安野さんの企画は、第17回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品でもある『ゾンビ音楽』とロボット掃除機を合体させて『動くゾンビ音楽』を実現させる企画です。

安野さんのアドバイザーを担当するのは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授/日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏と、アートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。

動かすことで見えてきた課題

―今回は、実際に完成直前のゾンビに見立てたロボット掃除機を持ってきてくれた安野さん。ゾンビを組み立てながら最終面談はスタートしました。

安野太郎(以下安野):開発もついにここまできました。ですが、「指運アルゴリズム」については、改良の余地があると思っています。現段階ではルンバが壁にぶつかった方向によって塞がれる穴が増減するだけの単純なアルゴリズムなので、あらゆる指使いをして豊かな音階を奏でられるようにしたいと思います。ロボット掃除機の動き自体には手を加えていません。また、最近美術館で仕事をする機会があったので、5日間ほど美術館でテストしました。すると、いくつかの問題点が見えてきたんです。
ひとつめは、掃除機のフィルターがすぐに詰まるということ。フィルターが詰まると音がでなくなります。ロボット掃除機の上のゾンビ部分は重さがあるので、掃除機の部品をいくつか外しているのですが、それでもやっぱり細かいゴミを吸ってしまうんです。そのため、定期的にフィルターの掃除をして、展示する床もきれいにしておかないといけないんです。

田中秀幸(以下田中):ゾンビのロボット掃除機が動き回るために、普通のロボット掃除機が動き回って床を掃除するというのもちょっと面白いかもしれませんが(笑)。

安野:ふたつめは、美術館のような広いスペースだとなかなか障害物に当たらないので、音がなかなか変わらないということと、そして、高さのない狭い空間に弱いということなんです。ロボット掃除機は進もうとするのですが、上部のゾンビ部分がぶつかったりするので、解決策として、専用のシールドを作ることを考えています。

遠藤雅伸(以下遠藤):いいですね。シールドは湾曲していれば強度も出るし、それほど重くもないので、例えば、側面に貼るだけでもよさそうです。ロボット掃除機本体の白色は少し骨のようで、対してゾンビの部分は内臓のようにも見えるので、シールドもそのように見えるといいかもしれないですね。みんな興味を持って作品を見てくれそうです。

音楽を奏でるための音のバランス

―組み立てられ、充電が完了した作品を実際にプレビューしてみると、新たな課題が見えてきました。

田中:気になったのは、モーター音と笛の音のバランスです。今のままだと笛の音がモーター音に負けているので、ゾンビが大量生産されたときの音はどうなるのかが気になります。

安野:音はもっとよく鳴らしたいです。効率的な空気の循環も考えないといけないと思うので、工夫の余地はまだまだあると思っています。今は途中で空気が漏れている気がします。

田中:排気口と笛のつなぎ方の問題だけではなく、ロボット掃除機の仕様で、すこし横から空気が漏れるような構造になっているかもしれません。あとは、モーター音が大きい気がしました。ただ、モーター音より笛の音のレベルが高く聞こえてくれば、むしろ二つの音で音楽になると思うんですけど、今のままだと笛の音が小さすぎますよね。

演奏を途絶えさせないための量産

安野:現状、私が考えているプログラムでは、20分間の演奏をしたら30分間充電するというループになっています。

遠藤:必ずどれかが動いている状況にはしたいですね。稼働時間と充電時間の比率分を考えて台数を用意しないといけませんね。ところで、充電後の再スタートは自動ですか?

安野:自動で再起動します。

遠藤:よかったですね。それができるか否かで展示の形態が全然違います。

安野:ただ、充電スポットに戻るときに不安があります。ごく稀にピットに戻る前に止まってしまうことがあるんです。

遠藤:部屋が広いと途中で動かなくなる可能性はありますよね。充電スポットの配置などの検討をする必要があるかもしれません。

どうやってバズらせるか

安野:本作をどのようにアウトプットしていくかをご相談したいと思っています。やはりバズらせたい(SNSなどで拡散させたい)ので、現段階ではYouTubeに動画を投稿する方法などを考えています。掃除をしているだけのゆるいだけの動画のほうがいいんでしょうかね。

遠藤:そのほうがウケるでしょうね。例えば、ネコがゾンビを追っかけているなど、ゆるい動画を視聴した後に、ウェブサイトに遷移するとしっかりとした設計図が載っているなど、ギャップがあるのもいいかもしれません。

田中:動画はいいですね。Youtubeにアップするのであればゆるい動画がいいのかもしれませんが、動きのおもしろさは伝わっても音楽を奏でていることは伝わりにくいかもしれません。本作は音楽を奏でることが主題なので、最終的には作品をプレゼンテーションできるような動画を撮影したほうがいいと思います。

―問題点が見えてきて、これからブラッシュアップと量産を進めるという安野さん。成果プレゼンテーションでは、実機の実演と、作品のコンセプトや背景、制作過程を話すとのこと。2月が楽しみです。