吉野耕平さんは、第14回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で作品『ab-rah』が審査委員会推薦作品に選出されました。今回採択された企画『ブタとサカナ』(仮)は、緑の海で繰り広げられる巨大なサカナとブタの漁師たちの戦いを描いた短編アニメーション作品です。いったいどのような作品に仕上がるのでしょうか。

吉野さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家の野村辰寿氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。

シンプルな冒険活劇をどう表現するか

吉野耕平(以下吉野):とにかく動きの気持ちいいアニメーションを作りたい。シンプルな冒険活劇を描き、そのなかに喜怒哀楽を入れ、ミュージカルのような音楽とリンクした作品を目指しています。
陰影がないマットな質感のCGアニメーションでシンプルな表現にしたいです。

―吉野さんはストーリーをはじめ、キャラクターの設定画(モデリング)や絵コンテなど、すでに制作が進んでおり、それに関する話が続きます。

吉野:この作品を企画した時点では設定していませんでしたが、主人公となるキャラクターを確定させてそれにフォーカスし、海底の遺跡の設定や世界観を決めてモデリングすることにしました。キャラクターについては骨が入ってなんとか形になったので、今後はレイアウトを決めてゆきたいです。ただ、海や波の表現に苦心していて、段々荒れてくる際のスピード感は、過去の有名なアニメを参照してみようと思っています。同時に、平らなイカや、飛ぶイカなど、他の生物も作り始めています。ストーリーの後半には海底の街がでてくるので、この街の表現の幅を広げてみたいです。

野村辰寿(以下野村):企画の段階からメジャーな企画だとは思っていました。CGという技法をどう捉えるかを考えた場合、これから個人で制作するCGはスタイルで攻めるしかない。ポップでありながらどれだけオリジナリティを織り込めるかが勝負なので、つるっとしないための工夫がポイントになってくるでしょう。

田中秀幸(以下田中):今の段階だと表現にやや既視感があるから、そこをどのようにオリジナルとしてもっていくかが勝負だと思う。細かい内容やストーリーは自分がもっているものを進めた方がいいけど、表現が勝負になるので表現方法はオリジナルを出せるようにした方がいいですね。

表現の足し算と引き算

―当初の企画からの変更点や設定を説明しつつ、制作途中で見えて来た表現についての課題も率直に語る吉野さん。3秒ほどのテスト映像を制作されてきたそうで、それをアドバイザーに見せて意見をうかがいます。

吉野:とにかく手法は極限まで減らして行き、そこから考えたい。キャラクターの動きはぬるっとした表現が可能だが、波の表現をどうしようか悩んでいる。

田中:そこはじっくりテストした方がいい。締切に間に合わせるという、いわゆる「仕事」としてではなく、納得できるところまでやった方がいいよ。表現の部分をテストして、今まで無かった表現がベースになって作品自体の新しい表現方法が出来上がっていないと、それ以外の部分を頑張ったとしても、突出した作品になりづらいと思う。

野村:波打つ曲面のシミュレーションはできるが、ザバンという表現の処理が難しそう。だけど、そこに表現の答えがあるように思われる。「面」的な表現がされていても、透明感をどう出すか、海に入った際の遠近感とか、水の中の世界の美しさがこれまでにない表現になるかとか。水を介して見える先がどのように透けて見えるか、あるいは光の入り方とか、吉野君の画期的な水の表現ができるといいのではないか。

田中:水だけに特化してもいいかもしれない。水以外のところでもいいとは思うが、どこかに表現のオリジナリティがほしいですね。つまりどこに作品の魅力を持ってくるかというところですが。

野村:作品の規模もあるので逆算して現在のような表現になっていると思うが、今は引いているばかりなので何かを足してみてもいいと思う。こうしたことをリサーチ、研究すると時間が結構かかるが、しっかりやった方がいい。

映像と音のシンクロ

―表現のオリジナリティが課題として浮かび上がったが、もう1つの課題として音の問題に話は移ります。

吉野:音楽は自分でつけるのではなく別の方にお願いすることを予定しています。誰にお願いするかはこれから検討しなければいけませんが。

野村:セリフがある作品ではないので、音が重要になりますね。『ファンタジア』とか、音に合わせて豊かな動きがあるということが重要。細かい構成を発注して、そこに動きを合わせるようにした方がいい。また、細かい動きに対応できる柔軟性が必要になってくるので、絵に音楽をあててくれる人に頼むのがいいです。

田中:がっつり一緒にやってくれる人とやった方がいいし、その方が結果うまく行くと思う。音楽と映像のシンクロが完璧になるような考え方を持った方がいいでしょうね。

―次回の面談は9月を予定していますが、それまでに作品の基本形は完成している予定とのことです。また、海底の街なども他のスタッフに基礎を作ってもらい準備を進めながら、課題となった表現のオリジナリティについてリサーチや、音楽を作ってくれるパートナー探しを行うことになりました。