2016年2月7日(日)、千代田区の3331 Arts Chiyodaにて、6組のクリエイターと4名のアドバイザーが出席して「成果プレゼンテーション&トーク」が開催されました。

このイベントの中、17時から開催されたトークイベントでは、クリエイターが1組ずつ自身の成果発表を行いました。その様子を第一回(岩井澤健治、鋤柄真希子/松村康平)、第二回(姫田真武、ひらのりょう)、第三回(市原えつこ、佐々木有美+ドリタ)にわたってレポートをお伝えしていきます。

姫田真武

三番目の発表は姫田真武さんです。これまで自作自演のうたとアニメーションを組み合わせたアニメーション作品を制作してきた姫田さん。今回制作している『ようこそぼくです』シリーズの第4作目となる『ようこそぼくです4』では、『レッツコリツ』『ようこ、素朴です』『こそこそぼくです』の3曲を収録予定です。

姫田真武(以下、姫田) 僕は『ようこそぼくです』という自作自演のうたとアニメーションのシリーズをこれまでに10曲、シリーズ3まで作ってきました。今回、この支援で制作している作品は、もちろん『ようこそぼくです4』です。今までの『ようこそぼくです』はそれぞれ別のテーマで作ったアニメーションを3,4曲まとめてオムニバス形式にしていたのですが、『ようこそぼくです4』では3曲でひとつの作品になるような感じで作っています。「ようこそぼくですってなんだろう」というテーマで作っています。まだ完成していないので全てをお見せすることができないのですが、現段階でお見せできるものをお見せします。

―ステージの中央に出てくる姫田さん。1曲目の『レッツコリツ』の上映が始まると姫田さんが歌って踊りだし、会場が笑いに包まれます。1曲目と2曲目の間では姫田さんによるパフォーマンス(小芝居)も行われ、2曲目『ようこ、素朴です』も上映されました。

前に出てパフォーマンスを行う姫田さん

姫田:…という具合に進んで、3曲目の『こそこそぼくです』に繋がっていきます。『こそこそぼくです』はまだ完成していないので、これから頑張って制作します。本日お見せできる『ようこそぼくです4』はここまでになります。完成した際には、また皆様にお見せできればと思います。

畠中実(以下、畠中):みなさん笑って見てらっしゃいましたね。姫田さんの場合、既に最初から世界が出来上がっていました。一緒に姫田さんを担当した野村さんはアニメーションの専門家ですので、野村さんから技法的なところを始めとして様々なアドバイスをしていただけました。今年度のクリエイターはアニメーション作家が多いなか、メディアアートを専門としている僕が担当したのは若干例外かもしれませんが、今回関わらせていただいて非常に面白かったです。今日上映したものに加えてもう1作品が加わって完成するパッケージですが、12月の最終面談では1曲目のみでしたから、すごい急ピッチで制作が進みましたね。『ようこ、素朴です』の声は先ほどの上映では姫田さんの声でしたが、この曲は女性の声に変わるんですよね?

姫田:はい。女性の方に歌ってもらう予定です。

畠中:他のアニメーション作家が材料費やスタッフ費が嵩むところですが、姫田さんは自分自身でやらなきゃいけない割合が多いと思います。あまり音楽以外では人に頼むところがないんですね。

姫田:そうですね。やはり音楽制作費ですね。あとは色塗りのお手伝いという形で活用させてもらいました。

畠中:あまりの作業量に姫田さん自身が諦めかけたこともありましたが、どうにか形にしたものを実演されると、やっぱり実演が面白いです。音もパフォーマンス用にミックスされていましたね。3曲目も絵コンテまで見せれると良かったけどね。

姫田:そうですね…。それは間に合わなかったです。

伊藤ガビン(以下、伊藤):作品の世界が既に完成しているので、そもそも支援が必要だったのか、というくらいですね。応募のきっかけは費用的なところですか?

姫田:費用面ももちろんですが、制作のきっかけが欲しかったためです。大学院を卒業してから新しい作品が出来ていなかったので、この支援で自分自身にプレッシャーをかけることで作品制作をしようと思って応募しました。

伊藤:既にいろいろ仕事を頼めそうな感じだから、むしろこれから先を楽しみにしています。この先もこのシリーズを続けていくんですか?

