三原さんの採択された企画『空白のプロジェクト#3 虹をかける糞土』は、交換不可能な価値の探求を目的とした微生物燃料電池の発電エネルギーによる小さな虹の発生を試みるアートプロジェクトです。研修先のオーストラリアから日本へ帰国し、制作拠点を移した三原さん。中間面談ではアドバイザーとはじめての対面となりました。

三原さんのアドバイザーを担当するのは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏と、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

微生物燃料電池の現状報告

三原聡一郎(以下三原):前回、微生物燃料電池や作品の方向性についてお話しましたが基本的には変更ありません。初回面談後もパース(オーストラリア)にいる間は微生物燃料電池の制作を続けていました。現地の研究者には「研究レベルとして見ると電力生成値は低いけど、君のやりたい事はなんとかなるよ」と言ってもらえました。

遠藤雅伸(以下遠藤):電力量の数値は、微生物燃料電池の「量」で調整するしかないね。

三原:電気的な懸念は、昇圧回路や蓄電回路自体に電力が使われるということを極力無くさなくてはいけないということです。IC(集積回路)を使わずにトランジスタとコンデンサだけでできるマッチポンプ回路にトライしています。電子回路に詳しい友人とともに開発していて、この作品に必要な電力量のものなら計算上作れる見込みです。

―技術的な問題があった微生物燃料電池も、完成までの見通しがついてきました。

リサーチの経過について

三原:いろいろな研究者にアポをとってリサーチをしているのですが、パースの研究者の話が印象的でした。彼女は微生物燃料電池が副次的に行う浄水効果の研究をしていました。彼女は汚物などを色々と調べているのですが「自分の排泄物にも電流生成菌が存在しているとDNA解析で判明した。おそらくどの人間の排泄物にもある程度の電流生成菌はあるだろう」とのことでした。その話は僕の作品の流れから捉えても、とても面白いと感じています。

今は、僕が最も参考にしている研究者にコンタクトをとろうとしていて、どうすれば興味を持ってもらえるかを考えています。他にも、国内の消化器系の研究者に「どのように生活すれば、僕の理想の排泄物を生み出すことができますか?」と聞きに行こうかと考えています(笑)。僕自身はまだ9月に帰国したばかりなので、協力者とのコネクション作りや国内のリサーチを進めています。

汚いものと綺麗なものの曖昧な境界

三原:排泄物を扱うことは、衛生面から気を使います。パースの研修先であるシンバイオティカでも作業できるラボとそうでないところがありました。素材としては排泄物と土のミックスが雑菌の繁殖を抑えられ、かつ微生物の活動にプラスであり、同時に燃料電池セルの仕様がきちんと密封されているようなものを考えています。「うんこ」という言葉がもつ力も良い面と悪い面がありますね。排泄物で作品作っているという話をすると面白がられますが、実際に具体的な話しになると、、、、みたいな。

遠藤:なにか良い言い方はないですかね。体の中にある状態のものをそのまま使っている場合は問題ない訳なんだけれど、体外にでた瞬間から排泄物として嫌がられてしまうのですね。

三原:排泄物を使った作品の中でもウォーホルの『ピスペインティング』のキャプション素材表記はどう書いてあったのか気になっています。マンゾーニの『Artist’s Shit』は、缶詰の中が本当は排泄物じゃない可能性もあるんですよね。

畠中実(以下畠中):マンゾーニ作品のキャプションの素材表記は確認していないな。でもウォーホル作品は確認できそうですね。今回の三原さんの場合はどうなるんですかね。完全に密封されたいわゆる「電池」になっていれば、マンゾーニ作品と同じという訳ですね。

三原:それは受け手側の判断にもよりますよね。

遠藤:今回の場合、透明の容器で中が見えているほうが良いと考えていますか?どちらが良いんでしょうね。

三原:微生物燃料電池の容器は透明にしようと考えていて、作品につかう砂と混ぜたものの見た目はまるで土のような感じです。

遠藤:こういうのって、ポイントは本当に言い方や伝え方次第なので、よく考えてみましょうか。

作品のアウトプットの方法

―アドバイザーとの議論はインスタレーション作品としての発表方法についての話に変わります。

三原:蓄電システムと発光デバイスをどうするか。使い捨てカメラの小型キセノンランプを用いたプロトタイプを作ろうと考えています。そして強い光を点灯させるべきか、弱い光をたくさん点灯させるかなど、なにがベストなのか検討しています。

畠中:作品のアウトプットの話ですが、「電力を生成する」というシステムの考え方と、「どう見せて表現するか」という考え方がパラレルに走っていますね。アウトプットの形は作品コンセプトと合わせてよく考えた方が良いと思います。光は象徴的な意味が出るのでなおさらだと思います。どちらもチャレンジングだけど、そろそろ作品としての意味を固める時期ですね。

三原:光は虹色になるので、最終的には太陽のメタファーにしたいなとは考えていますが、その太陽が「ひとつ」か「いくつか」では意味が全く違くなると思います。

遠藤:か細い光であっても感動に繋げるという方法がありますよね。たとえ光が弱くても、その背景にある電池の部分がものすごい数で構成されていれば、そこに感動は生まれると思います。

三原:そうですね。「微生物の生命活動から直接電子がとりだせている」という驚きを伝えなければならないと思います。電池の並べ方を含めてインストール方法や光の輝く場が重要ですね。今回の作品はキラキラとした光量のインスタレーションには見た目の派手さで敵わないんですが、この作品には強いストーリーがあります。

遠藤:展示空間のなかで、微生物燃料電池を照らす照明についてはどう考えているんですか。

三原:展示空間で「展示に電力を使うかどうか」は、コンセプト全体に関わってくる大事なところなのでよく考えます。照明だけでなく作品全体に関わることですが、 作品自体をショーアップするような演出をするつもりは特にありません。この微生物が生む現象自体のエネルギーの大きさや速度がそのまま感じられるものであれば良いなと思っています。

今後のスケジュールについて

三原:今後はコラボレーターと制作補助をお願いしている人達とで合宿をしたいと考えています。最終的な展示に使えるレベルの微生物燃料電池ユニットのプロトタイプをそこで作りたいと考えています。

遠藤:あとはどう見せるかだけがポイントだと思います。体験者がギャップを感じて驚きを与えられると良いと思います。

畠中:コンテクストの問題もあります。微生物燃料電池とアートを串ざすコンテクストは固める必要がありますね。

―いよいよリサーチも正念場を迎えた三原さん。これから本格的な作品制作が始まります。