「世界を読み解くための装置」として作品制作をする山田哲平さん。鼓動を10個のスピーカーと糸で可視化した『Apart and/or Together』は、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品をはじめ、国内外で受賞しています。本企画では、「多様性と普遍性」をテーマとした新たなインタラクティブ・サウンドインスタレーションを制作します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家/京都精華大学デザイン学部客員教授)/土佐尚子(芸術家/京都大学大学院総合生存学館アートイノベーション産学共同講座教授)

―中間面談はビデオチャットを用いて行いました。

コロナ禍の心の支えになるアートに

山田哲平(以下、山田):まず企画書からの変更点として、サーバーをレンタルするのではなく小型コンピュータの「ラズベリーパイ」を使います。スピーカーを吊るす躯体の制作については、数多くのアーティストの作品も手がける会社に相談しにいきます。スピーカーも、ほしいスペックのものを台湾のメーカーから発注することにしました。最終面談の前にはある程度お見せできる形になるかと思います。会場は日本橋の商業施設を第一候補としていますが、音の出る作品は難しい可能性もあり、ほかの場所も検討しています。基本的にうまくいっていますが新型コロナウイルス感染症の影響もあり、このままのペースで進められるかわからないという心配はあります。

土佐尚子(以下、土佐):現在わたしたちはコロナ禍にいますが、今こそアートの力が注目されるでしょう。通常の状態ならアートはなくても社会は動くけれど、今は世界中の人たちが同じ体験をして困っています。こういうときだからこそアートが人々の心の支えになる。力を発揮する。オンラインもひとつの展示方法だと思います。ピンチをチャンスにして、世界中の心音を1カ所に集めることで、みんなの気持ちがひとつになるような、生きるモチベーションを上げるような作品にしてほしいです。

山田:すごくありがたい言葉です。2021年1月の緊急事態宣言後に、アートと関係のない分野、医療関係者も含めて注目してくれる人が増えました。自分の表現がアート界隈だけではなく、社会に浸透していくものになると感じています。土佐さんは作家・研究者としてコロナ禍で始められたことはありますか。

土佐:『サウンド オブ 生け花』のシリーズを赤ちゃんの産声を使って制作する『ubugoe by sound of ikebana』を大学のプロジェクトとして行いました。すべてデジタルで作業し、インスタグラムで見られるようにしています。この状況で子どもを産むのは大変なストレスですし、医療従事者の人たちの応援にもなると考えました。コロナ禍で大変な人たちを応援できるような美しい作品になるといいですよね。

言語で説得する

山田:初回面談で土佐さんにご指摘をいただいて、10年前につくった自身のステートメントを今一度見直して、自分の世界観をもっと深めようと思慮しています。

土佐:自分を客観的に見るのは難しいですが、たとえば100年後に作品が残るか、何の分野でどのように残るかを考えてみてください。また、作品の独自性とその根拠を考え、類似作品との違いをわかりやすく伝えることも大事です。アートを説明するツールは言語です。つくって、説明して、フィードバックを受けるということでやっていくしかない。表現が歴史に紐づいていることも大事です。例えば、日本画の平面性から村上隆のスーパーフラットが出てきた。ある程度相手がわかる文脈で話せるといいですね。

山田:どのように美術の文脈や歴史と紐づけていけばいいか悩みます。メディアアートは新しいことばかりですので。

土佐:そんなことはないですよ。例えば、アート・アンド・テクノロジーの文脈から、バウハウスやアーツアンドクラフツまでルーツを遡ることもできる。もっと遡るとレオナルド・ダ・ヴィンチのルネサンスまでたどれる。自分のルーツを考えていくことで作品も深まっていき、他人への説得につながります。そのためには、とにかく多くの本を読むことをおすすめします。

ボルタンスキーと違うこと

土佐:山田さんの作品は、クリスチャン・ボルタンスキー(フランスの現代アーティスト)の心音の作品と比べられるように思われますが、自身の作品とどこが違うと思いますか。

山田:まったく影響は受けていません。というのも、ボルタンスキーは「ゴースト」を表現していますが、自分は生きている人の生命を表現したいのです。ボルタンスキーは複数人の心音に対してアウトプットはひとつ、ひとりひとりのゴーストに着目しています。私は複数のアウトプットをすることで多様性や普遍性を表現したい。表面上で似ていても、表現したいことのベクトルはかなり違うと考えています。人間は何からできているのかを探っていき、振動や現象、心音に行きついて、それをビジュアライズしたいと考えて作品化しています。

土佐:人間は宇宙の塵からできて、水を得て進化してきた。そういった生命の成り立ちも考えてみるといいかもしれませんね。

タナカカツキ(以下、タナカ):もしかしたらボルタンスキーとの違いを詰めていくことが、言語化への近道かもしれませんね。ルーツは違うけれど同じような作品が出てきたときに、何が違うのか。ちょうどいい鏡になるでしょう。

根源的に惹かれるもの

山田:僕の作品はタナカさんの作風や領域と違う気がするのですが、なぜ共感していただけるのでしょうか。

タナカ:さまざまな人の心音が混ざり合って新しいリズムが生まれる瞬間を見てみたい。それと、波をシンメトリーにして表現した映像作品『The Dawn』など山田さんのこれまでの作品を見て、根源的なテーマが好きなのかなと思いました。自然現象の類似、人間にはわからない仕組みやリズムでこの世界ができている。そうした原初的なことに触れたときに、気持ちが日常から遠くに行く感じが大好きなんです。

山田:確かに、見て体感して、自我を滅せられる感覚になるものをつくりたいと考えていました。

タナカ:本当は自分たちの奥にあるグッとくる造形があるけれど、作品をみせるだけでは伝わらずに仕組みで納得してしまうアーティストも多い。だからこそ、言語化が必要なのだろうと思います。誰もが感じていたけれど言語化できなかったことを表現した言葉には力があります。山田さんの作品にそうした言語が添えられているといいと思いました。私も土佐先生のおっしゃるように本を読もうと思います(笑)。

プロフェッショナルの精度を取り入れる

タナカ:いま乗り越えなければいけない課題はありますか。

山田:まず、会場に展示する場合にはデバイスに接触する必要があるので、消毒などに運営の人員を割く必要がある。また作品が大きくなったことで、人に依頼することが多くなり、細かい問題点が発見しにくい点もありますね。

土佐:そういう場合は、どこかで問題が起きたときに対処ができるよう、第二・第三の案をたてておく。それがプロというものです。

山田:いつもは自分ひとりで制作しているので、最終的にはひとりで完成させられるはずです。しかし、自分は何でも屋だけれど、ひとつの道のプロフェッショナルではない。せっかく支援をいただけたので、誰かの力を借りてプロフェッショナルの精度を自分の作品に取り入れてみたいとも考えています。もう一段階レベルアップしたものを出していきたい。1ヶ月後くらいにはソフト面はおおかた完成する予定です。難点は、クラウドサーバーに上げて引き出す作業です。

―最終面談までには、躯体のCAD図面の制作を進める予定です。