今回採択された『Lasermice bicolor + conference』(仮)は、菅野創さんによる群ロボットインスタレーション作品『Lasermice』のアップデート版の制作・発表と同時に、編集者でキュレーターの塚田有那さんとともにカンファレンス、ワークショップ、ライブイベントの開催を目指しています。新作のリサーチ対象である「社会の二極化と分断」「生命の友愛的アルゴリズム」などをテーマに多角的なプログラムを発信することで、アート作品における社会発信の可能性を広く探る試みです。​​​​

アドバイザー: しりあがり寿(マンガ家/神戸芸術工科大学教授)/
戸村朝子(ソニー株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門 テクノロジーアライアンス部 コンテンツ開発課 統括課長)

—今回は塚田さんが不在のため、菅野さんとアドバイザーとのビデオチャットによる面談です。

マウスロボットによるステージの設計

菅野創(以下、菅野):今、僕はひたすらマウスロボットを量産しています。あと数日で目処が立つ予定で、完成したらどこかでテストをしたいと思っています。僕は、とにかくマウスロボットの制作に集中していて、イベントのマネジメントは塚田さんが進めてくれています。イベントは初日の夜にミュージシャンとロボットによるライブセッション、2日目にインスタレーションとトークを行います。ステージについては、具体的な設計ができあがりました。

—ディスプレイの共有で設計図を表示し、説明します。

菅野:グレーの部分が マウスロボットのステージになります。軽量鉄骨のフレームと木材でステージを組む予定です。部分的にメタルフロア(メタリック素材の床)をつくるつもりですが、どこに配置するかは検討中です。中央のえぐれたようになっているエリアが、ミュージシャンがパフォーマンスをするステージになります。ステージが低いので、会場の後ろのほうにはひな壇のように台を設置して、奥からでもステージの様子が見えるようにする予定です。
PAを置くテーブルは階段下に設置し、3種類のマイクでステージから音をひろい、増幅させます。ちなみに、音響を担当してくれる方に、以前のバージョンのマウスロボットをふたつほどお渡ししていて、いろいろと実験をしてもらっています。

戸村朝子(以下、戸村):会場の写真を見ると、結構窓が大きいですね。

菅野:はい。会場を暗くするにはふさがなくてはいけないのですが、完全な暗室にする必要はないかなと思っています。

環境が与える音への影響に配慮する

戸村:音響については現場合わせになるのですよね?

菅野:そうですね。音響に関しては、ハウリングの問題などはそもそもその空間でしか調整できないのですが、スピーカーの配置などはかなり重要な部分だと思っています。

戸村:私も音のイベントはよく企画しますが、スピーカーの位置ひとつで、観客の体験は変わります。建物の壁や床、天井の素材で音が変わってしまうので、音響環境をつくることにいつも苦労します。今回の会場は、大きな窓が多いことで起きる共鳴が気になりますね。音への影響は、天井も床もすべての環境に関係することです。その辺りの調整は、音響設計をする方の職人技を必要とする部分。建物の素材をポジティブに捉えて音環境をつくるつもりでいたほうがいいとは思いますが、影響が相当ある前提で挑む必要があります。
「思っていた音と全然違う」となったときのために、吸音ができる布やクッション材などを用意しておくと現場での調整に便利です。音響系の人たちには音へのこだわりがあって当然なので、初めてセッションする場所や人なのだとすれば、環境のせいで、自分の普段のクオリティに達しなくて苦しむこともあり得ます。ギリギリまで読めないぶん、対策や調整のための準備はしておくに越したことはありません。

菅野:吸音素材というと、例えばどのようなものがあるのでしょうか。

戸村:無響室の壁を覆っている凹凸のあるスポンジ状のものがありますよね。ああいった吸音材をどこかから借りてくるのがベストですね。

菅野:ありがとうございます。初日の夜のライブまで、日中はオープンリハーサルをするつもりだったのですが、塚田さんからミュージシャンの方々にその旨を話してもらったところ、リハーサルはライブが始まる前の1時間くらいで十分という返答だったそうです。僕はインスタレーションの展示をするので、仕込みがすべてのように考えてしまいますが、またちょっと感覚が違うようです。

戸村:音楽イベント専用につくられた会場ではない、ということは、やはり事前に言っておいたほうがいいと思います。専用のホールなどと同じ環境を想定しまうと、現場に来て「話が違う」となる可能性があるので。事前に伝えて気にしないのであれば問題ないと思うので、確認が大事です。

技術のアップグレードではなく、アップデートの機会に

菅野:2日目に作品をインスタレーションとして見せます。そこでは初日のライブでミュージシャンのステージだった場所に、鑑賞者が入れるようにしたいと思っています。マウスロボットに囲まれる配置になるので、作品をサラウンドで体感できます。
またライブに向けて、複数のマイクで音を増幅させる仕組みをつくりますが、これをインスタレーションでも使えるかは、現場で判断したいと思っています。
イベントに加えて、事前に東京大学で『Lasermice』のアルゴリズムを利用したワークショップを開催予定です。今回のマウスロボットにはマイクを内蔵しましたが、それを活用して、アルゴリズムのバリエーションを開発するようなワークショップになる予定です。

戸村:良いですね。ただ、技術のデモンストレーションにならないように気を付けたほうがいいですね。この事業のよいところは、技術のアップグレードではなく、次元を変えてアップデートする機会として活用できるところなので、ぜひ臆せずに失敗してほしいと思います。

菅野:いろいろと試してみたいと思っています。ワークショップは、対象が東京大学の学生ということで、こちらの投げかけに対して僕が知らない言葉で、高度な返事をくれるのではと思っています。何かしらおもしろい結果が得られたらと期待しています。

しりあがり寿:とにかく楽しみですね。早く見たいです。

戸村:トークセッションでは、エンジニアの方にもぜひ足を運んでもらって、アーティストとエンジニアが交わるきっかけになってほしいと思っています。ゲストも、同じ業界からではなく、違うジャンルの方を呼べるといいかもしれませんね。

—イベントに合わせて開催するライブとインスタレーション展示に向けて、引き続き準備を進めます。