文化庁メディア芸術祭で『国連安保理常任理事国極秘会議』が第9回アート部門審査委員回推薦作品に、『Sagrada Familia 計画』が第10回アート部門奨励賞に選出された林俊作さん。今回採択された企画は、『Animated Painting / Painted Animation』(仮)というアニメーション/平面作品です。絵画と映像の中間で流れる異なる時間性に着目し、横軸で時間が進行する絵画作品を制作しつつ、その素材を基にアニメーションを制作します。ANIMATE (生命を吹き込む) するという広義において絵画もまたアニメーションの領域内に含まれうるという視点から、絵画の在り方/現代アート作品としてのアニメーションの在り方を検証していきます。

林さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家の野村辰寿氏と、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

―今回は、京都のスタジオからSkypeでの面談となりました。

複数のチャンネルで違う視点を描く

林俊作(以下、林):いま、京都のスタジオで作品を作っています。少しずつ形になってきて、成果プレゼンテーションではアニメーションとして作る分の完成形に近いものが見せられると思います。今日はいくつかアニメーションのサンプルを用意してきました。

―ここで制作途中のアニメーションを見せていただきました。

制作途中のアニメーションの1シーン

林:映像の途中にテストでつくったモーションペインティングのような瞬間があります。これは絵画部分にプロジェクションしてその上に絵を描いていくというストップモーションのような感じで作っています。前半部分は線画などをあわせたようなグラフィックにしていこうと思っていて、今回お見せしたものはパソコンで作ったグラフィックが多いのですが、今後は細かく絵の具で描いていくような部分や激しいタッチを入れて後半に繋げるつもりです。

展示を考えたときに、ロング・スケールの動画を作って視点を変化させていくことをやろうと思っているのですが、映像と違い、絵画では観客の視点があると思うので、映像としては視点の違う3チャンネルくらいの動画を作っていきたいと考えています。ひとつはアニメーションとして完成させる作品。その他には制作の写真を使うなどして、それを動画として2つか3つくらいにして完成させようと考えています。

絵画とアニメーションの関係性

野村辰寿(以下、野村):作業は進んできていますが、いま何パーセントくらい完成しているのでしょうか?観る側を惹きつける絵の密度は出てきたように思いますが、最終的に大きな長い画面に対してどういうプロジェクションのアプローチをするかがわかりにくいと思いました。線画が動いているものが投影されるという感じなのか、それともアニメーション作品として作ったものが壁あるいは絵画とどう関連を持つのかをもう少し聞きたいです。

林:まず、シングルスクリーンのアニメーションとしての映像でも、横に長いスケールで描いたことがわかるようにしたいと思っています。細かい部分をスクロールさせながら、ストップモーションでそこに新しい絵を描き、左から右までスクロールしていって最終的な映像とする予定です。映像として見たときにもすべてがひとつの空間にあるということがわかるような作品にしたいと思っています。絵画はいまの段階では10%くらい、映像は15〜20%くらい進捗なのですが、絵画としての密度が上がっていくにつれて映像の密度も上がってきています。これから密度がもっと上がるので、映像の痕跡が絵画に残るという意味でも密度が高い作品になるだろうと思います。

どう展示するかということについては作っているうちにわかってきたのですが、絵画にプロジェクションするという方法は考えていません。同時に展示したとしても絵画と映像を分けるスタイルを考えています。2つか3つのスクリーンを用いて、アニメーションと、絵画として描かれた映像を上映したいと思っています。

アトリエで撮影している映像も、もう少し広げた形で作ろうと思っています。絵画内での時間軸と絵画外にある時間というのをあわせた物語がひとつ作れると思いますし、いくつかのアングルを見せるということによって絵画に新しい視点が加わると考えています。

違和感をどう入れていくか

畠中実(以下、畠中):前回の中間面談から絵画の進みがそれほど変わっていない感じもしますが、作業のペースは予定通りですか?

林:思ったより時間がかかっていて少し焦っています。

畠中:今日の段階の映像を見て、絵画を作るプロセスがアニメーションになっているということと、絵画を素材にしたアニメーションの違いを意識して作ったらどうかなと思いました。作品を作っていくプロセスとしてモーションペインティングにするか、あるいは絵画はあくまでもアニメーションのための背景や舞台みたいなものであって、そこにコンピューターで取り込んで加筆して絵画と映像が全く別物として完成するという2通りあると思います。そうすると、アトリエに絵画が並んでいる様子などはすごく印象的なシーンになると思ったんです。今の段階だと映像でレイヤーを重ねていますが、その使いどころを分けて作ったほうが、それぞれの手法のいいところが出てくるのではないでしょうか。

林:レイヤーに線画で描いている部分では細かい動きを付けて、最後のほうはペインティングの粗さを出すと盛り上がるのかなと思っています。アトリエのシーンは、アニメーションとして見ている空間の中に入りこむことで違和感のある映像になるのではないかと思い作りました。その違和感をどういれるかを考えています。

畠中:ペインティングがいいから、映像的なエフェクトを重ねなくてもいいとも思いました。そのいる/いらないの判断が肝な気がします。作品のよさを見極めて、どの手法でやるのかが一番難しいですよね。

野村:確かに「どっちでいくのかな?」みたいな感じがありますね。ドキュメンタリー風にしても魅力的なものにはなるけれど、上映会のためにパッケージされたものにするのか、絵画のサポートアイテムとしての映像とするのか。完成された絵画の上にアニメーションが投影されることによって独自性が出ると思っていたのですが、絵画に投影することは考えていないと言っていたので、そのあたりの切り分けと狙い込みをどうしていくのかが制作当初から話しているポイントだと思います。最終的な着地点のバランスが大事ですね。

畠中:映像として重ねることは何でも可能にできてしまうところがあるから、おもしろいとは思いますが驚きが減ってしまう気がします。絵は良いし味わい深いから、描かれているものの魅力をさらに増すような映像であるべきだという気がするんです。

野村:都会の閉塞感や孤独感がテーマになっていて、それが匂ってくる感じがあります。2Dではなくさらに時間軸を持っているおもしろさというのが前提だと思うので、動くタブローのアプローチをどのようにするかですね。途中で写真のコラージュみたいなシーンがありますが、写真的なものを加工して入れる違和感をおもしろく考えて、よりコラージュ的にするのであればその予兆として少しずつ見せていく構成が妥当だと思います。

畠中:アトリエのシーンはそれまで絵画を舞台にして起こっているところからネタばらし的な視点に変わりますよね。それを意識したエンディングにするのもおもしろいと思うんですが、印象的なシーンにするための設えは必要だと思いました。

林:僕の作品は閉塞感や個人的な重たい空気というものがあると思うんですけど、自分の日々の感じが投影されていくというのは絵画の外の空間と絵画の中の空間が繋がるということだから、その関係性を映像で見せたいと思っていました。それを違和感のあるアトリエのセットや写真のずれのようなもので表現できないかなと思っているので、メイキングのような感じでスタジオを映すのではなく、作品制作が映像の中で進んでいくことで違う物語が並ばれているようしたいと思っています。

―成果プレゼンテーションでは、アニメーションと実験的な映像が組み合わされた完成に近い段階のものを見せる予定とのことです。