姫田:このままアニメーションとパフォーマンスをミックスしたものをやっていきたいと思っています。

伊藤:いわゆる商業的なアニメの方向じゃなくて、この感じで食べていくと。

姫田:それで食べていけたらいいんですが厳しいですね。

遠藤雅伸(以下、遠藤):パフォーマンスを見せてもらって、演者としても振り切れていたのですごいよかったです。絵の世界観が出来上がっているので最後まで完成させてください。

田中秀幸(以下、田中):僕は何も言うことないですね。この次の作品がどう展開するか楽しみです。

ひらのりょう

四番目の発表はひらのりょうさんです。これまで自主制作のアニメーションとして『ホリデイ』(2011年)、『パラダイス』(2014年)などを制作してきたひらのさん。今回制作している作品は、郊外にあるスーパーマーケットを舞台にボーイ・ミーツ・ガールの物語を描く『スーパーマーケット』というアニメーション作品です。

ひらのりょう(以下、ひらの):僕は肩書きとしては映像アニメーション作家と名乗ってはいるんですが、現状としてマンガの連載があったりして、アニメーション作家と名乗りながらオリジナルのアニメーション作品を作れていなかったので、オリジナル作品を作ろうと思い、今回応募させていただきました。少し前に体調を崩した時期もありすごい辛かったのですが、本日は予告編という形で作品の一部を作ってきたので見ていただければと思います。

上映された《スーパーマーケット》の予告編

ひらの:お見せしたのは現状できているものを繋いで予告編にしたものです。内容としては、僕の地元の埼玉県の郊外にあるスーパーマーケットを舞台にしたお話で、車にひかれた猫のお化けと、は虫類型宇宙人の店長が出てきます。音楽はミュージシャンの七尾旅人さんにお願いをしていて、僕は本編の制作を引き続き行っている状況です。

司会:なぜスーパーマーケットが舞台なのでしょうか?

ひらの:自分の生まれた土地や国の空気から受けるインスピレーションをふまえて作ることを心がけています。『パラダイス』という作品では、登場する「歯」が太平洋戦争時の日本兵につながっていったりしました。『スーパーマーケット』は地方や郊外の全てが流通によって統一されているような、高度経済成長後の日本の世界観を象徴していると思って舞台にしました。

田中:野村さんと一緒に担当しました。僕も野村さんも、ひらのさんの以前の作品を見たことがあり、応募時の企画書では長尺の作品を作りたいという提案でしたので僕も野村さんも率直に「見てみたい」と思いました。具体的にはどうなるのか見えない企画でしたが、ひらのさんの以前の作品のクオリティを信用しました。長尺のストーリーを考える中でかなり悩んでなかなか制作も進まなかったようで、結果的にはひらのさんにとって修行の場になったのだと思います。現状は予告編だけ、という段階ですが、もう少し気長に待って、出来上がったものをちゃんと見てみたいです。

伊藤:『パラダイス』の時と比べるとひらのくんを取り巻く状況が異なっていると思うのですが、様々な仕事を抱える中でオリジナル作品を作るということは難しいんですか?

ひらの:『パラダイス』の時は他の仕事はなくて集中できる状態でしたが、苦しさはあまり変わらないですね。今回は月々のマンガの連載などを抱えている中でも新作を作れないかという試行錯誤の結果ですが、結局のところ、他の仕事があってもなくてもアニメーションを作る時は毎度ダメになります。今回は一人じゃなくて、人に任せられるところは任せてできないかと思いましたが、簡単には人も見つけられないですし、密にコミュニケーションをとることも簡単ではなかったです。

伊藤:現段階で勝算はあるんですか?

ひらの:僕は人生の中で勝算を感じたことがないですが(笑)、やっていくしかないですね。

田中:音楽がすごい良いですが、七尾さんに頼んでどうでしたか?この曲を聴きながらやるとできそうな感じがします。

ひらの:はい。七尾さんに頼んで確実だったと感じています。

伊藤:苦しみながらも続けて作ってもらって、楽しみにして待つという感じですね。

遠藤:作品の作り方が決まっているのであとはやるしかないと思いますが、作る方としてはそれが大変ですよね。田中さんが言ったように、音楽に刺激されたりするような、チーム内からお互い刺激をもらってハードルが上がっていくような切磋琢磨でクオリティを上げていくことが大事だと思っています。

畠中:この支援では、支援を受けることで作家としてステップアップするような企画が選ばれることが多いんです。我々もひらのさんの新作に対して期待値が非常に高かったのですが、とにかく無理は無理を出来るときにすれば良いので、自分のペースで作ってください。僕は気長に待っています。

―次回は市原えつこさん、佐々木有美さん+ドリタさんの成果発表の様子をお伝えいたします。