CGアニメーションによってフォトリアルな架空の風景をつくった原田裕規さんの2021年の作品『Waiting for』。100万年前、あるいは100万年後の地球をイメージした33時間19分に及ぶその作品シリーズを平面作品に翻案する本プロジェクトは、初回面談以降、進行する中で変化してきました。原田さんが「フィジカル化」と言い表す行為が何を指し、何を目指すものなのか。アドバイザーとともに掘り下げながら、本プロジェクトの行方を考えます。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/西川美穂子(東京都現代美術館学芸員)

最終面談:1月22日(月)

展示環境で変わる作品の受け止め方

中間面談では、作品のメディアを版画から絵画へ変更することを示した原田裕規さん。現在はCG制作の分業体制を整えながら、絵画制作を人に依頼する準備を進めているといいます。また、本プロジェクトのベースとなる映像作品のシリーズは展示の機会に恵まれ、さまざまなトライアルをしている様子です。「ATAMI ART GRANT 2023」(2023年11〜12月、熱海市、以下ATAMI)で実施したビルの一角でのインスタレーション展示はこれまでで一番理想に近い形の展示だったとし、一方、1月に大阪のホールで行った約40分のスクリーン上映は、「身体的な拘束がより否定的に感じられた」と、同じ作品でも展示環境で受け止め方が変わることを実感したと原田さん。その体験を受けて、本プロジェクトにおける作品の「フィジカル化」や「絵画」について再考中といいます。

「風景画を美術館の開館から閉館までずっと見ていたことがあります。そういった絵画の鑑賞体験と、映像的な没入体験とを併せ持つプロジェクトにしたい」と原田さん。

ATAMIでのインスタレーションの様子と、大阪でのスクリーン上映の様子

プロジェクトの背景を見せる

2月の成果プレゼンテーション展では、ATAMIの展示で使用したのと同サイズのモニターを設置する予定です。初回面談以降、原田さんの思考の変遷を聞いてきたアドバイザーの西川美穂子さんは「作品のつくられる過程に立ち合えた」と喜びを振り返りつつも、その上で「例えば、プロジェクトの当初は没入への批評性が含まれていましたが、今は逆に、没入できるものをつくろうとしていますね」と指摘。「直接お話を聞けば、絵画ってそういうものだよね、と私は納得できますし、根っこが変わっていないこともわかるのですが、見る人は変化の背景や理由を知りたくなるのではないでしょうか。今後の発表のプロセスでは、原田さんの思考のプロセスを伝える場面が必要になるかもしれません」と、プロジェクトの変化で見えにくくなった要素の補足の必要性を説きます。それはこの半年の成果をどこに見出すのかという問いでもあるのかもしれません。

面談の様子

「フィジカル化」を解きほぐす

CG映像を絵画化するなどの方法で、作品に物質性を付与し「フィジカル化」を目論む原田さんですが、絵画制作を人に依頼するにあたり、どこまでコントロールするべきかなど、線引きに悩んでいるといいます。アドバイザーの石橋素さんは、原田さんが求める「フィジカル化」は手描きの絵画化とは少し違うところにあるのでは、と疑問を呈します。「理想に近かったというATAMIの展示には、3面のモニターやホワイトキューブでない特徴的な展示空間など、物理的な要素がたくさんあります。原田さんが求めているのは、フルCGによる架空の景色を描いた『Waiting for』シリーズに、その対極としてのフィジカルな何か、あるいは物質性を入れ込むことなのかなと思いました」と、すでに実現しているインスタレーションに、自身が求める「フィジカル化」のヒントがあることを示唆します。「絵画をずっと見ていた、というエピソードがありましたが、なぜ自分自身が絵画に惹かれるのか、見続けてしまうのかという問いがあり、原田さんはそこになにかしらの物質性が関係していると感じられたのでしょうね」と西川さんからもコメントがありました。ATAMIのインスタレーションでは、映像作品『Home Port』が縦位置のモニターを三つ用いて空間中央に設置され、その様子は襖絵のようです。西川さんはさらに「モニターを使ったタブローのよう。映像を、どこでも機能するタブローにできるか。それが原田さんの試みなのかもしれません」と加えます。

左から、西川さん、石橋さん

成果プレゼンテーション展をトライアルの場に

モニターのサイズなど物理的な条件を重要視する原田さんに、「展示では、さまざまなサイズのモニターを使ってトライアルをしてみるのもいいと思います」と石橋さん。アドバイザー両氏は「完成作品の発表にこだわる必要はない」として、成果プレゼンテーション展が本プロジェクトにとって有益な場になることを期待し激励しました。

TO BE CONTINUED…
成果発表の場を活用し「フィジカル化」についての思索を深め、プロジェクトをかたちにする