2020年4月の緊急事態宣言下、「NO密で濃密なひとときを」というキャッチコピーとともに立ち上がった、劇団ノーミーツ。稽古から上演まで、一度も会わずに制作する「フルリモート演劇」をはじめ、様々な方法で演劇の新しい形を試みています。
今回のプロジェクトでは国境という新たなハードルに挑戦し、「世界同時演劇」の実現を目指します。
※ 2021年10月20日、「劇団ノーミーツ」は、名前を改めストーリーレーベル「ノーミーツ」としての活動をスタートしました。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家)/山本加奈(編集/ライター/プロデューサー)

着々と進む、出演者へのオファー、字幕システムの構築

梅田ゆりか(以下、梅田):まず進捗報告ですが、各国で、出演者や、現地にてご協力いただけそうな方がある程度見えてきました。そして、字幕システムについては、テスト用のシステムを筑波大学大学院の鈴木一平さんにつくっていただきました。マイク音声に反応して、字幕が自動生成され翻訳されるシステムです。いま少しお見せします。

―音声をリアルタイムで字幕化する様子を画面共有します。

実験中の、字幕生成システムを披露。長く話すと、字幕で画面が埋まっていく。

山本加奈(以下、山本):連続して話していると、画面が字幕で埋まってしまうのですね(笑)。予め用意した字幕と、こういったシステムを使ったアドリブ字幕とを、どう混ぜていけるかを実験中ということでしょうか。

梅田:おっしゃる通りです。用意した多言語字幕をベースとしつつ、アドリブも表示できれば、国境や言語を超えて楽しめるものになるのではと考えています。今は日本語がリアルタイムに生成された後に英語が表示されますが、設定次第で変えることもできます。デザインなどもまだ検討中です。
今日は、企画の内容に関して、お二方からアドバイスをいただけたらと思っています。コロナが比較的落ち着いてきたように世間で感じられているなかで、今、国境を越えて作品をつくることの意義を、一旦立ち止まって考えているところです。前回、興行でやりたいとお話ししたのですが、劇団の第4回公演として、興行として成り立たせることや、そのための引きがある演出などを考えるうちに、本来私たちがこの企画で挑戦したかった「国境を越えて一つのものをつくる」という、一番やりたい部分が薄まってしまうように感じています。

刻々と変わる状況の中で

山本:コロナとは別のところで、世界の動向として、メタバースなどの「新しい現実」はバーチャル世界はエンタメにとどまらず、業界を横断してトレンドになっていますよね。VTuberで最近話題のCodeMikoという人物は、バーチャルのキャラクターと、技師としての本人が両方配信に登場していて、2人で対談したりします。リアルとバーチャルの境目がないような、そういうコンテンツが当たり前に受け入れられています。バーチャル世界での活動が益々活発化しそうなこのタイミングは、ノーミーツにとっては追い風だと思いますよ。

松本祐輝(以下、松本):そういった世界観の追求にも興味がある反面、今回は、リアルタイムで世界とつながることでできる表現を突き詰めたいという思いもあります。普通の演劇では入り込めないような遠い場所の人々の姿が見えるような、リアルへのアクセスを意識したい。
もともとは100%フィクションのストーリーを考えていたのですが、現実を見ると、コロナの状況一つとってもさまざまで、国によって捉え方が違います。そういった世界をリアルタイムでつなぐことの意味を考えると、ドキュメンタリー要素を混ぜ込むなど、ノンフィクション要素があった方がいいのではないかという意見も出ています。

小御門優一郎(以下、小御門):普段なら嘘をつかざるを得ない、演出でつくる部分を、リアルにできることが今回の強みなので、そこにフィクションを付加すると、素材のよさを殺してしまうのではないかと、慎重になっています。過去にはメタバースを近未来SF的に扱ったこともありますが、今回の企画では、すでに生活に入り込んでいるような事物を扱いたい。字幕システムの「字幕が顔に重なってしまう」といった問題は、今まさに現実で直面している問題です。つくる中で遭遇するそういった問題を、そのまま物語に反映しても面白いのではと思っています。

