2012年に『Immersive Room』が第16回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品に選出された澤村ちひろさん。今回採択された企画では、3DCGを使用した短編アニメーション作品の制作をおこないます。少女と街と鳥の物語を、国産アニメの技術と様式を用いて、アニメーションとしての美的・造形的価値を追求する作品です。

澤村さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田 敏克氏と、マンガ家/神戸芸術工科大学教授のしりあがり寿氏です。

アニメーション本来の動きを追求する

―初回面談は、絵コンテからカッティング(編集)したビデオコンテを見ながら始まりました。

澤村ちひろ(以下、澤村):今回の作品では、3DCG技術を用いますが、一番やりたいことは「アニメーターとして、アニメーション本来の動きを追求する」ことです。アニメーションに力を入れたいので、ストーリーは主人公が空の鳥を追いかける、というシンプルなものにする予定です。
私は、学生の頃から「空間」を意識してアニメーションを作ってきましたので、今回も自分の中にずっとある「空間への感覚」を基本に制作をします。自分自身の新たな取り組みとしては、音楽や音響をプロの方に依頼をする予定です。インディペンデントなアニメーション作品は音楽がチープだと言われがちなので、そうならないように音もこだわりたいです。音楽のイメージは、SE(効果音)でもBGMでもないその中間のようなもので、空間の広がりを感じるものを考えています。
この事業での採択が決まってからこれまで、主に絵コンテの描き直しを行いました。全体的にはあまり変わっていませんが、キャラクターの動きを強調することと場面展開を分かりやすくすることに気を配りました。具体的には、女の子に髪飾りを加えたり、動きの変化の幅が出るように絵コンテを調整しました。ストーリーの終盤へのつながりは今後制作しながら考える予定です。
3DCGでしか表現できないことも効果的に取り入れたいと思い、いろいろと試しながら進めています。

和田敏克(以下、和田):順調だと思いますので、このまま計画的に進めてもらえればと思います。作品については、水彩のタッチが立体(3DCG)にここまで馴染んでいるアニメーション作品は珍しいと感じました。はしごや階段などはストーリーの中で大切な要素かもしれません。高低差があると、3DCGの技術が効果的に使えますよね。街並みを描く際に、立体的な見どころも作ってほしいと思います。

澤村:はい、現段階ではまだ画面の縦移動が少ないので検討したいと思います。

ストーリーに「理屈」を

澤村:ストーリーの組み立てが難しいと感じるのですが、ビデオコンテを見ていただき、どう思われたでしょうか。

和田:舞台となるこの街はどんな街なのか、女の子がどんなことを考えているか、女の子が羽根を発見した時に何を感じたか、そういった理屈が感じられるように工夫すると、見る側としては感情移入しやすくなります。それが今はあまり感じられないので、作品のラストが何となく弱い印象ですね。澤村さんの一番やりたい「アニメーション本来の動きを追求すること」は、このまま進めていけばきっとできると思うので、あとは作品としてのストーリーを深めていくべきではないかと思います。女の子が、街の中でどういう存在なのかが見えてくるといいと思います。

しりあがり寿(以下、しりあがり):アニメを作るのは大変なので、欲張り過ぎずに、優先順位を決めて取り組んでみてはいかがでしょうか。

澤村:そうですね。主人公に生命感をもたせるよう作っていきたいと思います。

しりあがり:よく分からない物語ほど、逆に整理が必要だと思います。ここに出てくる「おどろき盤」(フェナキストスコープ)や「階段」「鳥」などのシンボルが、最初の方で何を象徴しているのかを明確にしておくと見る側は理解しやすいと思います。その前提があれば、ストーリー展開を推測させておいてから裏切ったり、現実だと思わせておいて実は夢だったりすると、意外性をつくることもできます。
「画面」と「動き」だけで人の心を動かす、というのが目的であれば、物語は凝らない方がいいのかもしれませんが、あらためてストーリーを整理してはいかがですか。

和田:ところで、音楽の作曲をお願いするのはどんな作家さんですか?

澤村:普段から作曲されていて、実際に空間インスタレーション作品なども制作されている方にお願いする予定です。

和田:カッティングができた時点でなるべく早めに見せて、どこにどういう音楽が欲しいか、じっくり話し合うといいと思います。そして、デモをもらったら、澤村さんがそのデモに触発される部分が必ずあると思います。例えば雨音の「サー」という音でも、実際に作ってもらったものを聞くと、また絵のイメージが広がるものです。

澤村:自分だけでは生み出せないようなイメージが広がるかもしれませんね。ぜひ早めに打ち合わせを進めたいと思います。

キャラクター設定は「感情」をもとに

澤村:今後もう一度、登場人物の設定をしっかり考えていきたいです。キャラクター設定をするときのポイントを教えていただけますか?

和田:やり方は人それぞれだと思いますが、イメージの中で登場人物が物語の中で自由に動き始めるようになるまでは、この子はどんな子なのだろう、と色々考えておくことが大切だと思います。

しりあがり:ディテールを細かく決めるよりは、登場人物がどこで笑って、何に怒るか、そのあたりの性格や個性を大切にして設定を考えるのも手です。そうすると見る側も感情移入しやすくなると思います。

澤村:ありがとうございます。主人公の性格や個性を、仕草や歩き方で表現できれば、と思っています。具体的には、器用に走らないというところです。表情なども下品にならない程度に誇張してみせたいと考えています。

しりあがり:あとは、下手に設定にとらわれることのないよう、自分が魅力的に思う動きや表情に素直になることも大切です。

シンプルなストーリーからふくらませて

澤村:現状では、「女の子」と「街」と「おどろき盤」が、どこかかみ合っていないように感じています。

和田:全体的にまだふわふわしていますよね。どうしてその要素を作ったかをあらためて思い出してみてはいかがでしょうか。

しりあがり:ここで登場する街がどういう役割なのかという設定も大事だと思います。迷路なのか、塔なのか……。はしごや階段については、例えば、全部はしごにするのと、全部階段にするのとではやっぱり意味が違ってきますよね。

和田:例えば、階段は生活圏ですが、はしごはそこからから外れますよね。また、高いところから街を見渡し、足がすくむような不安な感じのシーンがもう少しあってもよいのではないでしょうか。

しりあがり:今回は短編アニメーションなので、やっぱりシンプルな話の方が進めやすいと思いますよ。ざっくり言うと「おどろき盤が同じところを回っている。それが閉じられた世界の象徴で、そこから解放されるような気がしたけれど、やっぱりおどろき盤の中だった……」と、そんなシンプルなストーリーもおもしろいのではないでしょうか。解放への期待が高まっていく中で、最後に落とすような。ここで、仮に塔がおどろき盤だとしたら、話がおかしくなってしまいますよね。このように最初に明確な設定があれば、その後も考えやすいと思います。

澤村:はい。要素にしたい部分を、例えば3つくらいに絞ってみるとよいでしょうか?

しりあがり:そうですね。あるいは、一度あらすじを100文字くらいで考えてみるやり方もありますよ。それを膨らませたり、見る側を裏切ったり、という風にストーリーを考えていくといいかもしれません。

澤村:試してみます。ストーリーについて、再検討したいと思います。また、女の子の感情も重要ですよね。今日のアドバイスを踏まえながら、それらをどう絵にしていくか、ということを考えていきたいと思います。

―次回の中間面談では、再構成されたストーリーとアニメーション制作の進捗状況が報告される予定です。