まだ前日の雪が残る2014年2月9日、東京ミッドタウン内にあるインターナショナル・デザイン・リエゾンセンターで、平成25年度の成果プレゼテーションが実施されました。足元の悪い中お集まりいただいた40名を超える参加者の前で、クリエイター5組とアドバイザー4名が一堂に介し、各クリエイターから支援企画の詳細と、その制作過程の紹介がありました。
以下、その様子をプレゼンテーション順にご紹介します。

勝本雄一朗《BOX RUN》

まず始めに、メディア芸術祭で受賞した『雨刀』(第10回エンターテインメント部門奨励賞)や『相転移的装置』(第15回エンターテインメント部門優秀賞)など、勝本さんがこれまで制作した作品についての紹介があり、その後今回の支援を受けて制作を行った『BOX RUN』の詳細な説明がありました。過去の作品と同様に「ガジェット」である本作は、動かないはずの立方体が動き、重力に抗うような動きをする、というコンセプトの作品です。制作のためのリサーチを通じて見出された、様々な先行事例の検証を経て、『BOX RUN』の独自性に繫がる仕組みにつながった点が紹介されました。結果的に採用されたのは、箱の移動に重量感を出すために、内蔵するハンマーで内壁を叩き付ける方法。一方向の回転に留まらず、全方向に回転できるようになっています。この思考錯誤の様子、確実に完成に向けてブラッシュアップされていく様子は、アドバイザーとの面談毎に伝わってきました。今回の制作を通して、回転する箱は実現可能であるということと、重力に抗うというイレギュラーな動きをするものでも、ロジカルな方法を用いることによって、遊びとしてもうまく機能するということを発見できたようです。勝本さんからは、箱を量産して踊らせたり、プロジェクションマッピングをほどこしたり、この『BOX RUN』を利用して物を運ぶという今後の展開へのアイディアも語られました。

アドバイザーを担当した岩谷氏からは、動かないはずの箱を動かすということの技術的な難しさにもかかわらず、妥協することなく実現していく、勝本さんの着実な制作工程や、スピードに驚いたというコメントがありました。また、タナカ氏からは今後、この『BOX RUN』のような動く立方体が私たちの生活に入り込んできたときに、どんなことが起こるのか考えてみても良いという意見がありました。本来、動かないものが動きだすということによって、オブジェやガジェットに命が注ぎ込まれ、見る人に情感がわき起こるような表現の方向も考えられるので、期待したいということでした。

鈴木沙織《大丈夫だよ》

プレゼンテーションは、まず『感傷の沈殿』(第16回アニメーション部門審査委員会推薦作品)や『TAIKO』など、鈴木さんの過去作品の紹介から始まりました。今回の作品『大丈夫だよ』は、「私自身へ、そして同時代に生きる人々に向けた切実な『大丈夫だよ』というメッセージを描く半立体の人形アニメーション作品」がコンセプトです。制作プロセスの紹介では、たくさんの写真やイラストが用いられました。8月から10月の間に、絵コンテ、イメージボード、ビデオコンテ、更には部屋のセットなどが制作され、11月からは波のシーン、草原のシーン、家のシーンの3つのシーンのうち波のシーンの制作が行われたということです。今回の作品は、アシスタントとの分業体制で制作するため、人形の構造を説明する指示書としてイラストが用いられ、手足が可動する人形の仕組みや、着色していく様子などが詳しく説明されました。鈴木さんの制作手法は、デジタル技術をあまり用いない、アナログな手法で制作されるアニメーションですが、そこには手で作ることによって生まれる偶然性や、失敗することから生じる偶然の魅力を作品に取り入れて行きたいという気持ちが込められています。今回、支援を受けて良かったこととして、様々な素材に挑戦できたこと、アシスタントを雇って多くの人形を制作できたことなどが挙げられました。その他、支援のおかげでカメラを移動しながら撮影する方法や、今までより多くのレイヤーを使うことによって、作品に奥行きや空気感を表現できたとのことです。また、アドバイザーの伊藤氏から、伊藤氏が紹介した音響の専門家へのヒヤリングも大変有意義な機会だったとのお話があり、プレゼンテーションの最後には、『大丈夫だよ』のプレビューが上映されました。

プレゼンテーションを受けて、アドバイザーの伊藤氏からは、今回の鈴木さんの作品は、ストーリーを鑑賞者に伝えるタイプの作品ではなく、むしろ連作の絵画を鑑賞するような作品であり、絵画を学んできた鈴木さんが、アニメーション表現にも貪欲に取り組んでいく姿を公開することに価値があるという感想がありました。今回、ヒヤリングを行った音響の専門家に学んだ知識も、併せて血肉にしていって欲しいということでした。岩谷氏からは、鈴木さんの持ち味である色彩の美しさと、ストーリーはもちろんのこと、サウンドをきちんと作り込むことによって、より良い作品を作り上げて行って欲しいというコメントがありました。タナカ氏からは、作品から独特の空気感がにじみ出ているので、作品の完成を期待していると伝えられました。

水江 未来、藤田 純平 《ももんくん -momon- 》

『ももんくん』のプレゼンテーションは、水江さん、藤田さんの自己紹介とお二人の過去作の紹介から始まりました。『ももんくん』では「戸惑い」をテーマに、「妄想がちな主人公の少年が恋に挫折し、人生最大級の戸惑いに直面する」というストーリーが展開します。少年の現実と妄想が混じりあう過程に、具象と抽象が交錯するシーンを取り入れるという、新たなアニメーション表現を試すだけでなく、制作でも新たな方法に挑戦しました。水江さんは、個人制作が多い日本の短編アニメーションに対して、もっと様々な試みをしていくべきという思いから、今回は、スタッフワークでの制作を試みたのです。しかしながら、今まで手で描くことにこだわってきた経緯から、スピード感を大切にしつつも、原画は全て手描きで制作。2月9日現在、全体の三分の一程度の作画が完了しています。

アドバイザーのタナカ氏は、今回の企画に関して、水江さん作品の持ち味ともいえるアニメーション自体の動きの気持ち良さを保ちつつも、藤田さんとコンビを組むことによって作品中に少年という具体的なキャラクターを登場させ、人の心に触れるような作品にしていこうとする開拓精神に感動したことや、このような従来なかった作品を見てみたかったことが述べられました。一方伊藤氏は、物語の展開を主体としないノンナラティブアニメーションという自分自身のスタイルを確立し、すでに世界の映画祭で活躍し続けている水江さんと、広告の世界でプロフェッショナルとして活躍する藤田さんという新たなコンビで、新しいアニメーションを生み出そうとする姿勢を、心から応援したいと思われたそうです。そして、今後もさらに、お互い葛藤しながら新しい領域に到達して欲しいということでした。三上氏は、すでに様々な分野から高い評価を受けている水江さんが、その評価に甘んじることなく新しいことに挑戦しようとしているということを評価したいとした上で、コラボレーターの藤田さんに対して、「どうのように水江さんに影響を与えていこうと思っているのか」という質問を投げかけました。それを受けて藤田さんは、藤田さん自身、水江作品のファンなので、この作品を多くの人に知ってもらうために努力したいとのことでした。一方で水江さんからは、藤田さんが描いた絵コンテを、どのように自分なりのアニメーションにするかという点で思考錯誤し、それが制作に対する刺激になったというコメントがありました。様々な側面で、コンビでの制作の成果を感じられるプレゼンテーションとなりました。

―プレゼンテーションは後半に続きます。