デザイナー、キュレーター、プログラマーなどいろいろな専門分野を持つメンバーによる「DDD Project」。今回採択された『視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新規ゲーム製作と環境開発』は、視覚を使わないオーディオゲームの開拓に向けた新たなゲームの製作と、開発環境およびインターフェイスの研究開発を目的としたプロジェクトです。

アドバイザー: 磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/
しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)

ハッカソンで生まれたゲームのアイデア

―中間面談には、プロデューサーの田中みゆきさん、そして今回のプロジェクトのコラボレーターでゲーム監修の犬飼博士さんが参加しました。

田中みゆき(以下、田中):2019年12月1日にハッカソンを開催しました。参加者は30名程度で、全盲の人と見える人が一緒になって4つのチームに分かれ、それぞれにゲームプランを考案しました。その案をベースに、現在各チームでゲーム製作を進めています。まずは各チームのゲーム案を簡単にお話しします。

―当日のプレゼン映像を見ながら、ゲームについて解説します。

田中:まずAチームは、音によって立ち上がる世界を体感させる方向性を考えています。3つの案が出て、1つがNintendo Switchにある「カウントボール」というゲームの、音バージョンのようなものです。音だけではなく、振動などの触覚的要素も加えるといいかもしれません。2つ目は大縄跳びを跳ぶタイミングを音で測るというものです。面談の際にもお話ししていた、耳を研ぎ澄ますような体験ができるゲームとして、ゲームセンターの導入部にあるといいなと考えています。3つ目は、上から降ってくる音だけの雨を、コップで受け止める「雨漏りの夜」というものです。

Bチームは「スマホで音かるた」と題して、4台のスマートフォンから同時に鳴る様々な動物の鳴き声を聞き分けるゲームを考えました。これは、システムもシンプルなので、実現可能性が一番高く、成果発表の段階でも見せられる作品になるのではないかと思います。

Cチームが考えたのはアナログな方向性です。日常にあるモノをお題として出題し、それを表すオノマトペを、回答者以外の参加者が順々に発していくというものです。同じモノに対しても、それにまつわる行為やイメージが人によって違うことを示唆するねらいがあります。

メンバーのほとんどがプログラマーで、野澤くんも参加したDチームは、「タワーディフェンス」と言われる領地に侵入してくる敵を倒すゲームの音バージョンをつくろうとしています。戦国時代を舞台に、戦う音と伝令を頼りに、限りある兵力をうまく割り振り、戦略的に敵将を打ち取るというものです。陣地の前に一本道があって、その向こうからリアルタイムに聞こえてくる戦いの音と、少し遅れて入ってくる伝令の情報。それを整理しながら次の戦略を練る、そこに醍醐味があります。

犬飼博士(以下、犬飼):加えて、今、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] で『触覚的残像』という作品が展示されているのですが、この製作者に協力を打診して、システムをゲームに組み込めないかなと考えています。目を閉じてヘッドホンの音を聞くのですが、音だけではなく振動によって、ベンチに座っている自分のすぐ近くで、あたかも人が動いているような錯覚を覚えるという作品です。間近で体感する芝居のようでとてもおもしろくて。立体音響に振動を組み合わせるのは、聴覚情報にとっての解像度をあげるような仕組みだと思います。ロールプレイングゲームの中で、インタラクションをもたせながらストーリーを進める部分がありますよね。そういった場面によりリアリティを持たせたり、色々なゲームに応用できるのではと考えています。

田中:Aチームに関しては、ひとつだけになる可能性もありますし、増減する可能性もあります。かつ、犬飼さんが挙げた作品を展示するとしたら、最大で7つ、最小で5つほどのゲームをつくることになります。

全体像をどうつくっていくか

田中:今後は、これらのゲームが一堂に会するオーディオゲームセンター全体の世界観やストーリーについて詰めていきます。全体のデザインは私や犬飼さんが中心に進めていくことになりそうですが、オーディオゲームの場合はビジュアルで引き込む要素がない分、見える人を誘引する工夫が必要で、そこは重要な部分だなと思っています。

磯部洋子(以下、磯部):会場の入り口からゲームまで、そこも音でナビゲーションしたいところですが、環境音やゲーム同士の音の干渉も考えると、あまり会場全体としては音を出しすぎない方がいいのだろうとも思います。あと、会場デザインとしては、ゲームセンターらしいネオンサインをこれまで使ってこられてますが、視覚的な看板をつくるのも違う気もします。でも何かしら看板はほしいですね。ネオンなのか、声なのかはわかりませんが。

