9組のクリエイターと4名のアドバイザーによる「成果プレゼンテーション & トーク」が、2017年3月4日(土)、渋谷区のPORTAL POINT GALLERYにて開催されました。
はじめに海外クリエイター招へいプログラムで招へいされた3名による滞在制作の成果発表があり、次に国内クリエイター創作支援に採択された6組のクリエイターによる本事業で制作された作品のプレゼンテーションが行われました。

その様子を3回にわたって(第一回:イヴァン・ヘンリケス、アレスィア・シュキナ、ソウゲン・チュン、第二回:金箱 淳一・石上 理彩子、久保 雄太郎、林 俊作、第三回:平川 紀道、安本 匡佑、吉開 菜央)レポートをお伝えしていきます。

今回は海外クリエイター招へいプログラムで招へいされたイヴァン・ヘンリケス、アレスィア・シュキナ、ソウゲン・チュンの3名の成果発表の様子をお伝えします。

イヴァン・ヘンリケス

ブラジルのアーティスト、イヴァン・ヘンリケスは、生態系をテーマにしたさまざまなマルチメディアインスタレーションを手掛けています。今回は2013年にニューヨークで制作したレーザーと水滴の中の生態系を組み合わせた作品『MICROSCOPIC CHAMBER』のアイデアを活かし、日本のホログラム技術を用いて微生物をリアルタイムで映し出す作品の制作を行いました。

イヴァン・ヘンリケス(以下、イヴァン):これまで、テクノロジーと自然のバランスに着目しながら作品をつくってきました。特にこの7年間は、コミュニケーションや環境とロボットなどの機械的な構造やシステムは有機的につながっているものと考えて、ロボットのような機構と有機体が結びついたような作品を開発しています。
今回のプロジェクト『MICROSCOPIC CHAMBER』は、水のなかの生態系をレーザーの光と組みあわせ、予測不能な有機体動きを映し出す継続的なプロジェクトですが、今回は新しい要素としてホログラム技術を用いました。ホログラムによって生態系のリアルタイムな映像を立体的に映し出す試みです。

日本のホログラム技術は世界でもトップクラスです。滞在中はホログラムの研究を行う物理学の専門家に相談しながら、水滴に潜む微生物を映し出すことができるかを研究しました。対象とした水源は、福島、富士山、東京の3つの地域です。地球上のほとんどの有機体は大気とともに進化してきました。そのため、環境の異なる地域を選びました。そのなかにいる微生物を映像化する仕組みとしては、レンズを使わずに、水滴そのものでレンズ効果を生み出します。レーザーを水滴に当ててできた画像を、更にハーフミラーに映し微生物の映像を投影しています。これらの作品は、3月7、8日に港区のブラジル大使館で展示します。

畠中実(以下、畠中):イヴァンさんの活動は、興味の対象に非常に長い時間をかけて制作している点に関心をもちました。第18回文化庁メディア芸術祭で展示した作品『Symbiotic Machine』は、微生物を用いた持続的な機関をどのようにつくっていくかという試みでしたが、このプロジェクトも大きなビジョンがありますね。今回はその関心のなかから微生物を実際に見て、体感的、空間的に感じ取るアイデアに基づいています。一般的に微生物は顕微鏡を通さないと見えませんが、顕微鏡を通すことで身体的距離ができてしまう問題がありました。あえて大きく映像インスタレーションとして見せることで、例えば自分たちが小さくなるという感覚を想起させる点が面白いです。

遠藤雅伸:ハーフミラーを使ったホログラムは安価でつくれるため、これから増えていく表現だと思いますが、決して思い通りにならない微生物をモチーフにしている点が面白いと思いました。日本でのホログラムの研究者との交流が成果に結びついたようで良かったです。今後の活躍も期待しています。

イヴァン:ホログラムの研究開発は日本、アメリカ、カナダの3国が最先端ですが、なぜ日本を選んだかといいますと、日本は多様な種類の開発が進められているからです。私が一番関心を持っているものは、私たちがお互いにほかの生命体とどう相互作用しているかです。ほかの生命体を体感的に感じられるようになり、その知識が社会に広がることが理解につながると考えています。

アレスィア・シュキナ

ロシアとフランスを中心に活動するアニメーション作家のアレスィア・シュキナ。今回の滞在では手紙を交換する男女と手紙を運ぶ郵便配達人をモチーフにしたアニメーション『L LETTERS』の制作を行いました。50日の滞在ではリサーチを重ねながら、アニメーション制作で最も大事な部分でもある、ストーリーを練り、ストーリーボードを描く作業を中心に取り組みました。

アレスィア・シュキナ(以下、アレスィア) 『L LETTERS』という新しいプロジェクトは、ある男女の手紙交換の間に郵便屋さんが入り、違う手紙に代えて届けてしまう設定で、嘘と真実の両方が隠された物語です。

最も困難だったのは、手紙の中身をアニメーションにおいてどう表現するかということでした。私の作品にはセリフがなく絵と音で表現します。そのため、手紙の内容をモンスターに置き換えて表そうとしました。そのモンスターに手紙に込められた感情を表現してもらうのです。しかし、絵コンテを作成してもうまくいきませんでした。モンスター自体が現実なのかどうかも曖昧になり、わかりづらくなりました。それで郵便屋さんを人ではなくハエに置き換え、そのハエが手紙を届ける設定に変えました。手紙に含まれた感情は抽象的な絵や音で表現する予定です。

