2019年までクリエイティブグループ「ユーフラテス」に所属し、2020年に独立した映像作家/グラフィックデザイナー/視覚表現研究者の石川将也さん。採択された企画『Layers of Light』は、石川さんが発見した光の現象を新しい立体アニメーション装置として探求する試みです。

アドバイザー:土佐尚子(芸術家/京都大学大学院総合生存学館アートイノベーション産学共同講座教授)/和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

現象の発見、可能性の模索

石川将也(以下、石川):この現象を発見したのは2020年の6月です。オレンジの蛍光アクリル板に特殊なプロジェクターの映像を投影してみたら、アクリル板を通して、映像の色が分離しました。一見不思議で、美しい現象です。調べていくうちに、アクリル板に含まれる蛍光材料が関係していることがわかりました。
蛍光材料はその物性によって、それ自体の色よりも短い波長の光に反応(励起)して発光し、逆に長い波長の光には反応せず通過させます。対して、プロジェクターの光源は、赤と緑と青、つまり光の三原色であるRGBです。そこにオレンジのアクリルをかざすと、オレンジ色よりも波長の短いGとBが反応します。その際、蛍光だけでなく反射も生じるため、アクリル板の上に結像します。さらに実験して、2色の板を積層したところ、R・G・Bそれぞれを分離することができました。つまり、映像に含まれるRGBの3色のデータを、三つのレイヤーに後から分離する、立体映像装置になったのです。
もとの図形をRGBで描き分けると、それぞれが別の層に投影されるので多様な表現ができるメディアとしての可能性を感じました。今回の企画では、この原理を用いた立体映像表現を探求し、その成果を発表したいと考えています。
ただ、立体感が主題であるため、実際に実物を目で見ることが重要な表現です。そこで、成果発表の前に、早い段階での個展を計画しています。
また、使える色や層の数が非常に制約されたメディアですが、立体ディスプレイとしての実用的な使い道や表現も研究したいです。個展までに、特許の出願も検討しています。

※ その後 2020年12月に特許出願(特願2020-206990)

展開のアイデアと展示案

石川:まずはとにかくアイデアを形にして、可能性を探りたいと思っています。これまでに試したものとしては、1枚の絵から色を剥がしていくような、像が離陸していく表現です。ほかにも映像上の図形の色を青、緑、赤と変えていくことで、図形が層を移動する表現などがあります。層の移動を利用すれば、シューティングゲームのような表現も可能かもしれません。また、グラデーションを投影すると、不思議な立体感が感じられました。

曲げ加工を施したアクリル板に沿って、像が離陸していくように見える

和田敏克(和田):成果発表の方法について具体的な考えはありますか?
 
石川:この仕組みそのものを用いた原理解説を制作したいと考えています。あとは、スタディとしてさまざまなプロトタイプを並べ、その中でも完成度の高いものは作品として単独で展示できたらと考えています。いずれも、投影しているもとの映像とセットで展示するつもりです。
 
土佐:量やサイズを増やしてみるのはひとつの手だと思います。
 
和田:先ほどの離陸の表現、2層に図像が分離する瞬間がとても気持ち良いですよね。アクリル板によってできるこの段差をどう活かすかが重要だと思います。例えば、層状になったアクリル板をマルチモニターのように並べて、高低差をつくってみてはどうでしょう。そこを像が移動すると、不思議な変化が起こりそうです。音を組み合わせて音階と段差をリンクさせてもいいかもしれません。
 
石川:映像は音の付け方で感触が変わってくるので、音も重要だと思っています。慶應大学の佐藤雅彦研究室にいた頃、生理的に気持ちの良いアニメーションをつくるという課題がありました。テーマやストーリー性ではなく「気持ち良さ」を目的として制作していいんだという気づきをもらいました。図像が分離する瞬間のあの気持ち良さは、映像としては同じ図形の平行移動に過ぎないのですが、立体になることでこんな見え方をするというのがまた面白いですよね。
 
和田:僕はアニメーションの専門なので、動きにちょっとした命のようなものが垣間見える瞬間にやはり惹かれます。
 
土佐:科学実験的になりますが、アクリル板以外の素材研究もしてみるとさらに発見があって、表現が広がると思いますよ。例えば鏡などはどうでしょう。あと、ダイクロガラス(ガラス板の片面に金属を真空蒸着させたもの)も面白いと思います。RGBがずれて、屈折して見える素材です。
 
石川:反射を利用するのは面白そうですね。ダイクロガラスも。あとは、原理が近いものとして蓄光素材があります。
 
和田:蛍光と蓄光を混在させるのはよさそうですね。アニメーションが部分的に時間差で出てきたら面白いと思います。
 
土佐:錯視に興味はありますか。明治大学の杉原厚吉教授の作品などを見てみると、そこにも表現を広げるヒントがあるかもしれません。あとはプログラミングなどもいいと思います。錯視図形をプログラミングで作成してアニメーションをつくると、人が真似できないような表現になると思います。
 
石川:錯視については以前から興味があります。実はつい先日、基礎心理学会の錯視錯聴コンテストで入賞しまして、杉原厚吉先生は審査員をされていました。錯視をはじめとして認知心理学の知見は活かしていきたいです。たとえば、仮現運動(静止した画像を適当な間隔で次々に提示すると、映像が動いて見えること)を用いて、層の間を行き来するような表現が既にできています。プログラミングについても実験中で、Cavalryという2Dアニメーションソフトのオンライン勉強会を主催しながら、ジェネラティブなアニメーションを用いた方向性も試しています。

表現の教材としての可能性と、科学教材としての野望

石川:現状は個人で制作をしていますが、将来的には色々な人にこの原理を活用した表現を考えてもらいたいとも思っています。もちろん、表現者としてはまず私がさまざまな可能性を開拓し尽くしたいという思いが強くありますが。例えば私は武蔵野美術大学で非常勤講師をしているのですが、教材としても面白いだろうなと。
 
土佐:学生はこちらが思ってもみなかったものを、しかも安価な素材で表現しますよね。原理をオープンにして実験を繰り返しながら創作していけるといいと思います。
 
石川:表現の教材として可能性を感じると同時に、科学教材としても、蛍光の原理を教える装置になりうると思うので、そういう用途も考えたいです。例えば、サンフランシスコにある「Exploratorium」のような科学館の常設展示になれたら……、というのが科学方面での野望としてあります。
 
和田:楽しみですね。今後、個展を予定されているんですよね。
 
石川:はい。そこではプロトタイプを5点程度展示するつもりだったのですが、今回の面談を経て、少し大きめのものもつくってみたくなりました。
 
土佐:ジオラマをつくると面白いかもしれません。
 
石川:いいですね。下から仰ぎ見たりもしてみたいです。まずはいったん世の中に出してみて、3月に向けてさらに次のステップに進めたらと思います。色々広げていただいてありがとうございます。ひとつずつ取り組んで行きたいと思います。可能でしたら展覧会にもぜひいらしてください。
 
土佐:特許申請も個展も、頑張ってください。個展にも伺いたいです。

―次回の面談では、個展の報告や、さまざまなリサーチについての進が報告される予定です。

映像作家 石川将也による「Layers of Light / 光のレイヤー」展を、作家自身のオフィス(東京都渋谷区桜丘町)にて開催します。
会期:2021年2月8日(月) 〜 2月22日(日) ※完全予約制
時間:11:00〜19:00
会場:cog + Of Sheep + planet 渋谷桜丘オフィス(東京都渋谷区桜丘町29-17 さくらマンション #306)
詳しくはWebサイトをご覧ください。
https://www.cog.ooo/lol/