さまざまな物理現象を作品化してきたryo kishiさん。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞『ObOrO』、第21回エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品『dis:play(bias)』をはじめ、国内外で受賞・展示を行ってきました。今回採択されたプロジェクトでは、複数のカイトを高速で回転させて「抗い」を表現したキネティック・インスタレーションと、ドキュメント映像を制作します。

アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/タナカカツキ(マンガ家)

ドローンシステムの確立

―動力となるドローンと実験動画を見ながら説明しました。

ryo kishi(以下、kishi):前回ご紹介いただいた本郷飛行機株式会社に相談にのっていただいたあと改良を重ねて、ようやくシステムができました。ドローンの4つあるプロペラの1つを外し、向かい合う2つを浮力、1つを姿勢制御と推進力にしています。これを複数個つくって、ひたすら実験しています。たくさん失敗しすぎて驚かなくなりましたね(笑)。現在は制御も安定して、3m以上あがるようになりました。もう1段階上げて5mの高さまで飛ばすのを目標にしています。

磯部洋子(以下、磯部):紐の長さは、だんだん長くする方向でしょうか。

kishi:動作中に紐の長さを変えてカイトを上下させています。制御が安定している状態では平行飛行ですが、ドローンとカイトをつなぐ棒を動かすことで、より激しく抗いの動作をするように細かく調整しているところです。ストロボで断続的に撮影したものを合成すると、狙っていたカイトの軌道になりました。これが肉眼でもきれいにみえるように、演出を考えていきます。
だいぶ進行が遅れてしまいましたが、2〜3月で照明や演出のチームを決め、4月以降に検討、7月に撮影、8月に公開を予定しています。

タナカカツキ(以下、タナカ):ひとまず飛ぶことはわかりましたから安心ですね。

kishi:年末は飛ばすことができるのか絶望していたのですが、最後に飛びました。

タナカ:これまでたくさん作品が壊れていると思いますが、これまで何回くらいつくり直しているのですか。

kishi:土日の夜に実験を行っていますが、土曜日も日曜日も壊れて、それを3ヶ月くらい繰り返しています。モーターが壊れたら買って、レーザーカッターで部品を切り出して、くっつけています。1回実験して壊れると全部片付けて、家に帰って修理して、翌日また実験します。

タナカ:作品を痛めない降ろし方などあるのでしょうか。

kishi:モーターの回転を一気にゆるくすると、ゆっくりとドローンが落ちてきます。しかし、滑走する車輪がないので、地面を擦ってしまうのです。

磯部:ドローンが割れてしまいそうですよね。

kishi:ドローン自体は柔らかく壊れないのですが、カイトを固定するカーボンの棒などはどうしても割れてしまうので、毎回交換しています。カイトの生地も破けていくので、テープで貼って直しながら使っています。 ここまできたので、壊れないように降ろすこともできるのではないかと思っています。

改良を重ねたプログラマブルドローン

コンセプトを伝える演出

磯部:バッテリーの時間はどれくらいですか。

kishi:軽量のものを使用しているので、4分しか持ちません。途中で電池がなくなると危険なので、一度使用したら取り替えています。本郷飛行機さんにワイヤーを使った有線給電の方法もあると教えていただいたので、ワイヤーの重さに耐えられるようであれば使いたいですね。

磯部:アルスエレクトロニカでは複数設置していましたが、4分だと難しいでしょうか。

kishi:今回は、2台を同期させた状態を想定していますが、バランスを見て台数を増やすか考えます。台数を増やすのは資金の問題だけですので。
ただ、ドローンに取り付ける小型の工業用モーターのストックがなくなりそうなのですが、コロナの影響で届かず、別のモーターに変えて実験する必要が出てきました。日本にあまりない製品なので、怖いところです。

磯部:私の業界でも同様の問題が起きています。今の状況では電源や工業部品の納品にすごく時間がかかるので、消耗品は早めに買っておいた方がいいですね。

タナカ:モーター音はどのくらい大きいのでしょうか。

kishi:何も聞こえないほどの爆音で悩んでいます。ブロワーと同じか、あれより高音です。

磯部:高周波の怖い音ですが、その恐怖もエンターテインメントとして活かす方向にもっていってもいいかもしれませんね。

kishi:また、カイトの材質については、思ったよりも光を反射せず、素材を再検討しています。厚みが大事で、1mm以上だとうまく飛ばず、0.03〜0.08mmの間で少しずつ特製の違うものを試しています。柔らかいスーパー・オーガンジーなども、ドローンに巻き込まないかは心配ですが試してみたいです。

磯部:照明はどういったものを考えていますか。

kishi:上から当てる白いフラッシュライトを1つと、複数のレーザーを下から当てる、2パターンを考えています。レーザーのアーティストには断られてしまったので、照明の技術者と組んでレーザーを発注することになり、金額がかかるのがネックです。 作品はイメージ通りに完成させられそうなので、演出と動きも含めて、もう少し検討していきたいです。自然な抗いよりは、つくった抗いになってしまうので、抗いに固執しすぎずに実験しながら考えていきたいですね。

撮影・展示の実現性

磯部:撮影場所は見つかりましたか。

kishi:いくつか候補はありますが、1日借りるにも金額が大きいですし、撮影時期は検討中です。

タナカ:野外は風があるので難しいですよね。

kishi:はい、工場跡やレーシングサーキットといった壁のない広い空間なら、アングルを変えて数パターン撮影できそうです。スタジオでは壁に傷をつけてしまう危険性もあるので、倉庫だと実験しやすいと思います。2月までに映像チームを組んで、3月までにテスト撮影をできたらと思っています。

磯部:無機質な空間の方が、作品には合うでしょうか。

kishi:そうですね。また、本番は土台の高さを2倍にする予定ですが、カイトが真横に飛ぶと土台への負担が増すので、強度はもちろん、バランスが崩れないように錘を付けるなど対策をしたいです。

タナカ:高さが出ると、動きもダイナミックになりそうですね。

kishi:上下運動の高低差が5mになるので、かなりのものになると思います。

磯部:前日搬入でテストしておくとよいでしょう。成果発表展は7日間程度ですが、1日何公演する予定でしょうか。

kishi:実演をするのであれば、在廊できる土日中心になります。

タナカ:鑑賞者はどこまで近づけそうですか。

磯部:成果発表展の会場は天井高5.5m程度ですが、2mは離れた方がいいでしょうか。

タナカ:相当離れた方がいいですよね。音の迫力もありますし。

kishi:実験中も自分の頭の上に軌道が来ないように、最低4mくらいは離れています。動きも音も思っているより怖くて、むしろシールドが欲しくなるくらいです。

タナカ:シールドがあるほうが雰囲気も出ますよね。どんどん作品が怖くなるのは面白いです。

磯部:成果発表展はプロセス展示という側面が大きいので、安全性を担保して現実的に可能な範囲で提供いただければと思います。

kishi:システムは展示のみで、ドローンを飛ばさずに動かすこともできます。海外でロボットアームが旗を振る作品が展示されていたときは、危険なので完全にシールドされていました。日本では難しいかもしれませんが、それくらいのことがしたいですね。

―今後は、作品の細部を調整しつつ、演出チームを組んで展示・撮影に臨む予定です。