいと思っています。屋台にラジオをおいて音を出そうとしていましたが、世界観とラジオが合っていない気がしています。

世界を押し付けるのではなく、ただそこに「ある」ように

しりあがり寿(以下、しりあがり):お客さんをコントロールすることができないとは思いますが、見る順番として、理想の順はありますか。

重田:始まりと終わりは考えています。以前の展示では、映像を通してキラキラとした光が点々と流れ、それを追っていくというヒントをつくりましたが、気付く方はあまりいませんでした。最初、てるてる坊主を中心にした物語も考えていましたが、それよりもてるてる坊主は『もののけ姫』の「こだま」のような存在にし、原理はあってもストーリーを描かないほうがいいかなと思いました。

しりあがり:そうすると、ただ「きれい」ではなく、もうすこしメッセージを出すということですか。

Zennyan:見方を押し付けるようなことはしたくないと思っています。この世界が悲しいとか美しいとか、そういうことを思わせたいわけではなく「世界がただある」というものにしたいな、と。でも状況として美しいものにしたいと思います。

和田:例えば山の向こうに流れ星が見えたりして、そういう「摂理」のようなものはいいですね。

しりあがり:映像のなかに沈没した世界がありましたが、すべてがそういう世界というわけではなく、宇宙か海の底かも曖昧なのですね。

重田:屋台は黒く、最初は質感があるような古い屋台の見え方がいいと思っていましたが、やりすぎると、てるてる坊主も相まって本当に怖い印象になってしまいました。いま、怖い印象はありますか。

しりあがり:リアルな屋台よりはファンタジーにしたほうがいいと思うので、黒という色は現実離れしていいですね。真っ黒にすることでそうしたインパクトが出てしまうかは、置いてみないとわからないところでしょうか。

和田:白黒の映像を見ているようなイメージで現実の印象がまだわかりませんが、クセはないと思います。板材の木目がわからないくらい真っ黒にするのですか。あまり黒すぎると無機質になり、もったいないかもしれません。

Zennyan:わざとらしくない感じがいいなと思っています。加工をリッチにすると気取った感じになってしまい……。それから、文字や言葉選びが最も気になっています。

重田:屋台に人がいなくても、「注文の多い料理店」のようにメッセージが体験の導入になり、説明になっている状態を思い描いています。ただ説明は長くなると読むのが大変なので、コンパクトにしています。

しりあがり:基本的には世界観を壊さないことと、何も知らない人にきちんと伝わっているかが大事だと思います。

和田:僕も最初のイメージは「注文の多い料理店」でした。音の話ででましたが、ラジオというツールは悪くはないと思います。いろいろな電波を拾って、その電波が聞こえてきているような、宇宙のイメージも出るかと。

Zennyan:アンビエント(環境音楽)とメロディのある曲の中間くらいのものですよね。

映像作品をどのように完成に近づけるか

重田:これからドットの世界をどのように完成させるかが一番大きなポイントになりそうです。全体として何か大きなテーマを設定したほうがいいのかもしれないと思っています。

和田:こちらの映像で生まれたものが、あちらの映像でまた生まれる、というように、作品全体として関連付けがあるのはすごくいいと思います。

しりあがり:水か宇宙かわからないことがこの世界の特徴だと思っていて、そこをもっと強調するといいかもしれません。例えば星が泡になるなど、水なのか星空なのかを幻惑させるようなアニメーションが入っているとか。それからお客さんが回遊するときに何を楽しむのかを考えると、水の上に浮かんでいるものだけじゃなくて、水の中も見たいなあとか……、どうでしょう。

Zennyan:地上の世界と水中の世界が入れ替わるような絵を描こうと思っています。今はひとつありますが、そういう場面を増やしてもいいかもしれないです。それからてるてる坊主の描き方を悩んでいます。映像は浸水した世界なので、てるてる坊主は雨を止める使命を果たせなかった、という設定です。そのキャラクターに徐々に僕も感情移入し、その成長を描こうかとも思いましたが、今はただこの世界を楽しんでいる存在にしています。ですが、使命が果たせなかったという無念を晴らすようなシーンがあってもいいのか迷っています。

和田:作者がつくったそのきっかけや思いがあるのはいいと思います。ただ、それをあえて伝えすぎる必要はないかなと。それを抜きにして、いかに世界を形づくっていくかが大事だと思います。

重田:いま、映像の世界観が混在している部分もあり、これからどう整えていこうかと相談しています。例えば具体的なものと抽象的なものを切り分けていくのか、混在していてもいいのかとか。整理しようとすると世界がしぼんでいくような部分もあり、一方で整理させないとぼやっと広がる気もしています。

しりあがり:整理のひとつの例として、仮に作品の中心が屋台だとしたら、そこから離れるにしたがって、何かが変わる方向性で整理するのはどうでしょうか。最初はいろんなものがどんどん沈んでいく悲しいシーンだけれど、屋台から離れていくにつれ、水深が深くなり、クラゲや深海魚が現れ、楽しいシーンになっていくとか。ただ、整理するとつまらなくなりやりたいこととも離れるかもしれないので、そこが難しいですね。

―次回の最終面談では、アニメーション、音、屋台の設計を報告する予定です。