2016年2月7日(日)、千代田区の3331 Arts Chiyodaにて、6組のクリエイターと4名のアドバイザーが出席して「成果プレゼンテーション&トーク」が開催されました。

このイベントの中、17時から開催されたトークイベントでは、クリエイターが1組ずつ自身の成果発表を行いました。その様子を第一回(岩井澤健治、鋤柄真希子/松村康平)、第二回(姫田真武、ひらのりょう)、第三回(市原えつこ、佐々木有美+ドリタ)にわたってレポートをお伝えしていきます。

岩井澤健治

最初の発表は岩井澤健治さん。岩井澤さんが今回制作している長編アニメーション映画『音楽』は、同タイトルの大橋裕之氏のマンガを原作に、松江哲明氏と九龍ジョー氏によるプロデュースで岩井澤さんが監督を務め、実写で撮影した映像をトレースして描く「ロトスコープ」という手法で作られます。

岩井澤健治(以下、岩井澤):僕は自主制作による長編アニメーションを作っています。2012年の6月から制作を始めたのですが、3年ほど経ったとき、このまま続けていくのも難しいと考えていたところ、このプログラムで支援していただけることになりました。まず本日は今回の支援で作ることができた5分30秒の映像をお見せいたします。

岩井澤:実写の映像をなぞってアニメーションにする「ロトスコープ」という手法で作っているのですが、これまで支援を受けるまでの3年間のほとんどをキャラクターの作画を貯めることに費やしていて、アニメーションにして動きをだすという作業はほとんどできていませんでした。今回の支援でキャラクターと背景とを合成して動きをつけるコンポジット作業を行うことができたり、背景の作画も進めることができました。お見せした5分の映像も、これまでずっと作ることのできなかった映像です。やっとこういう形でお見せすることができました。

伊藤ガビン(以下、伊藤):超感動的な気持ちです(笑)。このまま進んでいけばバッチリすごいものができそうだなと思います。岩井澤さんの場合はすでに制作が始まっていたプロジェクトに対して途中から支援をするというものだったので、作品について言うことがないというか、どうやって円滑に進行するかをアドバイスしました。僕らとの面談も締め切りとしていい感じに機能したのではないかなと思います。これからもお金がかかる作品だし、今日までに完成するのは難しいだろうと考えていたので、今後協力を集めるためのプレゼンの道具なったらという話もしましたね。

田中秀幸(以下、田中):自主制作の短編アニメーションが生み出されて、世界のフェスティバルで評価される作品は多いですが、アニメーションを作り続けるためにはもうひとつ何かが必要だと感じていたところ、岩井澤さんの企画書では長編を作るだけではなく映画館での上映まで考えられていたんです。もしそれが実現したらアニメーターが作品制作を続けていくためのヒントになるだろうと思ったのが、この作品に支援しようと思った理由です。

岩井澤:最終的には70分の作品に仕上げて、映画館での上映を目指しています。「長編」という言葉のインパクトにはこだわっています。

伊藤:やっぱり最初の企画書でも70分という部分にインパクトがありました。田中さんがおっしゃったように、そもそもアニメーションを作るだけでもめちゃめちゃ大変な作業で、国際的な賞を受賞しても食べていけないという状況があるのですが、70分あればDVDで単品の映像作品として流通することもできるし上映もできる。この作品が実現すると先駆者的な役割をするという期待がありましたが、まずは現時点の素材で編集してみようよと言って編集してもらったところ、つなげてみたら意外と短かったという面白いこともありましたね(笑)。

岩井澤:最初は長すぎて、いじっているうちに尺が短くなってしまったり。

伊藤:ここからまた調整をするんですね。もうすぐ丸4年ですがあとどれくらいかかる感じですか?

