水尻自子さんのプロジェクトは、2024年3月7日から4月15日にかけてスペインのCentro Cultural Gran Capitánにて開催される予定の展示「ANXIOUS BODIES」にて、新作短編アニメーション『普通の生活 Ordinary Life』をインスタレーションにして発表するものです。これまで上映形式のアニメーション作品で世界中から評価を受けてきた水尻さんにとって、今回のプロジェクトは新たな挑戦となります。イメージを具体的にする中で、水尻さんは自身の表現を見つめ直しました。

アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

最終面談:2024年1月12日(金)

制作の進行について

短編アニメーションとインスタレーションの制作を並行して進める水尻自子さん。最終面談では、最初にそのアニメーションの進行について話されました。「まずは新しいものとしてお見せできるのは、トレーラーがほぼ出来上がるところまで来ています。そして現在は本編の完成に向け、作画を進めているところです」。

また、初回面談でも議論になったビニール袋について、水尻さんはテーマを再考し、次のように説明しました。「作品に出てくるモチーフや風景は、日常の観念を具現化したようなものです。そしてそれらの動きを通じて、その日常を超えた刹那的な永遠性とつながり、物体に触れる感覚や感触、あるいは何かとの出会いを表現したい。だからビニール袋も単なる日常のオブジェではなく、動きを通じてそれと出会うためのアイテムなのです」。

ビニール袋は3DCGで作成し、画面間を行き来させることで、動きの参考としている

水尻さんはこのように語り、自らの表現の中心がモチーフそのものではなく、動きであることを再認識した様子でした。また、インスタレーションの見せ方については「面談などでもアドバイスをもらったが、いい答えが出せず悩んでいたら手が進まなくなってしまった」と打ち明け、今回はシンプルに四つのモニターを使用した展示とすることが話されました。

言語化の重要性

水尻さんから制作に関する一連のプレゼンテーションが終わり、アドバイザーの原久子さんは「触れるということを表すメディアとして、モチーフがあるということですね」と応じ、さやわかさんは「自分の作家性がどのようなものなのか考え直せていて良かった。ミニマルな接触、可塑性や弾力性といったものの表現として、ビニール袋などの日常的なモチーフがあるということがわかりました。ロジックを自分から提示できている。刹那的な永遠性という言葉もいい。矛盾してるけど水尻さんなりの実感が言語化されているように思いました」と述べます。また、原さんはこうした言語化は、海外で発表する場合は特に重要だと話します。水尻さんは「言葉にできないからアニメーションをつくっているので、今まで言語化を避けていたが、今後は取り組んでいきたい」と積極的な姿勢を示しました。

左から、さやわかさん、原さん

インスタレーションに取り組んでみて思ったこと

原さんは、インスタレーションの進捗についても質問。水尻さんは「自分の能力として、展示について考える力が思ったよりなかったので、一緒に考える人がいてもよかった」と応じます。それに対しさやわかさんは「それは決して悪いことではなく、次は人とやろうかなとか進め方が決められるようになるからよいことでもある」と前向きにコメント。原さんも「今回のインスタレーションを見てオファーをくれる人もいるかもしれない。今後はもっといろんなマッチングをしてもよいのでは? 申請時、水尻さんはすでにコンテも描かれていて、出来上がっている印象があったので、何を求めているのかがそのときにはわかりませんでした。でもそれが、ここに来て出てきた」と述べます。

さやわかさんは面談の最後に、次の作品についての構想を尋ねました。水尻さんは「具体的に考えているわけではないが、アニメーションをつくっていると、これでいいのだろうか?というモヤモヤが生まれてくるので、すでに次回作をつくりたいという気持ちになってきています」と応じました。本事業を通じ、自らの表現に改めて向き合った水尻さん。作品制作へのモチベーションが高まってきた様子に、期待が高まります。

面談の様子

TO BE CONTINUED…
制作中の短編アニメーションを完成させる