18歳の森⾕安寿(もりや・あんじゅ)と13歳の頼安(らいあん)、姉弟によるユニット8 Legs。安寿が第24回エンターテインメント部門にてU-18賞を受賞したVRゲーム『Flight Fit VR』で、2021年度未踏ジュニアスーパークリエイターに認定され、Oculus公式ストアで世界に向けて販売されました。本事業でのU-18賞受賞者の採択は、今回が初めてとなります。今回のプロジェクトでは、リアルタイムで生成される仮想空間をスクワットで移動するVR作品の制作と、初の個展開催に挑戦します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家/京都精華大学デザイン学部客員教授)/森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)

世界を楽しませる工夫

森⾕安寿(以下、安寿):個展は2022年8月、新橋駅に近い商業施設「日比谷 OKUROJI」に決定しました。

森⾕頼安(以下、頼安):3月の成果発表ではサブシーンなしで公開しますが、8月の個展ではすべてのワールドを体験していただく予定です。最新のワールドは地上と地下に分かれ、300m程度の区切りで全く違う世界に出会えるように設定しています。クロスモーダル現象(*1)を利用し、VRデバイスで視覚・聴覚をコントロールすることで情報を補完して、空を飛ぶ没入体験を実感してもらえる作品にしました。

安寿:会場にサーキュレーター、加湿器、アロマなどを設置し、リアル空間の演出も検討しています。作品の世界観が伝わるようにプロジェクターで映像を投影、50パターンほどのピクセルのタコを展示して、明るくポップなイメージにまとめたいと考えています。ポスターやチラシは個人のデザイナーさんに依頼する予定で、什器についても相談中です。

タナカカツキ(以下、タナカ):本作はVRとスポーツの両輪を軸としています。前回の面談で、体験者がやり続ける動機が欲しいとお話をしました。加えて、感覚を擬似体験させる理由も必要になってきます。また、タコがいることで世界が面白くなる仕組みをつくりたいですね。それと、デバイスを付けて運動するというコンセプトを表現したメインビジュアルがあると伝わりやすいと思います。

頼安:本作は好奇心をモチベーションにして、ユーザーに運動をさせる作品ですので、訪れるたびに新しい発見がある世界を開発します。

安寿:メインとなる場面があれば、体験の継続につながりますね。また前回に引き続き、ワールドに来た人が軌跡を残して、それを後から来た人が見つける、といった足跡的な要素をつくりたいと考えています。

タナカ:まとめると、点数を競ったり音楽に合わせて動いたりといったゲーム性をあえて排除して、コンピューターグラフィックスの風景を楽しんでいただく。そして、体験者の好奇心をたよりに世界の奥深くに進んでもらい、足跡を残せる機能をつくるという方針ですね。今悩んでいるところはありますか?

安寿:前回、ワープホールで別のシーンに行く案を出していましたが、メインエリアの完成度が高くなってしまい、サブシーンと雰囲気が合わないような気がしています。
そこで、ワープホールを足跡が残せるシーンにつなげる案を考えました。これは北海道のとある鉄道の駅(北浜駅)で、建物内に来た人がメッセージを書いた紙を貼り付けているのです。この駅のようなものをつくりたいです。

頼安:足跡機能の実装は、体験場所が展示会場のみならば、ローカルのマシンだけで実現できそうです。Oculusで販売するならばオンラインでのフォローが必要になります。

森まさあき(以下、森):ワープホールがあることで体験者の意識がそれてしまうなら、体験者の思い通りにメインエリアを漂えるようにするほうがいいでしょう。

*1 クロスモーダル現象……視覚や聴覚といった知覚の相互作用によって脳が錯覚し、実際に体験したことない事象を感じる現象。

タコがつくる世界観

森:現在はやりたいことがたくさんあって、世界観が定まっていない印象です。ストーリー性のある導入や裏設定で説明できれば、伝わりやすいかもしれません。

タナカ:体験者に余計な疑問を抱かせるのはもったいないです。

森:タコはどのシーンでも出てくるのですか。

頼安:それぞれのシーンで出現率を設定し、自動生成によって、目や形を組み合わせの異なるタコを出現させます。コレクション機能を追加することで、モチベーションにもなると思います。

森:美しい空間だけだと、いま一つパンチが足りないですが、お茶目さがスパイスになってピリッとしたものになった気がしますね。

安寿:広大な土地で一人ぼっちになったような、ミステリアスな雰囲気があるので、タコが漂っていると、不安感や孤独感が薄れるというか、危険ではないと安心感がわくと思います。

タナカ:タコで孤独感が軽減されるのは、すごく面白いですね。

頼安:一つのシーンに260体ほど出現させています。けれど、生成場所や動きがランダムなので、上の方にたくさんいたり、障害物で見えなかったりと、新たな問題が発生していますね。

森:プレイヤーに寄って来るように設定したり、岩の裏にタコの巣があったり、メリハリが欲しいところですね。

安寿:タコを選んだのは、私がお土産にあげたタコのぬいぐるみを頼安が気に入って、私たちの中で特別な生物だからです。タコは知能が高く、人間味のある生物でもあります。

頼安:本作では、この世界の住民という設定です。

タナカ:体験者にとってはどのような存在になるのか、その部分をもう少し料理できると良いと思います。

森:足跡をつける行為もタコと関連させると良いのではないでしょうか。

タナカ:スクワット運動とタコの関係があったら面白いですね。

技術とインターフェース

森:ユーザーが顔を向けた方向に進むようになっているのですか。

頼安:そうです。狭い洞窟だとすぐに引っかかってしまうので、プレイヤーの意思に従いながら、難しい部分はアシストする予定です。

森:前作はドラゴンの背中に乗っていたので、後頭部が見えていましたが、今回も同様でしょうか。

頼安:そうですね。前作でユーザーから「ドラゴンの頭が煩わしい」とコメントをもらっていたので、今回はギリギリ見えるくらいに調整する予定です。

森:自分がドラゴンになる設定であれば、自力で進んでいく必死感が出ますよね。その場合、翼は見えるかもしれません。

安寿:両手にコントローラーを持つ場合は肩と手の位置を検知できるので、腕を翼にして羽ばたく動作をすれば腕も鍛えられるのではと話していました。実際は技術的にうまくいきませんでした。

頼安:それが1年前のことなので、僕のスキルセットが現在とは大幅に違います。今なら腕の長さを計測して正しい方向に羽を表示して、自分の腕を翼としてコントロールすることはできると思います。

タナカ:今回の成果発表や8月の個展までに実現できなくても、アイディアとして考えていただければと思います。どんどんクオリティが上がっていくのは楽しみです。

森:ユーザーに気持ちいい、楽しいと感じさせることがインターフェースの命です。自分の意思がそのまま伝わるシステムにできると良いかと。

タナカ:VRと運動をクロスさせるメリット、メディアアートの面白さで、ユーザーが何度も体験したいと思わせる仕掛けが出せるといいですね。

安寿:成果発表では、プロジェクトを紹介する映像を展示する予定です。

タナカ:体験している人の写真や動画があるとイメージしやすいと思います。

頼安:あまり見た目は変わりませんが、地形生成のデモンストレーションもしたいですね。

―今後は、成果発表や個展に向けて、体験者に繰り返し楽しんでもらえる仕掛けを考えていきます。