文化庁メディア芸術祭で『国連安保理常任理事国極秘会議』が第9回アート部門審査委員回推薦作品に、『Sagrada Familia 計画』が第10回アート部門奨励賞に選出された林俊作さん。今回採択された企画は、『Animated Painting / Painted Animation』(仮)というアニメーション/平面作品です。絵画と映像の中間で流れる異なる時間性に着目し、横軸で時間が進行する絵画作品を制作しつつ、その素材を基にアニメーションを制作します。ANIMATE (生命を吹き込む) するという広義において絵画もまたアニメーションの領域内に含まれうるという視点から、絵画の在り方/現代アート作品としてのアニメーションの在り方を検証していきます。

林さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家の野村辰寿氏と、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

―今回は、大阪からスカイプを用いての面談となりました。

作品イメージの変更

林俊作(以下、林):今回は進捗報告として動画をお見せします。お見せするものは約3分半で、6分割の絵画のうち最初の2枚分を描いたものです。現在のスタジオが使えるのが12月末までなので絵画を先に書き終えて、年明けからアニメーションに動きをつけていきたいと思っています。

制作途中のアニメーションのひとコマ

初回面談からいくつか変更点があります。まずストーリー面では、当初予定していたモチーフである電車をやめることにしました。初回面談の後にベトナムに行って長距離列車に乗った際、電車の感覚がイギリスや日本の電車のイメージと違い、電車を用いることに迷いが出てきたということがあります。

今回の作品のストーリーについて一言でお伝えするのは難しいんですが、「複数性の中に回収される個体、個体と個体を分割するもの、ある単語の意味内に存在する同類であり歪である存在の類似性と、その存在が融合するときに起こる摩擦」というものをテーマにしようと思っています。そのために、映像の前半部分ではたくさんの人が出てくるシーンが続き、後半はものの描写に変わっていくストーリーになっています。主人公がいないという部分は初回面談から変わっていません。

制作途中の絵画作品

次にアニメーションと絵画の同時展示については、当初は横長フレームのアニメーションと絵画をリンクさせようとしていたのですが、今回お見せしたものは普通のシネマサイズに戻っています。初回面談の際にアドバイスしていただいたことを参考にしながら、やはり絵画とアニメーションのどちらも形になりつつも、作品として離れているけれどいくつかの面ではつながっているという曖昧な部分で作っていくほうが僕の制作スタイル的にも合っていると思ったので、アニメーションはアニメーション、絵画は絵画として成立させるというイメージでいます。

新しい展示方法の模索

野村辰寿(以下、野村):そもそも、横長のスペースを使って展示と上映をするというところが企画の骨だったと思います。いまの話を聞くと、横長のスペースを6枚の絵画で埋めるという展示方法と、それとは別にアニメーションが独立している。その両者には関係があるが、展示の中心は絵画で、その脇でアニメーションが上映されているというイメージですか?

林:まだ展示をどうするかまでは考えていません。同時展示が出来るとなったとしてもアニメーションを小さな画面で展示することにはならないと思いますが、まだ漠然としています。別々の作品を作るつもりで完成度を高めていくように集中した方が良いと思っています。

野村:インスタレーションの形態をどうしたいのかが知りたいですね。アトリエとしてスペースを作るだけだったら、どのスペースに絵画を並べても同じですよね。最初にスペースありきの企画だと思っていました。

林:もともと場所としての意味合いでは考えていませんし、そういう作品も作らないと思います。絵画内で答えがあり、アニメーション内でも答えがありますが、それ以外の空間の考えは薄いです。根本に戻ったら、どちらも展示すれば見方が変わるというような漠然としたところに落ち着きました。

野村:上映と展示をどういう形にするかというところに林くんの新しい挑戦があると思います。ひとつのテーマを持ったふたつのアウトプットが独立してあるとすれば、両者の関係を結ぶような展開がないと普通に見えてしまいます。

畠中実(以下、畠中):絵画と同じプロポーションの場があって、その中で絵画の中にいろいろな出来事が多視点で起こっているというのが最初のプランだったと思います。最初の考えとは違うけれど、絵画を最初に完成させて副次的に映像作品が生み出されたということではなく、同時に考えていくことを考えた方が作品のあり方として面白いと思いました。完成させた絵画にどう動きをプラスして新しい次元を持たせるかという考えというよりは、絵画と映像が分かちがたく同時に生まれてきていることのほうが手法としては新しいような気がします。

林:最初はものすごく横長の画面で作っていく予定だったのですが、ストーリーを入れたいと思ったときに横長で展開すると一般的なシネマサイズとは違う展開になります。まずシネマサイズの一般的な画面サイズで作って、その上で編集して直していきたいと思います。

畠中:林さんは主人公はいないと言っていたけれど、そこにカメラの視点はある訳ですよね。その視点が複数存在するところが面白いと思っていたのですが、ひとつの画面にまとめてしまうと、どうしてもひとつの視点になってしまう。誰が見ているのかということも消去してしまった方が面白いんじゃないかと思います。そこは無理してもやった方が良いと思います。

新しいスタイルをプレゼンテーションするために

野村:いまの話は、上映と展示が密接したことですね。結局のところ、6枚の絵画がつながった状態でひとつのビジョンを見せるというのが絵画作品としてのプレゼンテーションの基本ですよね。映像について、ひとつの画面内で時系列を追いかけて見せるのであればやはりセパレートした作品にしかならない。その両者の関係を今までにない形でどう作るかということが今回の新しい挑戦だったと思うのですが、それがなくなってしまっている気がします。見る人がその空間に置かれてどれを見るか、どういう変化が絡み合うかというところがこの作品の目指すべきところだと思います。

畠中:そうですね。今日の話ですと、絵画は絵画、映像は映像という見ることのスタイルを超えられていないと思います。映画祭にはシングルチャンネルの作品として評価されたら良いと思う。ただ、今回に関しては、そうじゃない見せ方を持っている方がアーティストとしての強みになると思います。見ることの精度を分断しない絵画と映画のあり方を呈示出来ると、絵も描けるしアニメーションも作れることをアピール出来る。新しい呈示の仕方を考えてみても良いんじゃないかなと思います。

野村:すでに出来ている絵画は重厚さはとても良い感じで出来ていると思います。映像にも新しいモチーフが出てきたり、人間社会の疎外感や無機性ということが出かかっていると思います。アニメーションの制作は時間がかかるから後に回るのは仕方がないですが、何が必要かをいまのうちに計画的に考えて、それに向かっての工程の考えることが大切です。

畠中:シングルチャンネルで作るときに、作者側の意図で映像のフレーム内にクローズアップされてしまうことは、ある意味観客にとって余計なお世話になることがあるかもしれません。観客それぞれが意識の中でクローズアップする効果があると思うから、自分で近づいてみたかったなという気持ちになってしまう。絵画作品の見せ方を考えると、無理なクローズアップはしなくても良いのではないかと思います。

野村:映画祭に出したり記録としてまとめる為のシングルチャンネルは必要ですが、「絵画と一緒に展示する為の映像」を作ることに作品の肝がある気がします。

林:制作の進行的にはシングルチャンネルの映像で作らないと頭が混乱してしまいそうなのですが、展示用といいますか、全体を俯瞰できるような横長のフレームの映像も同時並行で作って、次回の面談にお見せしたいと思います。

―次回の最終面談では、シングルチャンネルの映像、横長フレームのもの、そして絵画の進捗を見せていただく予定です。