島根県を拠点に活動しているアニメーション作家の土屋萌児さん。文化庁メディア芸術祭では、ミュージックビデオ『青春おじいさん』が第20回アニメーション部門で審査委員会推薦作品に選出されています。今回採択された企画は、日本の感覚の一つである「主体と客体の曖昧さ」を軸に『耳なし芳一』を描く短編アニメーション。亡霊や幻などの実態のないものが現実にもたらす影響について思考を巡らせる作品です。

アドバイザー:森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手)

見えるものと見えないものが転じていく世界観

土屋萌児(以下、土屋):今回は、ストップモーション(コマ撮り)の技法を使って民話の『耳なし芳一』をモチーフにしたアニメーション作品を制作します。『耳なし芳一』からサイケデリックな要素を抽出して、世界中のどんな人が見ても、そのイメージが伝わるようにしたいです。物語のポイントは、目に見えないものと見えるものの関係だと思っています。「亡霊」が和尚さんには見えず盲目の芳一には感じることができたり、体にお経を書くと亡霊には芳一が見えなくなったり、最後に亡霊が芳一の耳を取ることで亡霊の存在が誰の目にも分かったりすることなどが興味深いです。
音楽は、電子音楽家のSUGAI KENさんと協働して制作する予定です。音楽と効果音の境界を曖昧にしながら、アニメーションと同期できたらいいと思っています。

森まさあき(以下、森):音楽は先に録るのでしょうか、それとも後から当てるのでしょうか。

土屋:どちらが先でもなく、同時進行でのアプローチを試したいです。序盤の音楽は僕がつくったのですが、彼に頼める部分も探して、まずはそこをやってもらおうと思います。その間、僕は中盤の映像をつくりながら、彼にも中盤のあらすじを伝えて、音楽をつくってもらう、という流れを考えています。

森:最近のミュージックビデオの制作方法では先に音楽があることが多いですが、昔は絵が先にできていて、それを見ながら音をつくっていく作品が多かったといえます。『トムとジェリー』(1940〜)などのミュージックエフェクトもそうしたつくり方で生まれています。仮にでも先に絵をつくっていく方が音楽もつくりやすいような気がします。

実在した琵琶法師を研究対象にする

山川冬樹(以下、山川):日本で最後の盲僧で琵琶法師である、永田法順(ながた・ほうじゅん/1935〜2010年)さんをご存じでしょうか。実は、土屋さんのアニメーションを見たときに法順さんのことを思い出しました。宮崎県延岡市の天台宗浄満寺の住職だった方です。檀家さんのお仏壇の前で琵琶を用いて祈祷していました。僕は何度かお会いしたことがあります。
今回は海外での発表も視野に入れているので、リサーチが重要になるのではないかと思います。史実や文化的なディテールを大切にすることで、作品の奥行きが感じられるはずです。法順さんの資料は現在入手しにくくなっているので、もしお貸しした方がよければお送りします。土着的な文脈とうまく融合していくと、いい方向にいくのではないでしょうか。

土屋:お借りできたら嬉しいです。自分でもリサーチをしたいと思っていましたが、どこから調べてよいかという点でヒントもなかったので助かります。
今回、作中にあまり言葉は入れないつもりです。実際に歌える人を探すことや、『平家物語』の「語り」の編集などに難しさを感じたからです。それよりは感覚的に見せた方がいいと思ってそういう表現にしているのですが、同時に、それでいいのかという思いがあります。外国人に物語が伝わりにくいかもしれないとも思います。

山川:『平家物語』は語りがメインですよね。弾き語りのできる人を探す手だてはありますが、すぐに思いつく限りでは女性が多いです。今はどのようにして琵琶の音をつくっているのでしょうか。

土屋:小さいギターのチューニングを変えて、琵琶の音を想像しながら自分の感覚で演奏しました。ただ、自己流で完結してしまうと伝わらない部分も出てきそうだと感じています。

山川:プロの琵琶の演奏家に協力してもらうのもいいかもしれませんね。声色の使い方の近い、浪曲師に協力してもらう方法も考えられます。音だけなら琵琶奏者に弾いてもらうこともできますが、「語り」が欲しい場合に、芳一らしい肉声の人を探すのは難しいかもしれません。イメージが自分のなかにあるなら、ご自身でやる方法もあります。

森:ご自身でやるのと、プロにお願いするのと、両方試してみるのもいいのではないでしょうか。

土屋:『耳なし芳一』のなかで芳一は琵琶の名手として描かれるので、琵琶の演奏は上手い方がいいのかもしれません。ただ、より感情に訴えるような崩し方があっても良さそうです。平家物語をアニメーションにするにあたって、実際の平家物語とは何か違う表現が生まれるといいと思います。もしかしたら琵琶ではない音が入ってもいいのかもしれません。琵琶の音色は序盤の音楽的なつかみになるので、しっかり検討したいです。

視覚的な効果の検討

森:絵についてお聞きしますが、土屋さんは最初から切り絵でアニメーションをつくっているのですか。

土屋:はい。美術の専門学校を辞めた後、しばらくさまざまな表現を試したなかで、ビデオカメラで短く録画するとストップモーションフィルムのようにできることに気付き、自宅でアニメーションをつくったところから始まっています。まず切り絵でやってみたのがそのまま続いているという感じです。

森:「切り絵パワー」とでも言うべきか、絵をとにかく描いて切って重ねて動かそう、という力を感じます。つくりたいという思いが、それこそ怨念のように込められているところがとても貴重だと思うので、これからも作品のなかでそうした部分は失わないようにしてほしいです。

山川:土屋さんは、目に見えない世界を可視化する力が強いと僕も思います。見えることと見えないことが今回の作品テーマとのことなので、音も効果的に使えるのではないでしょうか。例えば、アニメーションでめくるめく世界を描いた後に、真っ黒にしてしばらく音だけの状態にして視聴者の妄想をかき立てる、ということもできそうだと思いました。

土屋:今回のアニメーションの見せ方として、暗闇を使うのは興味深いです。芳一がお寺で亡霊を待っている時間は、孤独で不安な内面を描写していくことになると思います。亡霊とのやりとりが本当なのか嘘なのか分からないような場面で、現代的なアプローチができたら、と思います。

森:『耳なし芳一』は興味深い題材だと思います。昔と現代との時空を超えるといった、昔話の枠からはみ出したアイデアが、これからどのような表現となって映像化されていくのか楽しみです。

―今後は、リサーチを進めながら、SUGAI KENさんと共に音楽の方向性を探り、アニメーションの制作を進めていきます。