山形一生さん、ひらたとらじさんが2021年に制作をスタートしたビデオゲーム作品『Farewells』。今回取り組むのは、このゲームのプロローグ(序章)を完成させることを目標にしたプロジェクトです。『Farewells』の主人公は男の子。彼の生活と、彼がプレイするビデオゲームを両方操作することで、物語が展開されていきます。自室でビデオゲームばかりしている主人公は、戦闘ゲームやRPG、ホラーなどいくつものゲームを通して、自分と家族の問題を解決していきます。実際のプレイヤーは「ゲーム内の現実」と「ゲーム内のゲーム」が入れ子状に折り重なる構造の中、登場するキャラクターとその存在について考えさせられます。2024年12月にプロローグを完成させることを目標に初回面談が進みました。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/米光一成(ゲーム作家)

初回面談:2023年9月25日(月)

「ゲームをやる子ども」と「阻害する親」ではない家族観

山形一生さんとひらたとらじさんから、制作の進捗が報告されました。作品の冒頭は主人公がプレイするゲーム内ゲーム、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)の場面からスタートし、現在はその制作を進めています。ゲームのプロローグは「今後の展開が予感できる要素を入れていく予定」です。

制作中の『Farewells』

進捗状況を聞き、アドバイザーの米光一成さんは「コンセプトはしっかり詰められているのでぶれることはないと思うが制作の見通しをたてた方がいい」とスケジュールについてアドバイス。すると制作にあたって「主人公の家族の設定」に迷いがあることが山形さんから共有されました。アドバイザーの石橋素さんが主人公を取り巻く世界について質問すると「ゲームで対戦する友人との会話はあるが、基本的には屋外に出ない設定」とひらたさん。家の中で展開される物語だからこそ、家族の描き方は重要なポイントになります。「例えばゲームをやる子どもに対し、それを阻害してくる親というのは家族の典型的な描かれ方ですが、今回は果たしてそれでいいのだろうか」と山形さんは悩んでいます。

石橋さん

親のゲーム体験と、世代による違い

さらに時代設定について米光さんから質問があると「未定だけれど現代か近未来の設定かもしれない」と山形さんは回答。米光さんは、親世代のゲーム体験の違いが物語に影響を与えるため「時代設定の重要性」を強調し、リサーチを深めることをすすめます。「リサーチで、ゲームとそれにまつわる親のエピソードをヒアリングしたい」と山形さんとひらたさん。

その後、ゲームと親の関係について、それぞれの子どものころの体験を4人で共有しました。アドバイザーとクリエイターに年齢差があるので世代の違いはあるものの、親との関係に著しい差はないかもしれない、と米光さん。ただし、触れてきたメディアやテクノロジーの違いはありそうです。

小学校の頃に親が購入したパソコンを使い、ドット絵でRPGゲームのオープニング画像を作成した石橋さん。雑誌『マイコンBASICマガジン』(*1)の読者投稿に掲載されたコードを手打ち入力し、ゲームを楽しんだ米光さん。すでに家庭用ゲーム機が存在する時代に生まれた山形さんとひらたさんは興味深く聞き入り、本といったアナログの媒体を作品内に登場させることなども視野に入れました。

体験を一通り共有した後「今回の作品に根底のテーマが似ているかもしれない」と、米光さんから本が紹介されました。『ラウリ・クースクを探して』(宮内悠介、朝日新聞出版、2023)という小説で、独立前のエストニアに住む少年がパソコンを手に入れ、ゲームをつくったことで友人ができたりコンテストで競ったりと、社会との関係ができていく物語です。

米光さん

ゲームは賛否両論を生む新しいメディア

「ゲームは小説や映画などほかのメディアと比較すると、肯定派と否定派の差が激しいメディア」と石橋さんが指摘。米光さんも「新しいメディアのためゲームやコンピュータはこの30〜50年で社会性を帯びてきた」と続けます。2000年代前半には「ゲーム脳」という言葉が出てくるなど「ゲームは悪影響」という意識が広がった一方で「ゲームは脳によい」という考えもあり、ゲームの影響への意見は、賛否が激しい印象があると山形さんも話しました。その上で山形さんはゲーム依存症の問題については「ゲームのせいではないと思う」と述べました。

ゲーム依存症については、以前はいかにゲームから子どもを遠ざけるかという考え方が多かったが、最近ではゲームに依存する環境の方に問題があることから、親にも理解をうながし、ゲーム自体を否定しない方法が提案されている、と米光さん。家族間でどのようにゲームを捉えるかというエピソードも紹介されている本『ゲーム障害再考―嗜癖か、発達障害か、それとも大人のいらだちか』(佐久間寛之・松本俊彦・吉川徹編、日本評論社、2023)が紹介されました。

「世代による現実とバーチャルの認識の差異」「家族間のエピソード」などについては今後ヒアリングを進め、複数のサポートも借りながらプロローグの完成を目指していきます。

→NEXT STEP
プロローグ完成に向けて実装していく。次の中間面談では実装したゲームの一部を見せる

*1 電波新聞社が1982〜2003年に刊行していた愛好家向けパソコン関連雑誌。略称は「ベーマガ」。