9組のクリエイターによる成果プレゼンテーションが、「ENCOUNTERS」というイベントタイトルでGinza Sony Parkにて2019年3月1日(金)〜3日(日)に開催されました。採択企画の紹介展示の他、3月3日(日)には国内外の採択クリエイターとアドバイザーによるトークイベントも実施しました。

今回は国内クリエイター創作支援で制作を行った石橋友也+新倉健人さん、最後の手段、代表の有坂亜由夢さん、水江西遊記(仮)製作委員会のプレゼンテーションとトークの様子をお伝えします。アドバイザーのマンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏、ソニー株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門テクノロジーアライアンス部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏を交えてそれぞれの制作過程などが語られた後、「AIと神話、現在の物語(ストーリー)の作り方」というテーマで意見が交わされました。

石橋 友也+新倉 健人

生物学の知識や技術を援用した作品群を始めとし、科学的なアプローチで表現活動を行う石橋友也さんと、データ・サイエンティスト/エンジニアである新倉健人さん。共に広告会社に勤務し、石橋さんはウェブやテクノロジー関連の企画・制作、新倉さんはデータを用いたマーケティング業務に従事しています。今回採択された企画は、人間によってSNS上に日々生み出される「トレンドワード」(*1)を素材に、AI(人工知能)が詩を生成するという、広告やウェブというメディアの現在を意識した試みでした。

石橋友也(以下、石橋):企画の着想となったきっかけの一つは、同じ会社で働く新倉さんが、社内で制作したキャッチコピーをつくるAIでした。見せてもらったとき、コピーにならなかった膨大な没データの方に惹かれ、AIに興味を持ちました。もう一つは、広告の仕事をしている関係上、Twitterのトレンドワードなどの刹那的な情報に関心があったからです。人間が生み出した大量の言葉を、新しい知性の視点から見つめてみたいと思いました。

─「バズの囁き(仮)」のデモンストレーションが行われました。

石橋:今、Twitterを見ると「電車のアナウンス」がトレンドワードに入っていますね。 その言葉から共起語(*2)が割り出され、任意の2単語が選ばれ、詩の最初の文(A)と最後の文(B)がつくられます。その後、AIによってAとBの中間の文が生成されます。

新倉健人(以下、新倉):補足すると、16次元のベクトル空間に品詞分解された単語をマッピングしています。その中のAとBを線で結んで、その線上にある語から文を生成すると、徐々に意味が推移する「詩のようなもの」ができます。

石橋:学習データに使ったのは日本語の例文20万文と5万単語です。Twitterの言葉を学習データに使うことも検討しましたが、それだとTwitterならではの独特な言葉のセンスが出てしまい、詩っぽくなりませんでした。典型的な日本語文が機械によってぎこちなく接続されることで、詩情が生まれるという仮説を立てました。

しりあがり寿(以下、しりあがり):詩を学ばせても詩にはならないということですね。

新倉:AIが覚える文章は日本語として整っているものがいいと思います。文と文の関連性に、違和感や飛躍、文としての推移があると、想像が膨らんで詩的なものとなるのではないかと考えました。

戸村朝子(以下、戸村):今回の試行錯誤で興味深かったのが「どうやって詩にするのか」というところです。そのためのアルゴリズムに苦労されたのではないでしょうか。日本語を扱う難しさも含めて、このクオリティでつくりあげたのは一つの成果だと思います。

*1 トレンドワード……ウェブ上で検索数や発話数が急上昇している今現在関心を集めている言葉のこと。
*2 共起語……あるキーワードを含むコンテンツ中に、一緒に頻出する単語のこと。

最後の手段(有坂 亜由夢/おいた まい/コハタ レン)

ミュージックビデオ『やけのはら「RELAXIN’」』が第17回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門新人賞を受賞した映像作家チーム「最後の手段」。今回採択された企画は、静止画から生まれる空間や、動画から生まれる空気を融合させた、マンガと映像の中間のような作品です。ミクロとマクロ、現在と太古を行き来し、破壊と再生を繰り返しながら新しい世界へと向かうことをテーマに制作を行いました。

有坂亜由夢(以下、有坂):0歳の赤ちゃんが主人公で、歯が生えると山が隆起したり、歩くと地震が起こったりするなど、子供の成長と災害とがリンクするストーリーを考えました。人類を破滅へ導くと同時に地球を浄化し、最終的には地球が温泉化して最高の癒し空間になるというものです。赤ちゃんを主人公にした理由は、私にも子供がいて、未来や過去、現在といった時間の感覚に縛られていないところが尊いと感じたからです。混沌とした世界に赤ちゃんがいて、昔話に出てくるおじいさんや童子のように、あの世とこの世を行き来するイメージです。幻想的かつ現実的に描きたいです。

和田敏克(以下、和田):有坂さんの専門は映像ですが、マンガを描き始めたきっかけはありましたか。

有坂:映像の制作には時間がかかるので、制作している間に最初の発想から変わることがあります。マンガなら、今の気持ちをパッと表現できそうだと思ったのがきっかけです。
作品の長さは、全8話を予定しています。最終プレゼンテーションでは、1話分を展示しました。最終話は動画にするなど、毎話ごとに実験しながらつくっていきます。

和田:ウェブでの公開を想定しているので、新しい物語が見えるといいと思います。面談でも、動きや色彩などを規則で縛らず自由につくってみては、と話したのを覚えています。

