コンピュテーショナル・アート&デザインのリサーチと実践を中心に、領域横断的に活動する堂園翔矢さん。採択されたのは、宇宙科学・工学を専門とする衛星軌道設計の研究者との協働による、「軌道芸術」をテーマとしたプロジェクトです。最終面談では、対象とするデータの可視化と可聴化のデモを共有。作品像が具体的に見えたことで、その鑑賞に必要なプロローグの存在も見えてきました。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/森田菜絵(企画・プロデューサー)

最終面談:2024年1月16日(火)

可視化し可聴化し、さらに可視化する

中間面談にて、「可視化」から「可聴化」へと軸足を移すことを示した堂園翔矢さん。最終面談の冒頭で共有したのは、可聴化のための一つのプロセスとして可視化された映像です。黒い背景の上に、無数の白い光がそれぞれに軌道を描きます。可視化の対象にしたのは、コラボレーターであるJAXAの尾崎直哉さんによるプロジェクト「Astromine」による、60の小惑星と、それらを探査する12の探査機の軌道データです。太陽と地球の位置を固定した状態で、小惑星と探査機の動きを可視化しているといいます。

「これをもとに、地球、探査機、小惑星の三者の関係を可聴化し、干渉やモアレを表現したい」と堂園さん。距離や方向性など、さまざまな値をパラメーター化して試作中という、可聴化のデモも再生しました。

可視化から可聴化のプロセスを踏んでいる本プロジェクトですが、堂園さんはさらに、可聴化したサウンドをもう一度可視化し、ビジュアルとサウンドによるインスタレーションをつくる構想を抱いています。作品の発表予定は3月。インスタレーションとしてどう見せるかはまだ検討中とのことで、複数のプランが提示されました。

可視化された軌道の映像に、さまざまなパラメーターの数値が重なる

インスタレーションにプロローグを

本プロジェクトがテーマにする宇宙やその研究は、アドバイザーをはじめ、多くの人にとって未知の領域です。太陽と地球の位置を固定するという実際とは異なる座標系での表し方も、宇宙科学の分野では基本的な手法だそうですが、アドバイザーの森田菜絵さんは「私たち異分野の人間にとっては新鮮で驚きがある」と評した上で、それが研究においては基本的な見方であることや、実際の動きとは異なることを鑑賞の前提として伝える必要性を説きました。アドバイザーの石橋素さんは、「ライゾマティクスも説明が足りないとよくいわれます(笑)。どこまで説明するかしないか、線引きは難しいですが」とクリエイターのジレンマに寄り添いながら、抽象度の高いインスタレーションの導入として、今回の可視化映像などを含めて、プロジェクトの背景や前提を説明するプロローグを設けることを提案しました。

面談の様子

音の生成も大きなテーマになりうる

サウンドデザインを専門家へ依頼予定としながらも、音のイメージや方向性の共有が難航している様子です。まずはシステムを構築し、音はサイン波のみで仮につけているとのこと。

「音源でガラリと雰囲気が変わります。音楽であればビートの有無などオーダーも出しやすいものの、音響となるとイメージの共有が難しい」と石橋さん。自身のプロジェクトでは、データからの生成だけで音をつくることは珍しく、ビジュアル先行で音は恣意的につける場合が多いといいます。森田さんは「一度全部自分でやってみるのもいいと思います。音のつくり方は目に見えないので、作品を扱う立場の人も含めて多くの人にとってブラックボックス化している気がしますし、音をどうつくるかは長期的な大きなテーマになるかもしれません。尾崎さんが機械学習で軌道設計を行ったように、音を生成する独自の手法が見出せるといいですね」と期待を込めました。

石橋さん

宇宙のイメージは人がつくっている

音のイメージの話から派生し、「NASAが出しているような、我々がよく目にするカラフルな宇宙のビジュアルイメージも、色味などは実は恣意的につくられているそうです」と森田さん。NASAがつくるビジュアルは劇的で、一方、日本のJAXAや国立天文台によるビジュアライゼーションは比較的ストイックで洗練されているものが多く、それぞれの趣味が表れているといいます。1月末にNASA訪問を控える堂園さんに、「さまざまな音源でサンプルをつくり、NASAとJAXA、双方の研究者に、どれがしっくりくるか意見をもらうのも面白いかもしれない」と、恣意性を利用する提案もなされました。

NASAの研究者たちとの接触を経て、本プロジェクトは今後どのような軌道を描くのでしょうか。期待は高まります。

森田さん

TO BE CONTINUED…
NASAでの研究者へのヒアリングを経て、可聴化、可視化を進める