2020年4月の緊急事態宣言下、「NO密で濃密なひとときを」というキャッチコピーとともに立ち上がった、劇団ノーミーツ。稽古から上演まで、一度も会わずに制作する「フルリモート演劇」をはじめ、さまざまな方法で演劇の新しい形を試みています。
今回のプロジェクトでは国境という新たなハードルに挑戦し、「世界同時演劇」の実現を目指します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家)/山本加奈(編集/ライター/プロデューサー)

障壁を越えていく、心踊るプロジェクトに

梅田ゆりか(以下、梅田):企画を進める上で、まずは協力してくれそうな方に相談をし始めています。 コロナ禍でリアルタイム字幕が簡単に出せるサイトを開発した筑波大学大学院の鈴木一平さんや、今回特に挑戦したいと考えている各国で、「つくる」、「届ける」両側面で活動している方と、現地でどのようにつくり、どうすると届きやすいか相談しています。実際に舞台、演劇関係の仕事をされている方ともお話しすることができ、今回のプロジェクトでコラボレーションできないか、可能性を模索しています。
色々な方と企画の話をする中でわかってきたのは、海外には私たちのような、ZoomやOBS(レコーディングとライブストリーミングに特化したフリー・オープンなソフトウェア)で画面構成から世界観を作り込み、オンラインを駆使した演劇を制作する劇団が意外とまだ少ないのかもしれないということです。今回の企画がその先駆けとして、演劇業界の方はもちろん、その垣根を超えて多くの方々に対して広く知られる機会となるようにしたいと思っています。
加えて、今回の世界同時公演をノーミーツの活動として認知してもらい、今後の活動にも繋げたいと考えています。採択いただき、これまでよりも風呂敷を広げて活動できるこの機会を生かして、来年夏に公演できるよう進めています。
各国へのローカライズにも重要性を感じていますが、それ以上に、ノーミーツが国境を超えて挑戦することの意義を大事に、その上でどう突き抜けていくかを考えていきたいです。

山本加奈(以下、山本):まずコロナ禍への意識があるとは思いますが、世界を目指す上で、ほかにも大きな目標があればお聞きしたいです。

小御門優一郎(以下、小御門):私たちが昨年から活動する中で、画面越しでも作品づくりができることや、オンラインであってもライブ性の高い作品をつくれることがわかったのは、とても嬉しい発見でした。今回は制作段階としても、上演としても、さらに国境や言語、文化の壁が加わります。それらを乗り越えることで、オンライン演劇の可能性をもう一段階拡張したいです。

梅田:コロナ禍を契機に始まった活動ではありますが、今後はオンラインにとどまらず、映像やボードゲーム開発など、多様なエンターテインメントをつくっていきたいと思っています。国境を越えた企画もさまざまな試みの一つとして捉え、今後も活動の幅を増やして、規模を大きくしていきたいです。

タナカカツキ(以下、タナカ):ノーミーツがやっているのは、世の中の外圧を受けて生まれた新感覚の演劇。それだけで十分面白くて価値があると感じています。すでに実績があるわけですが、とはいえ、まだまだ知らない人、体験したことがない人ばかりです。そういう時期はもうしばらく、これまでの実績の延長線上の挑戦を続けた方がいい。ご自身でもおっしゃっていたように、あえて変化しようとせず、自分たちが心踊る、自分たちがやりたいことで突き抜ける方向で合っていると思います。 今の世の中で障壁とされているさまざまな事柄を、一度洗い出してみるのもいいかもしれませんね。それをどんどん乗り越えていく。国境を越えたら、次は宇宙ですね。

多文化・多言語が交わる、新たな価値観の創造の場としてのカンパニー

山本:チームには、各国のネイティブの方もいらっしゃるのでしょうか。

梅田:各言語を話せる人はいますが、ネイティブはいません。脚本の翻訳などは新たにお願いできる方を探そうと思います。稽古でのコミュニケーションなども、まだまだ未知数です。

