普段はライゾマティクスR&Dエンジニアとして、ロボティクス技術を生かしたアート・エンターテインメント制作を行っている竹森達也さん。今回の作品『Laser Ropes』では、「レーザー光線が柔らかいゴム紐かのように動いていたら面白そう」という発想から、レーザー光を空間に浮いたセグメントとして見せ、かつ光線を自在に曲げるように錯覚させるという、新たな光の演出手法に挑みます。さらにその仕組みを応用して、レーザー光による多様な表現や演出で構成された作品を制作します。最終面談では、作品の構想に生じた変更点や今後の制作についてアドバイザーと語りました。

アドバイザー:森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)/森田菜絵(企画・プロデューサー)

最終面談:2024年1月16日(火)

シミュレーションを繰り返しながら光の見え方を追求する

今作のプロトタイプをつくる途中で作品の構想に大きな変化があった、と話す竹森達也さん。「光源の動きが首振りのみであったこれまでの方法では動きの変化がつけにくく、また、よく見る既存のレーザーの動きとあまり変わらないことに気付きました。いろいろとアイデアを出していく中で、思い切ってロボットアームの先端にレーザーの光源をつけようという結論に至りました。ロボットアームを使うことで光源を平行に動かすことができ、レーザー光の動きの幅が広がります」と話します。制作スケジュールは押し気味であるものの、装置の完成イメージが徐々に定まってきた竹森さん。今後、プロトタイプの検証とロボットアームの設計を進めていく予定です。

中間面談後はプロトタイプによる検証を行ったとのことで、その様子を撮影した動画を見ながら面談を進めました。3パターンの光の動きを試した結果、「光の軌跡は、わりと曲がって見えました」と竹森さん。

スモークを焚いた空間で、レーザー光の動きを検証

アドバイザーの森まさあきさんはロボットアームを使うことに興味を示し、アームが動く際の機械音なども作品に魅力を加えることになるのではないかと語りました。ただし「実際に見てみないと何ともいえないところはあります」と指摘。「先ほどの映像で、左右から出るレーザー光が1本のつながった線に見えるかというと、やや無理があるのではないかという印象でした」といいます。竹森さんはレーザー光の強さや光同士の最適な間隔、鑑賞者との距離感などを見極めていきたいと話しました。森田菜絵さんは「ロボットアームを使うという発想がいいと思いました。研究者としてロボットをつくってきた竹森さんだからこそできる、奥行きのある作品になりそうです」と賛同しました。

森さん

「音」を効果的に使い、光の動きを際立たせる

竹森さんは、「謎の力で紐が揺れているのではなく、揺れる『元』がきちんとあることが鑑賞者にもわかると、既存のレーザー光とは違ったものに感じられるのではないかと思います。また、ゆっくりした動きで曲がって見えるような光をつくりたい」と、今作で挑戦したいことを話しました。「そう見せたいときに、音楽が重要ですね」と、森さん。竹森さんも「音楽と組み合わせる場合は、その音で光の紐が動いているようなイメージにしたいです」と応えます。

その後森田さんから問われたのは、身体パフォーマンスとのコラボレーションがどのようなものになりそうかということ。竹森さんは、「舞台の中央にダンサーが立ち、ダンサーの体の各パーツ(指先など)に紐づけられたレーザー光がダンサーの動きに合わせて動くというものを想定しています。特殊なカメラでダンサーを撮影してポーズの情報を取得し、リアルタイムに光源を動かすことで実現可能です。装置の制作を進めて光の動きが見えてきた段階で、ダンサーに動きの提案をしてもらえるようにしたい」と話しました。

森田さん

そのほか、錯覚や錯視の要素を作品に取り入れることなどについてアドバイザーの2人と意見を交わしました。その中で竹森さんは、「『ゆっくり曲がって見える面白さ』は鉛筆を上下に揺らしたときの錯視にも通じる部分があります。それだとありきたりになってしまうので、それとは原理の異なる見え方を目指したいです。数式で書いたシミュレーション上の動きが現実空間で実際にできるとは限らないので、ゴム紐の動きを研究するなどして光の動きの質を高めたい」と話しました。

成果発表イベントでは、プロトタイプの映像を中心に展示し、可能性を感じてもらえるような展示にしたいと話す竹森さん。クリエイターが見たときに新たな使い道を発想してもらえるようなものにしたいと述べます。イベント後は、装置を完成させ、音楽や身体パフォーマンスとのコラボレーションの可能性を探っていきます。竹森さんは、仕事と制作のバランスに悩んでいるものの、今後も制作時間を確保して計画的にやっていきたいと話しました。

TO BE CONTINUED…
プロトタイプを制作する中での試行錯誤を踏まえて本作の設計・制作を進める