タナカカツキ(以下、タナカ):会わないでやる、国境を越えてやる、というのは、つまるところ、システム的なことですよね。例えば今、アドバイザー2人は対面で、みなさんはそれぞれ遠隔で参加という、少し前であればとても異様な状況です。でもそういった異質さには、すぐ慣れますよね。字幕などの新しいトピックの発見や体験は面白くて、そこからノンフィクションを、という話になったのだと思いますが、その新鮮味にも人はすぐ慣れます。新しいものが次々出てきて、イタチごっこになってしまう。コロナの状況も世の中の情勢も刻々と変わっていくなか、昨年は通用したことが今はもう通用しません。そこに脚本を合わせようとすると、翻弄されて、ずっと心許なくクリエイティブを続けることになってしまいませんか。
ノーミーツがやっていることは、これまで誰もやっていなかったことで、それだけで尊い。未知なぶん、その表現が成立するための定義もなければ、ゴールも誰にもわからないわけです。そこに立ち返ってみてください。

小御門:まさに、今抱えていた課題がそうです。渡航ができず自国に帰れない人の気持ちを考えていたのが、少し経つと状況が変わり、帰れる人と帰れない人の格差の方が問題なのではないか、と考え出し……イタチごっこですね。

タナカ:企画そのものが面白いのですから、あとはやってみて考えていくことでしょうね。やってみて浮上した問題点をさらって、解決策のアイデアを出す。アイデアは量の勝負です。これでいこう!となっても、実際にやってみないと、何が起こるかわかりませんから。

小御門:そうですね。内容が決まらないと、システムも定まっていきませんし。

タナカ: 最終的な理想としては、「演劇って、会わない方が面白いじゃん!」と、これまでの演劇を古く感じるくらいに、アップデートできたら素晴らしいですよね。今じゃないどこかへ連れて行ってほしいです。

本来の目的、劇団の魅力に立ち返って

山本:ノーミーツの芯にある、伝えたいことは何でしょう?

小御門:コロナ禍でさまざまなことがリモートになるなか、エモーショナルな部分の受け渡しはリモートではできないと言われていました。本当にそうなのか試してみようと、それでスタートした劇団です。今回はさらに、言語や価値観が異なる人同士の協働という新たなハードルはありますが、結局は、肉体がひと所になくても受け渡せるものはあるはずだという、同じところに収束していく気がしています。

山本:ブレない軸として、人とのつながりや身体性にとらわれないエモーションの探求といったものがあるのがわかったら、次はアイデア出しですね。カツキさんは、以前ゲームをつくっていたときに「ネタ出し100本ノック」をしていましたよね。

タナカ:やっぱり僕は、量の勝負だと思っているんですよね。

松本:劇団が初期につくっていた、2分程度のショートピースをたくさん、世界向けにやってみるのも一つの手かもしれません。

小御門:確かにそうですね。今、一発で針を通そうとしているから、翻弄されてしまっているのかもしれません。

タナカ:作品の受け取り方も育てていく段階だと思うので、そのためにも、数を打つ必要があるかもしれませんね。

山本:アイデア出しやフィードバックの段階から、できるならば、日本人からだけではなく多様性があるといいかと思います。日常的に外国の方と話す機会はありますか?

松本:私の本業が中国拠点なので、個人としてはありますね。あとは最近、この企画のためにオンライン英会話をはじめました。自分の希望の時間でマッチする先生とカジュアルに話すことができるので、勉強になります。

山本:アイデア出し100本ノックと同じく、様々な国の人ととにかく話してみるのもいいと思います。今後の進め方はいかがでしょうか。

梅田:今月は企画を練ることに時間を使って、1月には走り出したいです。3月の成果発表でこれまでの経緯や、具体的な企画の内容、制作の状況などが伝わる展示ができればと思います。
立ち止まっている段階で、どんなお話ができるだろうと不安だったのですが、迷いを肯定的に捉えてたくさんアドバイスをくださって、ありがとうございました。何をやりたかったのか、立ち返りながら考えてみたいと思います。

山本:立ち返ることも大事なプロセスです。頑張ってください。

―最終面談では、決定した企画が発表される予定です。