山本:言語には文化も強く紐づいているので、早い段階からネイティブの協力は必須だと思います。現状のあらすじを読むと、ポリティカルコレクトネスを意識した際に、自分たちだけでは気づけない配慮は多々あると思います。文化人類学者のエリン・メイヤーが書いた、『カルチャー・マップ:世界を8つの指標で理解する』(2015)という、各国の文化の違いや繋がりを俯瞰で捉えた面白い本があります。参考になると思うので、読んでみてください。

小御門:ありがとうございます。脚本をつくる中で、改めて日本を相対化することになるだろうと思っています。文化的背景や、言語の異なるメンバーと座組を組むことで、カンパニーにどんな価値観が形成されるのか、経過を記録して、そこからの気づきも作品に組み込んでいければと考えています。

山本:時差の問題があると思いますが、上演に際して、メインターゲットにするエリアは定めますか? 劇団の将来像も考慮して戦略的に定めるなら、例えばヨーロッパは日本との親和性が高く、好意的に受け入れてもらえる可能性は高い。ただ、より商業的な成功を目指すなら、アメリカかなと。

梅田:現状は、日本と中国、そして仰る通りアメリカ、ヨーロッパなどについて、どのように届けることができるか、検討を重ねています。プロットにも関わってくる部分なので、多角的に検討する必要があります。

オンラインならではのプロット

山本:加えてこれは、プロットに関する個人的な意見ですが、オンライン演劇という特徴がもっと反映されると面白い気がします。登場人物の中に、バーチャルな存在を混ぜ込んだり、現代のオンライン文化からネタを引っ張ってきたりするのもいいと思います。今、TikTokユーザーの若年層にとって日本はアイドライズされた存在で、例えば、カウントダウンの「サン、ニ、イチ」や「センパイ」という単語は、海外ユーザーにもそのまま通じるんですよ。
PR面については、先ほどボードゲーム制作の話もありましたが、トランスメディア的なマーケティングを意識してみるのもいいかもしれません。ストーリーを売るのではなく、世界観を売るような考え方です。世界観がしっかりつくられていれば、メディアに応じてショートストーリーを小出しにすることや、時代を超えて作品をつくり続けることもできます。今後の活動においても役立つ考え方かもしれません。

タナカ:これは個人的な興味ですが、自分たちの今後については、それぞれどんなふうに考えていますか? 劇団ノーミーツとして産業を生んでいくのももちろん一つの手ですが……。僕自身、30年前には劇団で芝居をしていて、「これでは食っていけない」と思った人間なんです。周りもどんどんほかの職に就いていって、舞台の世界で生きていける人はごくわずかでした。今の人はどんな選択肢を持っているのでしょう。

梅田:私は、誰かの願望を実現させるのが好きで、これまで色々なプロジェクトに関わってきましたが、ノーミーツでは、自分の「やりたい」も起点として、企画者としても関わっています。誰とつくるか、どこに届けるか、さまざまに試行錯誤することに面白みを感じています。演劇にこだわらず、「色々大変な世の中だけど、明日も明後日も生きていこう」と思えるような企画をつくっていきたいです。

小御門:私は昨年までは映画・演劇の製作会社に勤めながら脚本家、演出家として活動していたのですが、ノーミーツをきっかけに脚本家1本になりました。脱出ゲームの脚本なんかも書いたりしています。分野は定めずに、今の状況でできる面白い物語を考え続けていきたいと思っています。

山本:来年6月に本公演ということですが、3月の成果発表のタイミングで、ベータ版の公演を打てるといいかもしれませんね。広報にもなると思います。

小御門:3月の時点で、国境を越えたお芝居とはどういうことなのか、そのシステムはお見せできるようにしたいです。

※ 2021年10月20日、「劇団ノーミーツ」は、名前を改めストーリーレーベル「ノーミーツ」としての活動をスタートしました。

―中間面談では、世界同時公演にむけ、さらなる進捗が報告される予定です。