酒井康史さん、竹田聖さん、片野晃輔さんの3人のメンバーで構成される生麩製作委員会。文化庁メディア芸術祭では、酒井さんの作品『lmnarchitecture.com』が第18回エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出されました。今回採択されたのは、以前からプログラム制作などを進めている『namaph』と題したプロジェクト。都市計画の影響を予測して可視化するツールを制作し、合意形成を支援するものです。

アドバイザー:タナカカツキ氏(マンガ家)/磯部洋子氏(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)

架空の都市のシナリオを用いたワークショップを検討

―中間面談には、生麩制作委員会の竹田聖さん、片野晃輔さん、オンラインで酒井康史さんが参加しました。

竹田聖(以下、竹田):初回面談後は、合意形成の枠組みについて考えました。そして、その枠組みを実際に動かすことができるかを確認するためのワークショップの方針を決めました。
都市計画の合意形成の場では、赤の他人同士が話し合うために「中間言語」が必要だというのが私たちの考えです。「中間言語」とは、専門分野の異なる人たちがその場限りで使う言語のことです。『namaph』は計画の影響を予測して可視化するツールですが、これは議論の「中間言語」を見つけることで、お互いの主張に「あ、わかる」という感覚を提供するツールだともいえます。
これまでの仕事の経験上、複数の人たちで何かを一緒につくるとき、話し合うことで互いの価値観がアップデートされていくと、有意義な時間にすることができると思います。コミュニケーションをスムーズにしたり、相手の言っていることを理解しやすくしたりといった「共感を促す空間」をつくりたいというのが今回のプロジェクトの動機です。

酒井康史(以下、酒井):何の合意を結ぶワークショップか考えるにあたって、架空の都市「真桑市(まくわし)」を舞台にしたシナリオを考えました。歴史のある街で大掛かりな再開発をしようとするときの合意形成にまつわる物語です。不動産屋や地元商工会、住人、研究機関、行政など、都市計画に関係のある人々がステークホルダー(利害関係者)として登場します。ワークショップの参加者には、このシナリオに登場する人物になりきって発言してもらい、合意形成してもらいます。シナリオの世界観に参加者を引き込みたいので、物語のつくり込みについて重点的にアドバイスをいただきたいです。参加者が瞬時に世界観を感じとれる工夫やイメージを一緒につくってくれそうな人も探したいです。

片野晃輔(以下、片野):メンバーの3人がそれぞれ仕事でやってきたことを振り返ると、プロジェクトの流れやステークホルダーたちの関係性などに共通点が見つかってきたので、それを元にシナリオをつくりました。試しに自分たちでも登場人物になりきってロールプレイングしてみたところ、忖度なしの意見が出たり、より細かいところを考えたりなど、実際にワークショップで使用するところまで想定できました。

竹田:ワークショップの進め方は検討中ですが、そのなかで合意形成を行うためのツールとして『namaph』を使います。機能は「政策の提案」「政策の評価」「文脈の保存」の3つです。また、『namaph』がサポートする合意形成は、プロジェクトを実行するときに発生する2つのタイプの合意形成(「決めるための合意形成」「解釈〈認識〉を揃えるための合意形成」)です。考え方としては、プロジェクトのPDCAサイクルに不特定多数との合意形成の概念を導入しようと思っています。従来の都市開発などでは、計画から評価するまでの間に長い年月がかかるので、計画する人と評価する人は別の人になってしまいますが、本来は同じ人が評価できることが理想です。ここを『namaph』によって機械化できれば、計画者本人も評価に立ち会いつつ、次に向けて考えることができます。さらにこのワークショップを記録するシステムもつくりたいと思っています。

感情に訴えるシナリオを考える

タナカカツキ(以下、タナカ):シナリオをつくったことが興味深いです。今は概念を重視して検討していらっしゃいますが、物語にするときは導入部分が重要です。何が問題で、どんな感情を揺さぶるのかが明確になると引き込まれるものになると思います。
例えば、「商店街の小さな靴屋さん」がどんな感情を持っているのか、などひとりの感情の面から描けるとよいのではないでしょうか。概念や仕組みなどは後ろで静かに存在しているものにして、見せないようにする方がいいと思います。また、誰かにシナリオづくりなどを依頼するよりも自分たちで考えた方がおもしろいのではないかと。主人公がいて、次々とハードルが出てくる。そして、あるターニングポイントで逆転現象が起こって、意気揚々と進めたら、全てを失う。その後、第2のポイントで全て手に入る……。と、こういった感じで、シナリオはシンプルでいいのです。
「中間言語」がない場合はどんな問題があるか、『namaph』が当たり前の世界ではどう変わるのか、といったところから入っていくと、イメージもシナリオも、具体的に落とし込めると思います。

磯部洋子(以下、磯部):今回の企画は極めてロジカルに進められている点が興味深いものの、世の中には感情で生きている人も多いと思います。デジタルのツールを触ることに消極的な人もいます。タナカ先生のおっしゃるように、何に共感してもらうかを考えるといいと思います。3月の成果発表を見据えて、表現をすることで鑑賞者の感情を動かし、プロジェクトを知ってもらうところまでをひと段落として考えるのがよいのではないでしょうか。

酒井:たしかに、実際に再開発事業などで行われる地域住民説明会などではとにかく感情的に反対意見を述べる人もいます。その一方で、多くの住民は、自分たちが何かを発言しても何も変わらないと思っていて、まちづくりに興味のない人が増えていくという悪循環があるようにも実感しています。

磯部:特に日本では自分が社会を変えられると思っている人が少なく、それが計画の停滞にもつながっていますよね。子供時代に社会を変えたと感じる体験があった人と、そうでない人では考え方が異なるようです。歌や劇、小説など、さまざまな表現手段を取り入れていくと、それを楽しみにしてくれる人も増え、『namaph』のムーブメント化にもつながるのではないでしょうか。

竹田:アドバイスを受けて、自分は鑑賞者のどの感情を動かしたいかという観点が抜けていたことに気づきました。

磯部:たとえば、環境問題がテーマとなる展示の切り口として、あえて恐怖をあおる場合もありますよね。鑑賞者が深刻な気持ちになるような展示も、近年は多いと感じます。

竹田:今回のプロジェクトの動機は怒りではないので、よりポジティブに、おもしろがる気持ちをベースにしてやっていきたいと思います。

―今後はさらにメンバー間での議論を進めながら、ワークショップの進め方やシナリオなどについて検討していきます。