ミュージックビデオ『やけのはら「RELAXIN’」』が第17回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門新人賞を受賞した映像作家チーム「最後の手段」。今回採択された企画は、静止画から生まれる空間や、動画から生まれる空気を融合させた、マンガと映像の中間のような作品です。ミクロとマクロ、現在と太古を行き来し、破壊と再生を繰り返しながら新しい世界へと向かうことをテーマに制作を行います。

「最後の手段」のアドバイザーを担当するのは、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏と、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏です。

―中間面談では「最後の手段」の代表、有坂亜由夢さんが出席しました。

ウェブならではの「動き」をマンガに加える

有坂亜由夢(以下、有坂):初回面談後、マンガ制作のためのネームの制作を進めました。

和田敏克(以下、和田):映像部分は、最終的にはどういう形態にするか、以前、ウェブ上で発表するという話でしたが、決まりましたか? 

有坂:はい。この作品はウェブサイト上で発表することができそうです。映像についてはこれから検討しますが、マンガのコマ割りをベースに、部分的に動かすことになりそうです。
作中に出てくる「コンビニ」のCMをつくったので、見ていただけますか。

―15秒ほどの動画を再生。

有坂:このCMも、連載に合わせて公開できたら、と思っています。

―ネームを見ながら、話を進めます。

有坂:7話つくっています。1話分の長さは20ページ前後ですが、もし長すぎるなら切ろうと思います。もう少し整理して、飽きずに読めるようにしたいです。

和田:これは1ページずつ読むのですか? 見開きは考えていないのでしょうか。

有坂:ウェブ上での発表を前提としているので、上から下へにスクロールして読むことを想定して描いています。見開きはありません。

和田:コマの構成は、これがほぼ最終形ですよね。この中で動かすとしたら、一つひとつのコマに時間軸があることを意識しながら、コマの出し方のバリエーションをいろいろつくると面白いかもしれません。全部のコマに動きをつけるとうるさいですが。例えば、スクロールしていって、どこかのコマでは止まって動きを見る、といったリズムをつけてあげるといいと思います。

しりあがり寿(以下、しりあがり):心地よさを重視して、音楽をつくるつもりでやっていくと、作風にも合いそうです。見ているだけで気持ちいいものになるといいですね。ところでセリフは、「音」で入れるのでしょうか?

有坂:セリフを入れる方法はまだ考えていませんでした。もっと言葉を減らした方がいいでしょうか?

しりあがり:いえ、会話が全くないのは不自然なので、あってもいいのですが。会話だということが何かしらで伝わればいいのかなとも思います。声優さんにセリフを読んでもらうものではなくて、例えば「モシャモシャ」「ポピポポポポピッ」という音が出るような。

和田:その方が立体的になりそうですね。絵の中に例えば「あった!」などと文字が書いてあって、音は違うものが聞こえるということですよね。

しりあがり:ちなみに、スクロールは読者自身が行うのでしょうか?

有坂:はい、そう考えています。読んでいるタイミングで動きを見せるにはどうすればいいのでしょうか?

和田:規則正しすぎると面白くないかもしれないので、登場人物の動きに即してコマごとに考えていくべきかなと思います。例えば、主人公がモグモグと何か食べて、ふっと振り返るとき、次のコマが最初から表示されているか、否か。または、振り返る瞬間に次のコマがシーンと止まるようにもできるかもしれません。そして、その直前のコマは表示させたままにするのか、消すのか?というように、さまざまなやり方があるので、検討してほしいです。文字も最初からあるといいか、それとも後から一気に出てくる方が効果的なのか。シーンによって異なりますよね。

有坂:どういう形態がいいか検討します。

和田:ウェブで読むときの、紙媒体とは違った面白さとしては「ちょっとした動き」や、次のコマがふっと現れてフェードインしていく、といったことが挙げられるでしょうか。技術的な制限はあるものの、いろいろと工夫できそうです。

しりあがり:全てが自動でスクロールすることも可能かもしれませんね(笑)。

有坂:連載の中で、突然そうした回があっても面白いかなと思います。

しりあがり:作品全体を通して、「イメージ」がきれいにつながっているような感じがして、その「連続」が魅力になっていますよね。表現がとても音楽的だなと感じますので、時間のコントロールを読者に委ねるのは惜しいなと思ってしまいます。

ストーリーを伝えるための表現

有坂:ストーリーは、つじつまを合わせようと頑張ったのですが、やや伝わりづらいでしょうか。

しりあがり:そうかもしれません。内容を誤解していると悪いので、説明してもらってもいいでしょうか。

―ネームを1ページずつめくりながら、ストーリーを口頭で説明します。

しりあがり:話を聞くととても面白いので、その面白さをもっと作品から伝えられるといいのですが、夢なのか現実なのかがはっきりしないところが作品の魅力につながっているので、人によってはその魅力が掴みにくいかもしれませんね。例えば、初めの方に「地震」の描写がありますが、地震ではなく、ただ揺れているだけだと捉えられる可能性があります。

有坂:現状ではファンタジーの要素が強いので、合間にもっと現実的な描写を加えた方がいいのかもしれません。ただ、どういうバランスが読者にとって気持ちいいのか決めかねています。

しりあがり:どこにベースを持ってくるかがポイントですね。

和田:僕は、地震を描写していることが伝わるかどうかは重要だと思います。説明を聞く前は、正直、地震だと思いませんでした。読者が「地震だ」と気づくことができれば、その後の見方も変わってきますよね。

しりあがり:他に読者が混乱するのは、登場人物の位置関係が分からなくなるところでしょうか。俯瞰するシーンを入れると、状況が把握しやすくなると思います。
また、主人公が大きな力を持っていることも分かりにくいかもしれません。指差した部分が壊れたり、見つめたところに穴が空いたりするなど、小さなことから「行為」と「出来事」の関連を見せてはいかがでしょうか。主人公の歯が生えると力が宿るというアイデアもユニークですが、読者の想像力がついていかない可能性があります。

有坂:実は、主人公が能力を自覚していない方がいいなと考えているんです。主人公が成長するにつれて、世界が勝手に変わってしまうような。なので、わざと壊したり、魔法使いのような描写は避けたいと思っているのです……。

しりあがり:なるほど。それは大切な考え方ですね。読者に分かってほしいところです。

和田:自覚がないままに世の中を動かしてしまって、本人が苦労するというような感じでしょうか。僕が気になったのは、登場する「山」と「女の子」が同一だと気づいてもらえるかどうかです。

有坂:色が同じというのでは分かりにくいでしょうか。さらに工夫したいです。

和田:映像の場合は声を同じにする方法もありますね。何か共通項があればよさそうです。

しりあがり:前半に出てくる「魂」の描写も、どう主人公と関わるのかが少し分かりにくいですね。大きさや形が変化するので、同じものだという何らかの「記号」があってもいいのではないでしょうか。

有坂:確かに、今はおまけみたいな存在になってしまっているので、もう少し積極的に主人公と関わらせたいと思います。

アウトプットを見据えて制作を進める

しりあがり:今後は、ストーリーの魅力を伝えるための工夫を足していくといいと思います。ページを増やしてでも、状況を説明するシーンをつくるべきかなと思いました。友達に読んでもらって、その中の意見から自分が納得できるものに取り組むのもよいのではないでしょうか。

和田:ひとまず第1回を仕上げたいですね。また、データにしてウェブ上で見せるのが完成形だとしたら、それをどうやって実現するか、徐々に試していってほしいです。

有坂:はい。動かすことも含めて、作業を進めていきます。

―次回の最終面談までに、最終的なアウトプットに向けて制作を進めていきます。