田中:そうですね。音の干渉については、気にしすぎて全部のゲームがヘッドホンになって、結局会場は無音というのもどうかと思うので、バランスを考えていきたいと思います。看板については、もちろん見えるに人も来てほしいので、視覚的な看板もつくりたいとは思っています。

しりあがり寿(以下、しりあがり):僕は逆に、「音だけのゲームセンター」と聞いて、そこにネオンも何もないんだろうなとか、ヘッドホンだけがぽつんとあるのかなとか、既存のゲームセンターとは違う想像を掻き立てられています。

犬飼:いきなり完成形を見せるのは到底無理なので、今回はあくまで第一弾として、楽しみながらつくっていく意識でいた方がいいのかなと思っています。個人的には、ゲームセンターという枠組みは、今のゲームの文脈からは少しずれているなと感じるところもあります。昨今、暇つぶし感覚で視覚を使って遊ぶものだったゲームが、更に変化し、SNSもチェックしながら楽しめる、音声だけのゲームコンテンツがブレイクしつつあります。どんどん「ながら」で楽しめるものになっている、そういった流れの中で、ゲームセンターという場を固定したものに寄せていくことには、少し違和感も感じています。

田中:ゲームセンターと言っても、場を固定するイメージを持っているわけではありません。ひとりでも、スマートフォンのアプリでも、プレーする人がいればそこがオーディオゲームセンターになると思っています。今回はオーディオゲームに関心のあるコミュニティを広げたり、オーディオゲームの世界の幅を見せたりするためにも、一堂に会して作り手とプレーヤーが交流できる場があるのは重要だと思います。

犬飼:将来的な全体のイメージを、メンバーでしっかり議論する必要があると思います。ただ、ひとつのゲームが人に遊んでもらえる状態になるまでには色々な試行錯誤が必要です。ソフトウエア的な動線づくりに時間がかかりますし、チュートリアルひとつをとっても、プレーするのが家なのか、ゲームセンターなのか、ゲームショウでの体験なのか、必要な説明も状況に応じて変わります。それを考えると、ゲームセンターをどうデザインするかは、ゲームが一旦出揃ってから、皆で改めて考えるべきかなと思います。

田中:そうですね。各チームのゲームのひとまずの完成は3月を目標にしているので、そこで出揃ったゲームをベースに、ゲームセンターの全体像を皆で考え、その上でチュートリアルなど各ゲームのブラッシュアップもしていく、という流れがよさそうですね。

成果発表で何をみせるか

田中:成果発表では、展示できるゲームは限られてくると思います。加えて、今回の事業では、音にまつわる客観的な視点からのお話を、ゲーム業界や音響メーカーの方にお聞きして、インタビュー映像としてまとめたいと思っています。以前展示をした際、ゲームの音響に携わっている方々が「音づくりは絵づくりに比べて後回しにされるけれど、オーディオゲームが普及したら、それが変わるかもしれない」と話してくださって。ゲームと音に携わる方々に色々な話を聞いてみたいと思っています。

磯部:場所の制約もありますし、成果発表の場ではゲームはひとつに絞って、最終的な12月なりの完成に向けての、活動紹介をする場として考えた方がよさそうですね。コレクティブとして、継続的な活動ができる仲間を集めること。それがこのプロジェクトの大きなポイントだったと思うので、細く長く、楽しくやっていけることの方が大事だと思います。あまり追い込むと疲れてしまって、次はやりたくないなと思うこともあるのので。やりたい人はいらっしゃい、といった雰囲気になるよう、個々のゲームのつくり込みの精度にはこだわりすぎないほうがいいかもしれません。フライヤーや、継続的に情報を得られるSNSなり、動線はちゃんと用意して、継続的なコミュニティをより盛り上げられる工夫を考えるといいのではないでしょうか。

しりあがり:そうですね。オーディオゲームセンターをこうつくっていきたい、というビジョンやコンセプトを提案する場にできたらいいと思います。説得力という意味でも、何かしら体験できるものはあった方がいいとは思いますが、クオリティの高いゲームよりも、これぞ音の世界だ、という未知の可能性を感じられるものを体験したいですね。

―最終面談では、成果発表での展示に向けて、インタビューと製作を進めていきます。