ガラスを積層した撮影台を用いたマルチプレーン技法によるアニメーション作品で、自然の中で生きる生命を描いてきた鋤柄真希子さんと松村康平さん。新作アニメーション作品『深海の虹』では深海の神話を描いていきます。

二人を担当するアドバイザーはアニメーション作家の野村辰寿氏と東京工芸大学芸術学部ゲーム学科教授/日本デジタルゲーム学会理事研究委員長の遠藤雅伸氏です。

リアリズムとキャラクターデザインの境界

―中間面談以降、技法や画材の選定などで試行錯誤を繰り返していたという鋤柄さんと松村さん。最終面談は制作中のアニメーションのプレビューから始まりました。

鋤柄真希子(以下、鋤柄):今回はこれまでに出来た部分の動画をお見せしたいと思います。現在は、冒頭にクジラが登場した後の小イカの誕生のシーンを描いています。前回の面談でのお話を踏まえて、小イカの小ささと大きくなったときのギャップを、この誕生のシーンを伏線にして、観客に想起させようと思っています。

遠藤雅伸(以下、遠藤):映像を観た印象ですが、イカの頭が小さくないかなと思いました。

鋤柄:ダイオウイカにしては小さい、ということですか?

遠藤:子どもにしては小さい印象ですね。小イカほど頭のほうが大きくて足が短いというイメージを持っているので小さく感じたんです。

松村康平(以下、松村):ヤリイカとかだったらおっしゃる通り頭が大きくて足が小さいのですが、「ダイオウイカの幼生」であれば、こうなんだそうです。

野村辰寿(以下、野村):頭身のサイズ感もですが、目玉の大きさも少し気になりますね。普通の動物だったら、目の大きさは子どもでも大人でもそれほど変わらないですよね。顔の中の目の比率が大きいから子どもっぽくかわいらしく見えるけれど。もちろん、キャラクターデザインというよりはリアルに準じているものだから、今のような描かれかたをしているとは思うのですが。

遠藤:ダイオウイカの幼生を知っている人がどれほどいるのかを考えると、子どもらしさを表現するために、そこは除外してもいいのではないでしょうか。

野村:目を大きくすると、子どもらしさは出ますよね。途中、目がギョロッと大きくなるのは、何らかの影響で大きくなっているのですか?

鋤柄:そうですね。ダイオウウイカが手を広げて新鮮な水を入れるときに、力を入れるから瞳孔が動くと想像しました。

野村:少し怖い印象もありますね。生命感を出すのに光を浴びて光彩をキュッとしめる演出はよくやります。それが性格描写になったりもしますね。

鋤柄:瞳孔が開ききっていると何を考えているかわからないようなものが多いんです。コウイカなどは笑っているような目なんです。

遠藤:ダイオウイカの目はちょっと違うんですね。まるで人間の目みたいですね。

鋤柄:そうなんです。目が怖いんです。

松村:目はとても難しいです。僕も、これでいいのかはまだ悩んでいます。

暗闇の中で発光する表現方法

鋤柄:撮影のときにダイオウイカの目を光らせたいなという気持ちがあります。目と胴体の中心あたりが光っているような印象にしたいんです。

野村:それはスポットライトで光らせる感じを考えているんですよね?

鋤柄:今は小さいLEDを使用して、背後からの透過光で表現しています。少しずついろいろなところから発光しているように撮影をしたいと思っています。今回の撮影では、光がランダムに動きすぎたりピントが外れてしまったりしているような感じがします。

野村:離れたところからの光のコントロールを、どれだけ精度よくやるかですね。ガタつきはどうしても出てしまうので、その対策も考えないといけませんね。そして光源を真下に持ってくると直接的な光になりすぎるから、何らかの形でフレーム外から当てるようにしないといけません。LEDでほわんとした明滅がうまく出せるといいですけどね。それができなかったら、トレーシングペーパーを重ねたりして調光するくらいしかないですからね。使用しているLEDの調光はできないんですか?

松村:電子回路を作って調光することはできそうですが、もう少し調べる必要がありそうです。

完成までのタイムライン

野村:やはり、この作品の制作作業はなかなか大変ですね。

松村:大変です。

野村:今回は最終面談ですが、この作品をどのくらいの期間で完成に導くかということが課題でもありますね。難題に対して試行錯誤して方法論が見えてきましたが、まだまだ作業がありますよね。話を聞けば聞くほど、具体化しようとすればするほど、その手強さが身に迫ってきますね。3年プロジェクトになるような感じすらあるような(笑)。

松村:そこまで時間はかけないつもりです(笑)。前回の面談時よりもかなり見えてきたものがありますので。使えそうな光の種類がわかってきて、使用する画材も決まってきました。

鋤柄:作るものが決まって実作業に入ったので、ここからペースアップできるとは思います。

野村:最終的にゴミ消しなどはしなければいけないから、デジタルとのハイブリットも範疇に入れてやったほうが現実的に無駄が省ける。絶対にアナログの手描きの風合いは活かしつつ、そういったことも今後考えたほうがいいかもしれないですね。

遠藤:デジタルを使って作業が省けるところは使ったほうがいいですよね。2月の成果プレゼンテーションの時はメイキングムービーがあるといいと思います。

野村:本当は、全体の流れがわかるビデオコンテがあるといいですよね。ビデオコンテは内容を検証するためのものだから、いずれはしっかりしたものを作ったほうがいいと思います。最終的にはバランス、そしてクオリティに対する折り合いをどこでつけるかが大事だと思います。

―作品の完成を目指して制作は佳境を迎えます。次回はいよいよ成果プレゼンテーションです。