18歳の森⾕安寿(もりや・あんじゅ)と13歳の頼安(らいあん)、姉弟によるユニット8 Legs。安寿が第24回エンターテインメント部門にてU-18賞を受賞したVRゲーム『Flight Fit VR』で、2021年度未踏ジュニアスーパークリエイターに認定され、Oculus公式ストアで世界に向けて販売されました。本事業でのU-18賞受賞者の採択は、今回が初めてとなります。今回のプロジェクトでは、リアルタイムで生成される仮想空間をスクワットで移動するVR作品の制作と、初の個展開催に挑戦します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家/京都精華大学デザイン学部客員教授)/森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)

スタートに立ち返って

森⾕安寿(以下、安寿):まず、なぜこの作品を制作するのか、もう一度立ち返ってみることにしました。
私たちは、VRは没入感が味わえる技術なのに、2Dのように使える空間が限られているのはもったいないと感じていました。そこで、VRでも地形生成を活用することはできないかと考えました。
地形生成は非常に難解なプログラムなので、その技術はほとんど公開されていません。しかし、見たことのない世界を自動的につくり出すことができるのは魅力的で、計り知れないポテンシャルがあります。

森⾕頼安(以下、頼安):私はPerlin Noise(*1)いう手法を学び、粗密の異なるPerlin Noiseを組み合わせて、自然な地形を生成することに成功しました。それから、永遠に探検できる3次元の世界を目指し、『DRIFT ABYSS』の制作が始まりました。
研究を進め、Marching Cubes(*2)という技術だと、立体的な表現ができることを発見し、Unityで使用できる自家製のMarching Cubesを開発しました。しかし、処理速度が追いつかなくなったため、コンピューターのCPUの処理をGPUに移し、無限生成できるようにMarching Cubesのプログラムを改造しました。現在はリアルタイムグラフィック(即時に生成されるグラフィック)基準の60FPSまで効率化をしています。

安寿:ゲームの概要は、プレイヤーが生物に乗って無限に生成されるメインシーンを自由に移動します。体全体を使ったスクワット操作での移動になります。時折現れるワープホールから、サブシーンに移動すると、シーンに合わせて乗り物も変わります。景色を眺めながら知らない間に長い距離を散歩していた、というように、仮想空間の中でも無意識に活動量が増える経験をしてもらいたいです。空気感を再現するため、人間・動物など動きのある有機物のモデリングなども勉強中です。

頼安:自動生成でスポットライトのような建造物も自然に生成できます。空間内には、私たちを象徴するものとしてピクセルアートのタコを浮かばせます。今は静止画を動かしていますが、今後はアニメーションを加える予定です。

安寿:音楽については、メインシーンは誰かに依頼して作成してもらい、サブシーンはフリー音源などを使用しようと考えています。

*1 Perlin Noise……グリッド上の頂点からランダムな方向に値を追加することで、滑らかかつ不規則なノイズを表現できるアルゴリズム。
*2 Marching Cubes……3Dの質量の配列をメッシュ化(表面化)する方法。2×2×2の立方体をベースにした16種類の頂点パターンの組み合わせでメッシュを生成する。

飽きさせないユニークな仕掛け

森まさあき(以下、森):初回面談より随分進んでいる印象ですね。洞窟のメインシーンや赤いランプのある部屋のアートワークなど、きれいだと思います。Blender(*3)に頼りすぎないか心配な部分もあったのですが、ユニットの個性も出てきたと思います。ワープの発想も面白いですし、個人的にはタコが出てきて嬉しいですね。ただおしゃれな空間ではなくて、何か変わったものがある方が絶対にいいです。

頼安:これからタコをたくさん増やしていき、アニメーションや性格など、個性をつけることも考えています。

タナカカツキ(以下、タナカ):前回お話しした課題は覚えていますか?