岩井澤:あと1年くらいでどうにか…

一同:(おお〜)

岩井澤:それくらいで作らないと僕自身もしんどい部分があって。どうにかこぎつけたいです。

田中:このクオリティで1年後に長編が出来上がったら素晴らしいですよ。

岩井澤:今回の支援でスピードアップすることができたので、それを維持できれば完成できると思います。またここから1年間続けられるか…というところですね。自分でもこの1年間どうやって生活できたか不思議なくらい制作に没頭することができました。

鋤柄真希子、松村康平

二番目の発表は鋤柄真希子さんと松村康平さん。ガラスを積層した撮影台を用いたマルチプレーン技法によるアニメーション作品で、自然の中で生きる生命を描いてきた鋤柄真希子さんと松村康平さん。新作アニメーション作品『深海の虹』では深海の神話を描いていきます。

松村康平(以下、松村):脚本と撮影を担当している松村です。本作の『深海の虹』はまだ完成していない作品なので、本日は鋤柄監督と一緒に着想とあらすじ、そして制作技法についてお話しできればと思います。この作品は深海の神話のようなものを描いていて、ギリシャ神話にも語られるような、種を超えた愛であり我々人間が立ち入ることのできない生命の営みを描いています。太陽を飲み込んだマッコウクジラが、光の届かない深海に生息するダイオウイカに光を届けることで、光のない世界に太陽が届く奇跡を描いた作品です。チョウチンアンコウやホタルで知られる生物発光をモチーフとしていて、光そのものを撮影するのですが、その光自体をアニメイトできないかという試みをしています。

鋤柄真希子(以下、鋤柄):光を描く方法として、反射光で蓄光塗料を光らせるとか、光ファイバーで光を描くとか色々と可能性があります。光をとらえるという意味では、私たち自身もわずかに暗闇の中で発光しているんです。生物発光も色々あるように、私たちも色々な光を描きたいと考えています。ブラックライトを始めLED照明や光ファイバー、画材も蓄光塗料やジェッソ、アクリル絵の具、蛍光色のパステルなどをシーンによって使い分けています。

鋤柄:この一年はどうやったらイカの発光なり生命感を出せるかの実験をしていましたが、今になってようやくイカの描き方が固まってきたところです。

松村:テーマとして神話や民話に興味があるんです。私たちの作品はセリフがないのですが、アナロジー(類推すること)が面白いと思っていて、今の自分たちの生活から神話の意味を類推してもらうようなものを、この作品のビジュアルによって引き寄せてもらえたらなと思っています。

鋤柄:そして時間の考え方もあります。松村さんと話したのですが、このような作品を描くときに時間は直線的ではなくて、時間が輪になっているような感覚で作ると合点がいって良いのではないかと話しています。

松村:この支援プログラムは何らかの成果物の提出は必要ですが成果発表の段階で「必ずしも完成させなくても良い」というものです。本日のプレゼンテーションでは途中段階のものでしたが、作品の完成をお待ちいただければと思います。

遠藤雅伸(以下、遠藤):私はこの企画がCGでやれば比較的に楽にできることをわざわざCGを使わないで表現をするということでだったので、CGでできそうなものを作ってもつまらないと伝えようと考えて担当になりました。深海生物の光り方は未だ謎に包まれている部分も多くて想像もできないような動きをする。そういったものをきちんと研究して描いていってほしいという想いがあったんです。今日見たものの中ではまず「イカが綺麗に光っているな」と思いました。今まで経過を見てきましたが、様々なリサーチを経て思考錯誤して辿り着いた表現だと感じました。このまま進めていただければ良いですね。

伊藤:この支援は作品のどこに役立ちましたか?

鋤柄:それはたくさんあって、様々な画材を用いて表現方法を試すことができましたし、何より透明のセルを大量購入することができたのでとても効率的に作業することができています。昔はもったいないので必要な分を切り取って使っていたのですが、それをしなくて良いのでとても助かっています。また、制作途中からアドバイスをいただけるのはとても新鮮な体験でした。

伊藤:作品はいつ頃完成予定ですか?

鋤柄:2016年の秋頃を予定しています。私たちの制作方法は「描き方」さえ決めることができればあとはやるだけなので、比較的ここから早いんです。

田中:先ほど遠藤さんもおっしゃっていた、CGでは表現できない理由って何ですか?

鋤柄:私たちのCG技術では今のところ、このアナログな手法を超える質感の表現がないんですね。どうしてもCGでは出せないテクスチャがあるんです。

松村:自分たちも想像していなかった表現が生まれる、偶然性を大事にしています。

―次回は姫田真武さん、ひらのりょうさんの成果発表の様子をお伝えいたします。