アニメーションの古き手法・ゾートロープなどの原理から着想を得て、見えない時間を実体化した作品『toki-』が第20回文化庁メディア芸術祭でアート部門審査委員会推薦作品に選出された後藤映則さん。今回採択された企画『Rediscovery of anima』(仮)では、これまでの『toki-』シリーズを起点に、古来より存在する木と太陽光のみで作品を制作し、歴史上発見されてこなかった映像表現や、そこから生まれる生命感を模索します。

アドバイザーを担当するのは、ソニー株式会社UX・事業開発部門 UX企画部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏と、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏です。

マイブリッジの「連続写真」を参考に

後藤映則(以下、後藤): 「アニマの再発見」を一貫したテーマに、制作を進めています。前回の面談後に検討した結果、「企画書に沿う作品」と、前回相談した「古代からのアプローチの作品」、この2つとも作ろうと思っています。
1つ目の作品では、モチーフを「歩く人」に決めました。今回のチャレンジで一歩踏み出す、という意味も込めています。制作は全て1800年代の技術で行いたいので、まずは歩いている人をスケッチすることからスタートしました。ただ、動きをコマ送りのように等間隔で捉えるのが難しく、自分の目だけでスケッチするのは限界があることに気付きました。そこで参考にしたのが、エドワード・マイブリッジの連続写真です。マイブリッジが等間隔で撮影した「歩く人の写真」を見ながら、手でトレースするという手法をとりました。そのスケッチをベースにして、木彫協力者に木を彫ってもらいました。全て手作業で行い、またのこぎりや糸のこなど1800年代にも存在していた道具のみでつくっています。素材は、ベニアなら反りがないですし、薄いオブジェをつくることが容易にできますが、その時代には精度の良い合板の技術がまだないので無垢材から制作をしています。
試作では、厚さ5ミリ、高さ22センチくらいのものを作りました。実制作ではもう少しサイズを大きくして解像度を上げれば、太陽光でも動きが見られるようにできるのではないかと見込んでいます。
木彫協力者は彫刻が専門で、モノそのものに生命感を宿らせるような、工芸の人とは異なるアプローチで作ってもらうことをあえて狙っています。

―完成後のイメージ画像を提示しながら話が進みました。

後藤:シーンは25枚を制作し、それらの間を渡す横棒の本数は約80本の予定です。接着も木工用ボンドなどを使わずに膠(にかわ)を使います。
3Dプリンターで作ったプロトタイプを使って、実際に太陽の光で動きが見えるかどうかを試す実験も行いました。屋外を含め様々な場所で試しましたが、結局家の中が一番きれいに見えました。動画をご覧ください。

―実験記録を再生。カーテンを少し開けて太陽光を取り込む。

戸村朝子(以下、戸村):夕日だと金色になっておもしろいです。太陽光の持つ時間軸も表されますね。

後藤:この実験に使ったのは厚さ1ミリのものなので、果たして5ミリでも見えるかどうかは、作ってみないと分からないのですが、おそらく見えるのではないかと推測しています。成果プレゼンテーションまでに、木でのプロトタイプを完成させたいと思っています。

和田敏克(以下、和田):「娯楽」として発展したゾートロープなどとは違って、マイブリッジの連続写真は「分析」を目的に考え出されたものだと思いますが、今回はどちらの方向性で進める予定でしょうか。

後藤:空中に浮かぶ光の輪のような、または彫刻作品のようなイメージなので、娯楽とは少し違ってくると思います。「分析」の視点も意識したいです。

軽石で制作した試作

古代にあり得たかもしれない、石と太陽によるアニメーション

後藤:次に2つ目の作品の進捗状況を報告します。壁画をリサーチするうち、3万26千年前にはすでにアニメーションの発想が存在していたという説があることを知りました。というのも、ラスコーの洞窟壁画には動物の動きがコマ送りのように重複させて描かれています。当時、コマの概念があったとしたら、太陽光を使ってそれを立体的に立ち上げる方法があり得たかもしれません。それを石を使用して作ろうと思いました。
壁画自体、儀式のために使ったものだという説がありますが、今回企画する作品が太古の昔にもし存在するとしたら娯楽や記録ではなく、儀式で使われたのではないかと考えました。それで勾玉などを参考にし、装飾にも使えるようなサイズやフォルムを検討しました。軽石と凧糸を使った試作がこちらです。どういう試みか分かりますでしょうか。

