体内に共生しているクロレラの影響で、光に集まるように動くミドリゾウリムシの生態に着目した川田祐太郎さんのプロジェクト。人間がミドリゾウリムシと共生しながら、その活動を観測できるメディアを開発中の川田さんですが、最終面談ではその研究的な側面を、どう展示で一般来場者にアプローチするかについて、多くの意見が交わされました。プロジェクトの射程や作者の志向性を生かしながら、どのようなプレゼンテーションを行うのか。最終面談ではその解決のための方策が話し合われました。

アドバイザー:原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)

最終面談:2024年1月12日(金)

現段階の構想について

光に集まるミドリゾウリムシは、置かれた環境によって生態が変わる生物です。自然環境では日中に活動をしますが、屋内の場合、居住者が夜型の場合は夜に活発になるといった違いが現れてきます。そんな人間とミドリゾウリムシの共生がテーマになっているこのプロジェクトですが、具体的な提示の仕方に関して、川田祐太郎さんは次のように現状の構想を話します。「ライトシート上のミドリゾウリムシを光で照らして、動いている様子を提示しようと思ったのですが、LEDでは光源として弱く、きれいに見えなかったので方向性を模索しています。また、人にわたすキットに関しては、人によってカスタマイズできる余地を残しておきたいと考えています。例えば人によっては光ではなく音でミドリゾウリムシの動きを知らせてくれるような形もありうるんじゃないかと思っています」。

開発中のメディア

このような現状報告に対して、アドバイザーの山川冬樹さんは、キットをわたされる参加者はどのような人を想定しているのかと尋ねます。川田さんはそれに対し、知人作家などすでに一定のスキルを持っている人に渡すことを想定していると答えます。それを受け、同じくアドバイザーの原久子さんは、そうした人だと受け取った人が作品の意図を深読みしてしまい、素の状態で体験してくれないのではないかという危惧を伝えました。山川さんも「キットを渡すのは必ずしも理系の研究者ではなく、文化人類学者やミュージシャンのように、その人の専門性によっていろんなフィードバックが得られる人にお願いしたほうが面白いんじゃないかな」と意見を述べます。

研究的側面をどう生かすのか

面談では展示でのプレゼンテーションを念頭に置きながら、さらに議論が重ねられました。原さんは展示に際してはキットをつくると時間がかかってしまうため、「何パターンが並置する」ことで、それぞれの、異なる時間が示せるのではないかと助言します。研究的な性格も有している川田さんのプロジェクトですが、山川さんはそうした方向性を尊重しつつも、プロジェクターで大きく投影したり「見る人をアトラクトする」ようなプレゼンテーションも、使えるなら使ったほうがいいとアドバイス。原さんも、顕微鏡を覗いてミドリゾウリムシを来場者が直接肉眼で確認できるのもよいかもしれないと述べ、体験として面白さをどう担保するのかについてブレインストーミングが行われました。

原さん

こうした見せ方に関連して、今後作品を展示する際に川田さんがデモンストレーションをしたり、ゲストを招いて対談などをするアイデアも出て、作品のアカデミックな側面や、川田さんの取り組みに来場者を引き込んでいくためにはどうしたらいいか、その構想が語られました。

時間の概念を拡張する「時具」

川田さんは作品のコンセプトを伝えるための言葉として「時具(じぐ)」という言葉を造語しました。これは加工や組み立ての際、作業を補助するクランプ(万力)などのことを指す「治具」から発想されたものです。この言葉は、ミドリゾウリムシを使って人間の時間の使い方を生物との共生によって表現するプロジェクトの性格を表現し、時間の概念をより広く捉えるために考えられました。

川田さんはこの言葉を実際に使用するかは検討しているといいますが、山川さんはこのように自ら言葉を生み出していくアプローチを肯定的に捉え、その理由を、「キットを使って参加者のコミュニティやコミュニケーションをオーガナイズすることも川田さんの役割だし、そういったことも含む作品になるといいんじゃないかな」と語ります。さらに山川さんはミドリゾウリムシを繰り返し扱ってきた活動の一貫性を評価し、川田さんの視点を通して見えてくる世界、ビジョンに対する期待を述べ、最終面談は終了しました。

面談の様子

TO BE CONTINUED…
さまざまなアプローチを検討しながら、作品のビジョンに参加者、鑑賞者をどう引き込んでいくのかを考える