しりあがり:マンガに挑戦してみていかがでしたか。

有坂:楽しかったです。特に間(ま)の取り方が新鮮でした。一コマだけで決める、というのが気持ちよく、また、勉強になりました。

しりあがり:携帯でマンガが読めるようになって何年も経ちますが、「動かすマンガ」は出てきていません。難易度やコスト以外にも理由があるのでしょうか。

有坂:おせっかいというか、中途半端に動かすと、かえって邪魔になるのではないでしょうか。第1話では思いきって全てのコマを動かしてみました。

しりあがり:そう割り切ったことは、価値のある試みだったと思います。

水江西遊記(仮)製作委員会

抽象アニメーションを制作し、海外の映画祭での評価をはじめ文化庁メディア芸術祭でも7度の審査委員会推薦作品選出歴のある水江未来さん。今期から新しく始まった団体への制作支援として採択された本企画は、「日本発、新しい実験の場としての長編アニメプロジェクト」として、『西遊記』を子ども向けのミュージカル映画として制作する水江さんたち製作委員会の新たな挑戦です。トークには水江西遊記(仮)製作委員会から、水江さんとプロデューサーの土居伸彰さんが登壇しました。

土居伸彰(以下、土居):世界的に作家性の強い長編アニメーション作家が増えている中で、日本では、アニメーションが習熟していることから、逆に新たな表現が出てきていない印象があります。水江さんは抽象アニメーションが専門ですが、昔から会うたびに特撮の話をしていて。『西遊記』を手がけることで新しい何かが生まれるのではないかと思いました。

水江未来(以下、水江):ストーリーやキャラクターを考えるのは初めてでした。あらためて『西遊記』の原作を読んでみると知らない話がたくさんありました。たった1文で500年後に話が移るなど、時間も空間も超えたストーリーが魅力的だと感じました。古典ではなく現代の物語として表現したいと思っています。
現在、主要キャラクターデザインとストーリーの概要が出来上がったところです。フランス人の脚本家やアーティストと共同で制作を進めています。

土居:水江さんのキャラクターデザインには、色気を感じさせるものがあります。そこへ、これまでの抽象アニメーションで培ってきた方法論を組み込みます。

和田:キャラクターのあり方は、制作の過程でも検討を重ねられてきました。

水江:今までは全て一人で制作していたので、自分が動かせられることを前提にして多少ブレーキをかけていたところがありました。が、今回は、自分がイメージしていたものを自由につくれる環境。「アンサンブル」での制作に、手応えを感じています。

─パイロット版を上映。見せ場となるシーンをつなげた2分程度の映像です。

和田:筋斗雲(きんとうん)などのキャラクターも、自由に考えられていますね。

水江:「キントクラウド」(物語のなかで孫悟空が乗っている筋斗雲)はAIです。擬人化して戦ったり、霧状に広がって3Dスキャンしたりします。クラウドとしてデータも保持します。
ストーリーは、主人公の「三蔵」が自分の世界から飛び出して、やるべきことを見つけていくというもの。僕自身がこれまでの人生で考えたことも込めたので、主人公は僕に似てきました。

土居:同時に、それぞれのキャラクターは日本の既存アニメーションの登場人物を想起させるものがあります。『西遊記』の再解釈の仕方次第で、私たちの世代の物語として共感してもらえそうだと感じました。これからは本編の完成に向け、ヨーロッパでの資金調達に取り組みます。それができれば、日本のアニメーション界への刺激にもなるのではないかと思っています。

AIによる創作は可能か?

トーク後半は、石橋友也さん、新倉健人さん、水江未来さん、土居伸彰さん、有坂亜由夢さんと、アドバイザーを交えてフリーディスカッションを行いました。テーマは「AIと神話、現在の物語(ストーリー)の作り方」です。

土居:僕たちは脚本に苦心していますが、石橋さんと新倉さんのチームに、AIの助けを借りられるような開発ツールをつくってもらうこともできるのでしょうか。例えば『西遊記』の原作や、過去に映像化された作品の脚本を全て学習させて、そこに僕たちの考えた要素を掛け合わせて脚本を生成することも可能でしょうか。

水江:『西遊記』の脚本を依頼したっていうことですか(笑)。

新倉:過去にAIで映画の脚本を使ってキャッチコピーをつくったことはありますよ。ただ、AIが映画のストーリーをつくるのは現状難しいようです。ヒット作をつくるために、監督の選択や内容をAIに考えてもらった事例はあるようですが。

石橋:AIが出したものをディレクションする能力こそ、人間には求められるのではないでしょうか。また、AIにどんなデータを学習させるかも重要です。いいストーリーを学ばせても、同じパターンしか出さないので、新しい表現にはなりません。僕らの作品で、「詩」ではなく「平易な日本語」を学習させたように、そこには人間のアイデアが必要だと思います。

土居:そう考えると、有坂さんの中に眠っているビックデータはすごそうですよね。太古から受け継がれているものがあって、それを受信しているのかなと思わされます。

有坂:ストーリーなどはあまり順序立てて考えていないかもしれません。言葉にできないことを表現したいという思いはあります。

新倉:例えば有坂さんの作品をAIが学んだとしても、そこを超えられないんですよね。パターン化しにくいものは特に難しいです。

戸村:AIで「かたち」を模倣することはできます。人間との差は、作品をつくる動機があるかないかではないでしょうか。また、AIによってつくられたものに何かしらの衝撃や哲学を感じたら、人は芸術作品だと認識するでしょうし、そうでなければ単に排出されたもの、とみなすのではないかと思います。