第18回文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門で、ドリタ/エアガレージラボ(川内尚文/佐々木有美)として作品『Slime Synthesizer』が新人賞に選出された佐々木有美 + ドリタさん。今回採択されたのは、『Bug’s Beat』というバイオ&サウンドアートです。特別なマイクロフォンで採取した昆虫(Bug)の微細な足音を爆音にして聴くと、まるで自分が虫の大きさまで小さくなり、昆虫の世界に入り込んだように感じる体験となることを目指して、新しい音楽体験を創出します。

担当するアドバイザーは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授、日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏とNTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

きっかけは科学館のワークショップ

―まずは、『Bug’s Beat』について、これまでのお二人での取組を説明してくださいました。

佐々木有美(以下、佐々木):私の職場は科学館なんですが、以前に紙コップの裏側にピエゾ(圧電素子)をつけてダンゴムシの足音を聴いてみようというワークショップをやりました。子どもの興味を引くには良かったんですが、ピエゾと紙コップだけだとうまく音を拾えませんでした。次はもっと大きい音で聴きたいと考え、コンデンサマイクを使って空気の振動から音を拾ってみたのですが、ある程度の大きい音を聴けるようになったものの、子どもの声でハウリングしてしまって逆に体験できない状態になってしまいました。

その後、おもちゃの「虫の足音を聴く装置」を入手することができ、試したんですが、こちらはイヤホンで聴くタイプのもので、大きい音で聴かないとこの作品の理想的な体験ではなく、やはりスピーカーから大きな音を出して聴きたいと思いました。

ドリタ:それからどうしようかと二人で相談していたところ、特別なコンタクトマイク(接触式のマイク)の存在を知り借りることができました。他にも音響に詳しい知り合いに相談をしてアドバイスをいただいたり専門家をご紹介いただいたりしながら、実験を繰り返しています。

素材と音の関係性

ドリタ:借りてきたコンタクトマイクを使った実験の映像があるので、どんな感じかを見ていただきたいです。

―マイクの上にベニヤ板と枯れ葉を乗せ、その上を虫がガサガサ歩く音を録音した映像をアドバイザーに見せながら面談は続きます。

畠中実(以下、畠中):この映像は、実際にスピーカーで音を鳴らしているところを撮っているものですか?

ドリタ:はい。それまではマイクから直接ギターアンプにつなげていたのですが、このときは、ミキサーとプリアンプを間に入れてハウリングを解消し、撮影しました。

畠中:この音にリバーブ(残響)がかかっているのは、録音した場所のせいですか?

ドリタ:いえ、リバーブのエフェクターをかけてみたんです。虫の足音を楽器としてどうすれば良いかも悩んでいるんです。

畠中:リバーブがかかっていない音で一本一本の足の音を聴きたいんだけど、これだとすごくリバーブがかかっているので、まったく別なものに聞こえてしまいますね。

遠藤雅伸(以下、遠藤):効果を出そうとして余計なものをつけてしまったようですね。この実験では、コンタクトマイクに接しているものの重さに対して虫の重さは極端に小さいので、虫自体の重さから出る振動を拾っている訳ではないと思うんですね。

佐々木:はい。マイクとつながっている部分の素材を変えると、全く違う音になります。

遠藤:虫の重さに対して、振動板は軽くて強度のあるもので、それ自体が振動しにくい材質でなければ良質な音が得られないのかもしれません。そして虫の足の本数が多いほど特徴は出にくいですよね。まずは、足の本数が少ないそれなりに大きさのある虫で試してみて、徐々に虫を小さくしていってどの音がノイズでどの音が足音であるかを判断できるようにしないといけません。この虫だと足音というか板にひっかかってる音がしますね。

―ここで実際にセッティングされたマイクを使ってのデモンストレーションが行われました。コンタクトマイクに薄いベニヤ板と割り箸と枯葉を乗せて、その上をわらじ虫が歩いてガサガサという音が響きます。

佐々木:この音を聞いてもらうと、虫はベニヤ板にひっかけながらて歩いているということがよくわかると思います。

遠藤:確かにひっかかっているのがよくわかります。リバーブをかけるよりこれを聴く方がより効果的ですね。

ドリタ:振動板の素材として、今考えているのは、ブリザーブドフラワーを漂白しただけのものを使えないか検討しています。硬いですし、音的にもデザイン的にも良いのではないかと考えています。

遠藤:いいですね。問題はハウリングを起こさないことですね。

佐々木:大きな音が出たときが心配です。繊細な音を拾うので、自分がワッと言ったら、その声を拾っちゃうんです。

遠藤:コンデンサマイクを使った空気振動の場合だったら、鑑賞者の声や振動は、サスペンションホルダーを使ったり、マイクをきちんと覆えばハウリング対策は何とかなりますよ。
でも、さきほどの映像の音を聴いてたら、コンデンサマイクで拾うよりもコンタクトマイクの方が良さそうですね。それでいくと決めたならその方がいいでしょう。ベニヤに足をひっかけている音は現実感があってとてもよかったです。それにしてもコンデンサマイクと同じように余計な振動を拾わないように対策は必要ですね。

理想の虫を探して

遠藤:コンセプトに戻るんですけど、小さい虫の方が良いのですか?

ドリタ:そこはいま、虫の種類を考えているところです。

遠藤:虫が嫌いな子どもが多くてノートの表紙から虫の写真が消えるご時世で、子ども達が興味をもつ虫はなんなのか考えることも必要ですね。それは作者の好みの問題とは別で考えるところだと思います。

佐々木:科学館でワークショップをやっていて考えるのは、子どもにとって身近な虫が良いというところです。実は私たちの足元に虫がいるということを知って、1匹見つけると突然10匹見つけられるようになったりして新しい視点を見つけることができます。最初にダンゴムシを触れなかった子どもも、次第に触れるようになってくるんです。ヘラクレスオオカブトとかはすごくかっこいいけど日本にはもともといない虫ですし。

畠中:歩いているスピードや動きの感覚。それに足の本数なんかもこの作品には重要なんですよね。その条件の中でできるかぎり大きい虫っているんですか?

佐々木:ヤスデとかが良いですね。でも育てようとすると難しいです。

ドリタ:やはり、私たちが飼えないとだめなので、安定して歩いてくれる強い虫ですね。虫の選定は大きな課題で、虫の大きさも足の数もバランスよく考えて選びたいです。やはり興味を引く虫もいてほしいし、身近にいる虫もいてほしい。次回までには調べておきたいです。

畠中:音の問題がクリアしたとして、最終的にはどういう形態で体験するかを考えないといけませんね。

遠藤:虫がいっぱいいる環境で、真ん中にマイクがあって、マイクのところを時々虫が訪れてくれたときに楽しめればいいんですよね。大きめの飼育箱のようなものを買って、マイクのところにいく可能性が高くなるようなシステムを作るとか。

佐々木:それ、かっこいいですね!

畠中:どう展示するか、どうプレゼンテーションするかというのも考えていきましょう。ひとつは昆虫天国みたいな感じで偶然そこにいた虫の音が聞こえるリアルな感じも良いかもしれません。作品として展示することを想定するとして、1ヶ月間の展示だとどう継続的に動かしていくのか考える。1日のイベントであれば近くの虫を拾ってくるのでも成り立ちますね。最終的なプレゼンテーションの形態によって選択肢が広がると思います。

―9月の中間面談までに、虫の選定、素材の選定、展示方法の検討、音響の専門家へのヒアリングなど、リサーチと実験を繰り返して作品イメージを具体的にしていくそうです。