安寿:きれいなものは誰でもつくれるし、ありがちという話でしたよね。自分たちの雰囲気を出していくことが課題ということでした。

タナカ:これから作業を進める上でも、ありがちかどうかは常にジャッジして欲しいです。体験する側はもっと気楽で、システムを深掘りする人は少ないでしょう。地形を自動生成しても、10分もしたら当たり前になってしまいます。それでもなお、体を動かして前に進もうとする動機付けが必要です。ワープしたいという気持ちを起こさせるような、人の心に届く仕掛け、気持ちの部分をつくる作業をした方がいいでしょう。体験者が予見できないもの、2人にしかできないものを盛り込んで、期待を裏切って斜め上を行くと面白いですね。体験者の気持ちになってシミュレーションすると、次のステップに行けると思います。

安寿:文字を書いて残せるなど、過去に遊んだプレイヤーの軌跡が見られたら面白いと考えています。「ここに人がいたのだな」と感じられるような、プログラムではつくれない人の動きや言葉を組み入れるとエモーショナルな体験ができるはずです。

タナカ:この作品は運動の要素も特徴です。例えば、山の頂に旗をさす、キャンプにサインを残すといった行為は、登山家のモチベーションになっています。フィットネスだったら数字で置き換わりますが、体を使うことで得られるエモーショナルな体験について、アイデアが欲しいですね。

森:目的も必要だとは思いますが、それが無駄なことでも構わないと思います。山登りのように「ここに行こう」という目標や「こうしてみよう」という遊び心が持てると、体験者それぞれの遊び方ができるのではないでしょうか。

頼安:メインシーンにも個性を加えたいです。洞窟や森などにエリア分けもできるので、うまくいけば異なるエリアが同時に見え、その重なりもきれいに処理できます。自動生成プログラムでは、制作者の自分でも驚くような世界が見えて、バグすらも美しくて面白いのです。

タナカ:バグの中を進むのも面白そうですよね。

頼安:そうですね。バグがきれいだったら、エリアの一つとするのもいいですね。

*3 Blender……3DCGアニメーションを作成するための統合環境アプリケーション。

VR体験の醍醐味

タナカ:VRでのマルチプレイはできるのでしょうか。VR空間の中でコミュニケーションが生まれると面白そうです。

頼安:友達と一緒に入ってプレイするのもいいですが、自分しかいないと思っていた仮想空間にもう1人いることを知り、数週間探し続けてやっと出会える、というような状況も作れると思います。

タナカ:VR上のプレイヤーの仕様はどうなっているのでしょうか。

頼安:現在はプレイヤーに身体が無いので、2人で入るのならアバター(*4)が必要になりますね。

タナカ:風景や景色に独創性を持たせるのはデザインや絵描きの領域になりますが、アバターであれば独創性を表現しやすいかもしれません。敷居が高くなってしまいますが、可能性としては考えられると思います。お2人は普段VRをしているのですか?

安寿:コロナ禍で2ヶ月間、(寮の)部屋から出られない時期があり、そのときは、VRコミュニケーションプラットフォームの「VR Chat」で世界中の人とコミュニケーションをとっていました。VR空間で人と会うのは、リアルとはまた違う楽しさがあります。まったく知らない人にも気軽に話しかけやすいですし。

頼安:私は、よくVR内で開発をしていました。現実世界でできないことを実験できるのが楽しくて、研究にも生かされています。

タナカ:楽しいというのが一番ですね。

安寿:「第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」での『Flight Fit VR』の展示でも、作品を体験した人から「楽しかった」「疲れた」とコメントをもらって嬉しかったです。手元の操作だけだと、どうしてもキャラクターを動かしている感覚になりますが、自分が動くことでVR空間を動き回る感覚が大事なのです。

頼安:自分の行動がVR内で反映されると、幽体離脱感がなくなるので、没入感が増します。

タナカ:今後の予定はいかがですか。

安寿:『Flight Fit VR』でWIRED Hack Awardのファイナリストに選出されたので、大学受験の後に、そのプレゼンを行う予定です。それが終われば、本プロジェクトに専念できると思います。12月中にメインシーンの地形生成をかため、複数のサブシーンと乗り物の作成、そしてアニメーションや音までできればと考えています。クリスマス前後と冬休みはお互い実家に帰るので、この間にVR化まで漕ぎ着けられれば、3月の成果発表まで余裕が持てそうです。実際の展示は、頼安が日本に居られる夏休み期間にできるといいと思っています。

*4 アバター……インターネットやゲーム上で、自分自身の分身として登場するを表すキャラクターのこと。

―次回の面談に向けて、体験者のモチベーションとなる仕掛けを盛り込む予定です。