Strickerは、代表のゴッドスコーピオンさんを中心に、オルタナティブスペース「渋家(シブハウス)」のメンバーとともに制作される作品。街中でみかける「ステッカー」というストリートカルチャーから生まれる、地図を使ったインターネット上の新しいコミュニケーションツールです。

アドバイザーを担当するのは東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

移動するモニュメント

―現在、スマートフォンのアプリケーションのモックアップ版を12月末の完成を目指して開発中。そのため、ユーザーテストに向けて改めて内容を見直したという企画書の説明からスタートしました。

宮城恵祐(以下宮城):当初の企画ではiBeaconを搭載したモニュメント「ストリートゲットータワー」をリアル空間に作るというお話をしていましたが、「車と屋台」に変更しようかと思っています。「車」は改装・デコレーションをして、iBeaconを搭載することで近づくとステッカーデータが入手できるというシステムを考えています。もうひとつは移動できる店舗としての「屋台」で、屋台ではデモンストレーションや、実際にステッカーの販売などをします。屋台にもiBeaconを搭載し、近づくとステッカーデータが入手できるようにしたいと思っています。

ゴッドスコーピオン(以下ゴスピ):あと、実際にStrickerが完成したあとで、どんな人にどんなシーンで体験してほしいかを考えました。例えば、猟師、漁師、釣り人、トラベラーなどが考えられます。
あとは、自治体も考えています。以前、知人の静岡市議会議員に相談した際に「市議会議員の仕事というのは、役所に問題が寄せられても時間がかかり、いつまでも問題が解決しないので、実際に現地に行って問題解決するというのが大きな仕事」ということを聞きました。その話を聞いて、実際に問題が起きている街中の位置情報にステッカーデータをボムすることによって、街で起きている問題を解決できるということをみんなで共有できるんじゃないかと考えています。
そして、お祭りなどのイベント。各地でおきる体験談などをスムーズに観測して記録できるので、効果的に発信することができそうです。

Stricker屋台の完成イメージ

Strickerの持つ二面性

遠藤雅伸(以下遠藤):二人の話を聞いて、このプロジェクト自体に二面性があるところが面白いなと思いました。デフォルトの機能をそのまま使うことに対して、ユーザードリブン(ユーザー自身が独自の使い方を行う)な部分があることですね。
そのあたりをもう少し意識的に考えてもいいと思います。少し「便利さ」から離れて、ユーザーの考えようによって二次的に何かが生まれる。絶えずオルタナティブなものに分岐していくという構造があるので、常に二面性がありバランスが取れているのが面白いと思いました。

ゴスピ:一昨日、エンジニアと設計思想の話をしました。ステッカー情報を無作為に地図データに頒布することも可能で、ステッカーをある程度配布して、この企画が進んだときにはユーザーアカウントの話が出てくると思うんです。単純にアカウントを作るというのはありがちですが、ユーザーにとってはステッカーの画像がアイコンとなっていく可能性があって。新しいイメージとアカウントを考えていけたらいいなと考えています。

遠藤:ただ、Strickerの使われるシーンをお話してくれましたが、「本当にそう?」という気もします。例えば猟師だと、自分が罠をかけた場所をこのようなツールで覚えないですよね。そもそもそういった人はすでにプロ用のツールがあるわけで。スマホが圏外だったらどうしようもないと思うんです。

畠中実(以下畠中):「こういうふうに使えますよ」という提案って、結局ユーザーは乗り越えていきますよね。だから後々のことを考えると、先に言ってしまうのは格好悪いことになる可能性があるから敢えて言わなくてもいいかなと思います。ですが、話してくれた中では、自治体というのはひとつのソリューションになり得る。市民がもつそれぞれの地域の不満がStrickerで可視化される。これはいろいろな人がやると一旦はカオスになるだろうけど、徐々にルールができていくというプロセスがあると思うから、ある共同体のリテラシーを生むシステムになるかもしれません。

“リアル”と“ローカル”での可能性

―アドバイザーのふたりが可能性を感じるという“リアル”と“ローカル”。その理由について話は進んでいきます。

遠藤:「車や屋台」があることで可能性を感じるのは、例えばイベントなど目的を持って集まっている人がいる空間です。使うことによって生まれる“何か”が期待できますよね。

宮城:各地のイベントの運営側など現地の方に公式アカウントを使って使用してもらって、そこから徐々に広めてもらうことを考えています。

遠藤:既存の大きなサービスと比較してどこに勝てる部分があるか、その人が使いたいというモチベーションがどこにあるのかが重要です。運営と関係ないところで誰かが「これ便利なんだよね」と言ってもらうことからヒットが生まれるので、“引き”がないといけない。例えば、複数のイベントでStrickerを体験してくれると一つのイベント専用のツールじゃないことがわかりますよね。「他の情報も見る」などのボタンを押すと、Strickerの全貌が見えるとか。要はきっかけをどうするかですよね。
私は最近「人はなにに興味を失うか」という研究をしているのですが、人は手間が多かったり、時間がかかることが「予測できる」とやめてしまう。つまりできる範囲が限定的なイベントは効果的だと思うんです。

ゴスピ:屋台は組み立て・解体が早いんですよね。

畠中:最初はタワーというモニュメントでしたね。モニュメントは場所が限定されるけれど、車や屋台は移動できることがメリットだと思うんです。僕が子供の頃、コカ・コーラ社が展開していたヨーヨーがとても流行っていたのですが、普通の小さな公園に「アメリカから来たヨーヨー名人」がきて、デモンストレーションをするんです。この広告プロジェクトは大規模なんだけど、実際には街の公園に子供を10人くらい集めてやるという感じ。それで実際、コカ・コーラのヨーヨーはものすごく流行った訳で。なんだか似ていると思います。Strickerのステッカーには、銘柄の違うヨーヨーを集めるようなコレクション欲も感じさせますね。

遠藤:地方や自治体にしてもイベント感というのはとても大事だと思いますので、可能性を感じています。

―2月の成果プレゼンテーションでは、アプリケーションのモック版を披露する予定です。最終面談でのアドバイスがどのような形でアウトプットされるのか、期待したいと思います。