三原聡一郎さんは、作品『 を超える為の余白』で第17回文化庁メディア芸術祭アート部門の優秀賞を受賞しました。今回採択された企画『空白のプロジェクト#3 虹をかける糞土』は、『 を超える為の余白」に続く、三原さんの「空白のプロジェクト」3つめの作品です。

アドバイザーを担当するのは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏と、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

―初回面談は、三原さんが滞在中のオーストラリアと日本を繋いでのSkype面談でした。

太陽の象徴としての「光」

三原聡一郎(以下三原):『空白のプロジェクト#3 虹をかける糞土』は、微生物燃料電池の発電エネルギーにより電球を光らせ、そこから小さな虹の発生を試みるという、交換不可能な価値の探求を目的としています。微生物燃料電池は、無機物の化学反応ではなく生命活動を用いることが特徴で、その生成プロセスでは有害物質の排出がなく、逆に浄水や土壌の無機物の分解などを行います。発電する上で重要な役割の「鉄還元細菌」は世界各地の土壌で発見されており、世界中で作ることが出来る。微生物学、生化学、電子工学に跨る学際的応用領域の研究分野です。生命体の活動自体がエネルギーをつくる微生物燃料電池に、「いのち」を考えるきっかけを見出しました。

―オーストラリアのパースにあるバイオアートラボ「SymbioticA」にてリサーチを続けている三原さん。コンセプトに基づき、綿密なリサーチを重ねられているそうです。

遠藤雅伸(以下遠藤):アウトプットが発光による虹の発生というのは最適でしょうか。「発電しているという実感」を強調するものはモーターなどの「動き」のある物理的なアウトプットである方が力強い印象がある。消費電力の少ないマイクロモーターであれば実現できるかもしれないので、検討してみてはどうですか。

三原:今回アウトプットを「光」としたのは、光が生命の根源である「太陽」の表象として作用すると思ったからです。微生物燃料電池の生成する僅かな電力をどう活かすかを考えて、発光によって虹を作り出すのが最適だと考えました。ただ、モーターについても調べていきたいと思うし、動きという意味では光を点滅させることなどを検討しています。

リサーチからの新たな発見

―実験の資料写真を解説する三原さん。実験を行うにつれ新しい発見があるそうです。

三原:様々な場所での土壌取得の結果、現在は海水と有機物を多く含んだ砂浜の砂を使ってどのように微生物燃料電池を製作すれば発電量が上がるか試行錯誤している段階です。例えば電池のセル(容器)の中で嫌気呼吸が必要な下部は土の色が淡い色から濃い色に変化することがあるが、このような変化は電流生成に必要な嫌気呼吸の状態を示すサインだと見られます。他にセルサイズ、土の量、そして電極間の距離、そして微生物のコロニーを電極周辺に集める方法など幾通りも試しています。また、正極のカーボンファイバと銅線の接触部が一部緑色に変化する現象が見られ、電流生成との関連性を感じています。生成される電流同様、小さいですが興味深い兆候がいくつも出現しています。

遠藤:緑色は銅線に沿って発生しているので銅イオンではないでしょうか。おそらく緑青ですね。自由の女神や大仏の緑色と同じです。発電量が上がるのはその銅イオンがメディエータとして機能しているからではないだろうか。

畠中実(以下畠中):このようなリサーチ過程で発見する事柄は、専門家に聞いて分かることが多いのですか。

三原:微生物燃料電池の研究は、今のところ定石が定まっていないように思われ、それが故に魅力なのですが、専門家の数だけ様々なタイプが試行錯誤されているように見受けられます。僕はサイエンティフィックなアドバイスやペーパーに基づいたアプローチ以外にもアート作品として成立させる為の試みを行っているので、この作品に興味をもってくれている研究者もいます。

畠中:このプロジェクトでは、リサーチ過程で生じる、思ってもみなかった副産物にも作品価値がありそうですね。

アートの文脈における光、土壌、排泄物

畠中:現在は技術的な側面のリサーチは順調に進んでいると感じられますね。今後はコンセプトやメッセージを伝える為の文脈を重ねてゆくことで、作品の強度は上がっていくでしょう。光=太陽であり、土壌、そして排泄物のアートの文脈における意味合いはとても重要。排泄物での実験は行っていますか?

三原:まだ微生物燃料電池に排泄物を使用する段階ではないです。コンセプト的に重要だが、確実な方法で発電のレールを設計してからと考えています。排せつ物を用いた作品に、ピエロ・マンゾーニの『芸術家の糞』やアンディ・ウォーホルの『ピス・ペインティング』などがあるが、それらとは異なった身体の扱い方を提示したい。

畠中:科学的な視点と、アートの視点。このふたつのどちらもアウトプットに結びつくといいですね。手法をどのように表現として見せるかが重要で、同時に作品制作の中でも面白いところになると思う。

遠藤:なにかかっこいい名前がほしいところですね。

―リサーチをつづけてきた三原さん。アドバイスを受けて新たな発見もあったようです。三原さんが「SymbioticA」でリサーチを続けるのは残りわずか。秋には日本へ帰国し、制作拠点を日本へと移します。9月の中間面談が楽しみです。

最後になりますが、本企画の制作にあたり三原さんからメッセージが届いているのでご紹介します。

本プロジェクトを通して、アドバイザーの皆さん含め、多くの専門分野の方達との意見交換を行いたいと考え計画しております。同時に、この一見奇異なプロジェクトに興味を持って頂けた人と可能な限り対話をしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
協力:SymbioticA, Rochelle Maire(La Trobe University)