―2つの軽石を40本のひもでつないだ試作を提示。それに併せて映像を再生し、プロジェクターの光を当てた様子を見せる。

後藤:スリット光が移動することで、人間が万歳しているような動きが浮き上がります。今後は、ひもの本数を増やすことで繊細な動きを作り出したいと思っています。

戸村:動きが見えると驚きがありますね。文字を持たない民族は、歌や絵で物語を伝承していくと思いますが、それを視覚化するとこういうことなのかな、と思わされました。

和田:これが当時に存在したら魔法だったでしょう。素材として軽石は良いですが、凧糸の部分は、より古代を感じさせる素材を使うとよさそうです。

後藤:太陽光で「動いた」「生まれた」という感動につながると思います。ひもの素材は、麻ひもなどを太古にも存在しえた素材で検討中です。モチーフの選定は難航しています。人がいいのか、丸から生まれる形などがいいのか、それとも動物もありえるのか……。

戸村:幾何学的なモチーフは、文明や文化に寄りすぎるのでテーマと相反してしまうかもしれません。何かしら、畏怖する対象のものがいいですよね。

和田:四つ足の動物もやや難しいと思います。鳥の羽ばたきなどは可能性がありそうです。

後藤:鳥は思いつきませんでした。ちなみに1つ目の作品は動きを複数に分割しますが、こちらは基本的に“0から1への動き”なのです。が、鳥の動きも、確かにできそうです。ところで軽石とは別に、焼き粘土でも試作してみました。こちらだと間にシーンを入れられるのですが。

―焼き粘土で成形した試作を披露。

戸村:一見して形が分かってしまうので、軽石に比べて、光を当てたときの驚きに欠けるのではないでしょうか。

和田:これはこれで、原始的な祭礼に使う道具のような感じが出ていますよ。動きのバリエーションが広がるなら、こちらの手法もメリットがあるのではないかと思います。

後藤:粘土板のフォルムを色々と変えることで可能性が出てきそうです。ただ、軽石を使いたい気持ちが強いです。実際に加工してみて、加工のしやすさと質感も魅力だと感じました。

戸村:軽石でのシンプルさは捨てがたいですし、その方がメッセージ性が強くなり、想像も膨らみやすいでしょう。

作品完成に向けたモチーフの選定

後藤:今後、石での作品制作を進めるためにもモチーフの選定を急がなくては、と思っています。

戸村:子供から大人へフォルムが変化していく、というのもあるのではないでしょうか。ほかには当時まつられていたものから考えるのも一つのやり方だと思います。

後藤:そう考えると、種みたいな小さなものから人間に進化するというストーリーもよさそうですね。あとは太陽との相性もうまく取り込めたら、と思います。

和田:「手」「目」なども象徴として考えられますね。ピラミッドにも目が描かれていますから。

後藤:閉じていた目が開く、というのもおもしろそうです。色々なモチーフで作りながら考えたいと思います。サイズ感はいかがでしょうか?

戸村:持ち運べるというメッセージがありますよね。身体感覚にしっくりくるところもあるので、このぐらいのサイズがよいのではないかと思います。

後藤:作品をどこまで作り込めるかが課題です。今回アニメーションの手法自体が発見だったので、成果プレゼンテーションではそのあたりが発表できたらいいなと思っています。

―2月23日に開催される成果プレゼンテーションでは、アニメーションを生み出す仕組みを中心に、木と石による2作品のプロトタイプと、太陽光を用いたデモンストレーション映像が発表される予定です。