ハエの郵便屋さんは人の言葉を話すことができませんが、話や文章の内容を理解することができます。女の子からのラブレターを男の子に届けていたハエは、あるとき好奇心から中身を覗いてしまいます。たびたび手紙を覗いては2人の恋路を見守るハエでしたが、女の子からの別れの手紙に気づいたとき、手紙の中身を変えて届けます。男の子を喜ばせたい一心で行った行為から、嘘を繰り返すことになる……というストーリーです。

手紙を表現する絵はさまざまなコンポジションで表現しようとリサーチをしています。現在は全体のストーリーを考える一番重要な時期で、その後アニメーションの制作に入ります。日本では、ストーリーを考えただけではなくビジュアルアーティストの方々や、イラストレーションの展覧会にも足を運ぶなど、さまざまな刺激を得ることができました。

野村辰寿:文字を使わずに手紙の感情を伝えなくてはならない点が考えどころですね。抽象的なイメージで感情を描くという今回のアイデアはすごくいいと思います。アレスィアさんの作品は今までの作品もポップでかわいいので、ハエのキャラクターのような、人以外のキャラクターが入っても良いと思います。登場人物が郵便屋のハエと人だけというのも良いですね。
ただ、ストーリーはさらに練る必要があるかもしれません。例えば、人間とは違うハエならではの能力があると良いのではないでしょうか。例えば、手紙を触った瞬間に中身がわかるようなファンタジーの要素も入れてもいいかもしれません。手紙の中身も抽象的なだけではなく、より具体的なシーンを描くと、見る人に内容が伝わるかもしれません。日本には「因果応報」という言葉があります。簡単に言うと、悪いことをすると悪いことが返って来るという意味ですが、小さな罪を犯すハエにも温かなオチがみつかるといいな、と思って楽しみにきいていました。

アレスィア:ありがとうございます。ストーリーがまだ生の状態なのでこれからもっと改善して、より具体的なものにしていきたいと思います。

ソウゲン・チュン

カナダに生まれ、中国で育ち、現在はニューヨークで活動するアーティスト、ソウゲン・チュン。彼女は近年、人間とコンピューターの相互作用を理解するアプローチとして作品を制作しています。日本滞在中は以前制作した『Drawing Operations Unit: Generation 1(ジェネレーション1)』の発展型として参加者とロボットが協創することを目的に据えた「ドローイングの記憶」を構築するプロジェクト『ジェネレーション2』を展開しました。

ソウゲン・チュン(以下、ソウゲン):今日は東京に滞在してだいたい50日です。この期間、非常に貴重な研究をし、新しい作品を手掛けることができました。私はこれまでは空間やスペクタクル、また美とフォルムなどをテーマに取り上げてきました。そして近年はテクノロジーとクリエイティビティとの壁に興味をもっています。コンピューターとは一体何か。中国ではコンピューターは「電脳」つまり、電気的な脳と訳します。脳、つまりコンピューターの知性であるAIそのものにアプローチした作品を制作しています。

昨年の第19回文化庁メディア芸術祭で受賞した『ジェネレーション1』は人間とロボットアームがコラボレーションしてドローイングを描く作品です。私がドローイングを描く動きをロボットが記憶し、二つの手で描いていきます。この作品では人間の描画の上にロボットが描き、ロボットが人間の描画を覆っていくという相互作用が起こっています。

そして今回取り組んでいる『ジェネレーション2』では「記憶」をテーマに、ロボットはどのように記憶するのかについて実験をしました。「TensorFlow(テンソルフロー)」というオープンソースのAIのライブラリを用いて、他のアーティストや日本の書道、古美術など私自身が取材したデータベースによってドローイングを行います。『ジェネレーション2』はまだ実験中ですが、学習すればするほど独自の表現が生まれてくるでしょう。

人間とマシンは一緒に進化していくものです。どうしたら人間と違う動きをつくっていけるかに興味があります。人間とマシン。ここから何が生まれていくのか、現在の試みは歴史的に見てもユニークだと考えています。

畠中:最初のシリーズの作品では、画像解析プログラムを使って人間の動きを模倣するというもの。次の作品ではそれから一歩進んで人間とAIによる未知のクリエーションを試みたわけですね。AIは、いま色々と研究されていますが、最終的にどこに向かっているのかという問題があります。囲碁の対戦でどちらが勝つかといった知恵比べではなくAIは何を見ているのか、というのが、ソウゲンさんの作品だと思います。つまり人とAIがどのように協働したら、人間だけでは実現できなかったアートフォームができるのか、ということです。人間とAIがお互いに何を見ているのかという視点が面白いです。どんなものが見えてくるのか楽しみです。

伊藤ガビン:非常に面白く拝見しました。色々な論点から語れると思いますが、見ているだけでインスピレーションを与えられる作品です。AIや機械学習を用いた作品は、人間との違いが強調されることが多いですが、チュンさんの最初のドローイング『ジェネレーション1』の作品では、まるで2人のアーティストがコラボレーションしたドローイングに見えます。それはでき上がったイメージに対して解析するのではなく、できあがるプロセスにアプローチしていることが面白いなのだと思います。

ソウゲン:今回の滞在で、今日のように色々な方々との対話の機会が持てたことが貴重な経験となりました。ありがとうございました。

―次回は金箱淳一さん+石上理彩子さん、久保雄太郎さん、林俊作さんの成果発表の様子をお伝えいたします。