3D表現を中心に、VRコンテンツやCGI、インスタレーションの制作を行うアーティスト・デザイナーの高橋祐亮さん。採択された企画『trash for you「VRと現実空間の相互作用から生まれる多層的な想像」』は、作家の自宅を再現したVR空間の中で「ゴミを捨てる」という体験と、体験から生成されるデータによるインスタレーション作品です。アドバイザーからは、プランの段階では作品を構成する要素が多く、その真意が測りきれなかったという指摘が。初回面談では、アドバイザーとともに作品の根底にあるテーマやマスターコンセプトに立ち戻ることになりました。

アドバイザー:戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/モンノカヅエ(映像作家)

初回面談:2023年9月21日(木)

マスターコンセプトの再構築

高橋祐亮さんからの企画説明を受けて、アドバイザーの戸村朝子さんから、面白い要素はたくさんあるが、要素が多く互いにまだつながっていないため、作品で何を表したいのかをまず突き詰めて考える必要があると、マスターコンセプトの再考の提案がありました。

高橋さんは、制作と探求を同時進行する「考えながら手を動かすタイプ」のため、序盤に大きなコンセプトを立てるのが苦手だと言います。もう一人のアドバイザーである映像作家のモンノカヅエさんは、手を動かすのが楽しいことに同意しつつも、データを購入して済ませられる作業もあるはずと、一度手を止めてみることを提案。戸村さんは自らの経験から、「エンジニアリング畑の方は、手を動かしながら考えるのは苦手だったりもします。それは強みでもあると思いますよ」と、その気質を前向きに肯定しました。

戸村さん

要素を因数分解してみる

マスターコンセプトの再考に向けては、作品プランを因数分解することで、必要な要素と省いてもいい要素を明らかにすることに。「自宅」や「ゴミ」といった個々の要素を面談の中で検証していきました。 高橋さんは、VR空間ではいくらでも膨大な情報量の世界がつくれてしまうと言います。扱う対象を自宅という身近なものにすることで、制限をかけようと考えたそうです。ゴミについては「もともとは取捨選択をする際の、取らなかった方をテーマにすると面白いのではないかという思いがありました。それと家というモチーフが掛け合わされて、行き着いたのがゴミです」と、アドバイザーとの対話の中で自身の思考を掘り起こしていきます。

制作中の3Dモデル

鑑賞者の視点で考える

自宅というモチーフについて、戸村さんは鑑賞者視点で体験を想像することの重要性を示唆します。作家にとってパーソナルな自宅も、鑑賞者にとってはまったく異なる見え方をするため、作品を構築する要素に何を投射したいのかを明確にする必要があると説きました。モンノさんからは、「東日本大震災で被災した子どもに家を描かせると、宙に浮いた家を描く子がいると聞いたことがあります。同じ家でも、癒しの象徴にも、トラウマの象徴にもなる」と、同一のモチーフも扱い方次第で異なるメッセージを持つことの例示がありました。

モンノさん

さらにモンノさんは、VRで歩き回る場所を、家全体ではなく例えば台所に絞り、さらに実際の展示空間にも同じ台所を配置することを提案します。この提案が、鑑賞者の視点で考えることのヒントになりました。「仮想空間上につくった空間が、現実にも実在することが重要だと気づきました。それが自宅を選んだ理由の一つでもあるのだと思います。ただ、今の状態では実在することは自分にしかわからない。鑑賞者にも同じように感じてもらうにはどうしたらいいのか、そこを考える必要があるのですね」と高橋さん。

先行事例を参考に

その他、より具体的な今後の検討事項として、VRにおける空間音響の置き方などについてもアドバイザーから投げかけがありましたが、経験値も実績もある高橋さん。その経歴を鑑みれば、方向性決定後の進行に不安はないと戸村さん。

モンノさんは自身のVR体験で印象深かったという、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督による作品『CARNE y ARENA』(*1)を例に挙げ、VR体験の前後も含めた設計および運営ついても熟考を促しました。戸村さんからは、日本作家における事例として、小泉明郎によるプロメテウス3部作のうちの一つ、『解放されたプロメテウス』(*2)についても触れられました。

高橋さんは「個人で活動していると、痛いところを突かれるのは完成後。こういった機会は貴重です。面談を通して、小さくても強度のあるものがつくれたらという気持ちになりました。次回はやりたいことを明確にして、そのコアになる部分を体験可能な形でお見せできたら」と、意気込みを新たにしました。

面談の様子

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マスターコンセプトの再考とテストピースの具現化

*1 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督による『CARNE y ARENA』は、南米からの難民がアメリカへの入国を試みるさまをVRで体験する作品。体験前、会場に入る際にセキュリティーチェックがあるなど、VRの前後を含めた体験設計がなされている。モンノさんは本作を体験しに出向いたものの、入口でのセキュリティーチェックや、会場のものものしい雰囲気を味わったのみで、体験者に選ばれることはなく会場をあとにした。そこで味わった疎外感や空気感が、難民が味わっているものに通じるものがあるように感じたという。
*2 映像作家の小泉明郎は近年VRをその制作手法として積極的に取り入れており、プロメテウス3部作はその代表的なシリーズ。『解放されたプロメテウス』(2021)は2作目にあたるが、3部作を通して、VRの仮想空間内での体験のみならず、展示会場や、体験の前後の演出も含め、作品体験が重層的に設計されている。1作目の『縛られたプロメテウス』(2019)は第24回文化庁メディア芸術祭アート部門で大賞を受賞した。