人工物、AI、人間がせめぎ合う「庭」を作庭する花形槙さんの作品『A Garden of Prosthesis』。庭の中での自らの身体を使ったパフォーマンス、およびインスタレーションとして2022年以降国内外で展開している本シリーズの新作制作が採択されました。キメラ的空間となる庭を構成するオブジェクトは多岐にわたり、FabCafe Kyotoのレジデンスをきっかけに制作することになった義肢も重要なパーツです。目下、2023年9月16日(土)からの開催が迫った「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」のための『A Garden of Prosthesis』発表準備にいそしむ花形さんが、主催者との間で起きた意志疎通の難しさについてアドバイザーと語りました。

アドバイザー:山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)/モンノカヅエ(映像作家)

初回面談:2023年9月12日(火)

樹木とつながる肉体をヌードで表現したい

花形槙さんが直近のプロジェクトとして取り組んでいるのが、パノラマティクスの齋藤精一さんがプロデューサーを務め、9月16日(土)から11月12日(日)の会期で開催される「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」での作品発表です。主催には奈良県の紀伊山地にある吉野町、下市町、下北山村といった自治体が名前を連ね、世界遺産や自然の中を歩いて作品を鑑賞する芸術祭となっています。花形さんが「樹木とつながる肉体を表現したい」と、ヌードでのパフォーマンスを企画したところ、主催側の反対にあったこと、さらに肌色の着衣を提案したところそれも却下され、企画が中止になった経緯を説明しました。

アドバイザーの山川冬樹さんは、主催者から具体的な懸念点をヒアリングし、創造性を守りながら作家側からの歩み寄りの提案が必要だと言います。例えば芸術祭の鑑賞以外の目的でそこを訪れるハイカーらに向けては、事前の周知に努めたり、パフォーマンスのエリアを一定時間内だけ囲ってゾーニングできないかなど、問題を交通整理しながら粘り強く着地点を探ることを提案します。

アウトプットの選択肢を探す

アドバイザーのモンノカヅエさんからは、作品の発表形態の提案がありました。実際に観覧があるときは着衣でのパフォーマンスをし、それと別にフィルミングの許可を取ってヌードかそれに近い形での作品化もやりきる。国際ダンス映画祭のような映像作品の出品先もあり、特にオランダではコンテンポラリーダンスがいま活況で、インスタレーションと組み合わせたダンス表現を見せる場がいくつか用意されていると言います。

さらにパフォーマンスの実現許可をとれるほかの山を近隣で探して、そこへの移動の体験を込みで鑑賞者に楽しんでもらうなどの提案も。作品にとって裸の身体が重要なメディウムになっているとし、アイデアを生かすアウトプットの方法を探し続けるよう励ましが続きました。

右上から、山川さん、モンノさん、花形さん

アーティストの言葉が「危険」と思われるとき

今回のヌードでのパフォーマンスに限らず、作家の発想が時に社会の規範と衝突する局面は起こりえます。動植物、人工物、AIなど、異質なモノ同士を渾然一体にリミックスしていく『A Garden of Prosthesis』が持つ性質を、「まぜるな危険」と山川さんは形容します。「ふだん理性によって区別されているものが一緒になるときに生まれる不可解さを人は危険なものとしておそれるもの。でもそういう根源的なおそれの感情に触れるということは、それだけ作品が本質を突いているということでもある」。発生する警戒心を解いてもらうため、山川さん自身も特に地方での作品制作には、地域の人たちとの関係構築に多くの時間と労力を注ぐと言います。花形さんは海外でのパフォーマンスではヌードに寛容な事例を経験していると報告し、作家の調整のみではなく美術館や主催者が受け入れる土壌が生成されることに期待を寄せます。

科学技術館での「EASTEAST_TOKYO_2023」における『A Garden of Prosthesis』のパフォーマンス

また、庭のオブジェクトの一つとなる義肢の取り扱いにも指摘がありました。花形さんの意図は、障害をもった身体と社会の折衝の象徴として義肢を取り上げ、社会に定義された「正常な身体」の是非を問うこと、と明快ですが、それはアーティスト側からの一方的な言葉ともいえます。義肢が障害をもった人の身体機能を補うアイテムとしてつくられた経緯を踏まえると、日常的にそれを使う当事者にもきちんとコンセプトが伝わることが重要なのではないか、との指摘もありました。それを受けて「粘り強く言葉を相手に渡していき、最初は伝わらなくてもやがて理解してもらえることを諦めない」との姿勢が花形さんから強調されました。

モチーフを掘り下げる

義肢には、福祉や障害、戦争といったイメージが紐付いています(*1)。関連するテーマをリサーチすることは作品の強度を高める上で有効ですが、庭もまた深いモチーフだとし、掘り下げることが提案されました。花形さんがすでに参考にしていたのは美学者による作庭理論書『庭のかたちが生まれるとき 庭園の詩学と庭師の知恵』(山内朋樹、フィルムアート社、2023)でした。山川さんはハンセン病療養所でのフィールドワークから、隔離された人々が、強制的に連れて来られた本来自分の場所ではないその土地を「再領土化」するために庭づくりが重要な手段となったという事例を紹介。花形さんがつくる庭は、理想郷なのか、領土なのか、宇宙なのか……。花形さんからは「自分の作品は世界の外部に鑑賞者を連れて行きたいという発想でしたが、今の話を聞いて島宇宙的な外部を庭としてつくっているような、地と図の反転した理想郷を想像しました」と感想が語られました。

→NEXT STEP
今後のスケジュールの中に、作品のイメージを通すためのプランを組み込む

*1 義肢が発達したのは世界大戦期間。戦傷による切断者が発生したことが背景にある。